近年、中小企業や小規模企業者の間で、後継者不足などの理由により事業の廃業を検討せざるを得ないケースが増えている。そんな「惜しまれる廃業」を防ぐ有効な策の1つとして注目を浴びているのが、事業を第三者に譲渡する中小規模企業のM&Aだ。
事業者間に広がる深刻な後継者不足
後継者がいない等の原因で廃業を検討している中小企業や小規模企業者数は、年々増加傾向にあるという。帝国データバンクがおこなった2017年版「後継者問題に関する企業の実態調査」によると、売上規模が1億円未満の小規模事業の後継者不在率は78%にのぼる。
同じく2017年に中小企業庁がまとめた調査によると、小規模法人や個人事業者が事業の廃業を検討してする理由には、後継者を確保できない、一代限りで廃業予定、高齢のため、技能の引継ぎができないなど「何らかの理由で事業を次代への引継ぎが困難」な場合が上位を占めていることが分かった。
後継者不足の主だった理由は、事業者の高齢化や少子化などである。帝国データバンクが調査した2018年版「全国社長年齢分析」によると、社長平均年齢は59.5歳で1990年以降上昇しており、特に年商1億円未満の企業で高齢化が顕著となっている。加えて少子化などで身内への事業承継が難しくなったことも原因の1つだ。特に地方では後継者確保が難しくなっている状況が顕著である。
苦労して築き上げてきた事業を継ぐ者がいないため廃業するのは、非常に残念なことだ。黒字事業の場合はなおさらである。また、廃業によるさまざまなデメリットも危惧される。
廃業によるデメリット
廃業にはさまざまなマイナス面が付きまとう。例えば廃業することで経営者は事業収入を絶たれ、廃業後の生活資金への不安が発生する。失業する従業員とその家族の生活にも支障が出るだろう。また中小企業庁の調査によると、多くの事業者はやりがいをなくすことによる心理面の不安も抱えるという。
廃業の影響は単体の事業にだけではない。取引先や顧客への影響はもとより、最悪のシナリオを考えると連鎖倒産などもありうる。商店街など地元の経済活動に悪影響を及ぼす可能性もある。
後継者が見つからない事業主の多くは、これらのマイナス影響を憂慮しながらも、廃業を考えざるを得ない状況となっているのが現状である。
「廃するより売る」を選ぶ 中小企業M&Aのメリットとは
このような後継者不足による「惜しまれる」廃業に歯止めをかける手段として、M&Aによる第三者への事業譲渡が注目を集めている。ここで留意したいのは、中小企業のM&Aは、ニュースなどから「大量リストラ」や「敵対的買収」などを連想させる一部M&Aのイメージとは、大きく性質が異なるという点だ。
中小企業のM&Aは事業の承継や整理、人材不足などの問題を解決するために行われるケースが多いため、売る側の事業主が一番に懸念する従業員の雇用確保や処遇に対して、最大限の配慮がされるのが通常である。
M&Aによる第三者への譲渡を選択した場合、事業主は事業を売る事でその後の生活資金を得ることができ、従業員やその家族の生計も維持することが可能となる。取引先や顧客への影響も最低限に抑えることができるだろう。
このように中小規模事業のM&Aは、惜しまれる廃業を減らし事業を継続する有効な手段となり得るのだ。
譲渡を選択した場合にすること
M&Aに関する知識や情報量の不足などから、廃業せずに事業を譲渡できるチャンスを生かしきれない事業主は多くいる。またM&Aでは、専門的な監査に基づいて正当な市場価値を行う必要などもあるため、まずは専門知識を有する信頼できる相談相手を探し出す必要がある。
近年、各自治体には「事業引継ぎ支援センター」に中小企業のM&Aを公的に支援する窓口が設置されている。民間のM&A仲介会社も多数あり、中小規模企業のM&Aに特化した仲介会社も多くある。官民問わず初期相談には費用がかからないことが一般的なので、まず相談してみることが最善だろう。