人民日報国際版、環球時報のネットメディア「環球網」は、「人工知能(AI)時代、伝統メディアの新聞はいかにして主導権を確保すべきか」という記事を掲載した。

従来の新聞はデジタル化の最中にある。一方販売面では“死の谷”がそこまで迫っている。新聞社は、自身のAI需要と使用範囲をはっきり定義しなければならない。これまでのようにニュース業界に君臨する唯一の方法は、今すぐこれを実行することしかないという。中国の新聞業界について展望してみよう。

中国の新聞業界は“死の谷”に

中国経済,AI,メディア
(画像=PIXTA)

まず新聞業界の置かれている状況からみていこう。中国の新聞販売価格は低く、主要な収益源は広告である。その新聞広告費は、2012年以降マイナスに転じている。そして2017年には、何と32.5%も下降した。たしかに新聞は年を追うごとにペラペラになっている。

もちろんこれは読者数の減少に依る。新聞閲読率というデータがある。これも2012年から急速に下降を始めた。2012年には60%以上あった閲読率は、2013年に53.9%に下がり、2017年にはたった30.4%になってしまった。

2016年の段階で、全国には1894種の新聞がある。クラス別の印刷部数データは以下の通り。

(印刷部数/前年比)
全国紙 78億7600万部/-0.85%
ブロック紙(省級)185億5700万部/-11.56%
地方紙(都市級) 124億9300万部/-10.76%
コミュニティ紙 8100万部/-3.21%

となっており、全体では9.31%のダウンである。印刷部数と発行部数、販売部数との関係はわからない。しかし新聞用紙の価格は暴騰しているため、意外に実数に近いとも思える。しかしいずれのデータを見ても、死の谷はもうすぐそこのようである。

ソーシャルメディアの改革

記事は改革への提言に満ちている。記者は取材を徹底して行い、真実とその背景を探る。これが担保される限り、新聞の著述は、如何にソーシアルメディアが発達しようとも、社会への影響力は保ち続ける。

現象を分析し、情報の価値を判断し、伝える内容は人間が決定しなければならない。そのためには、記者はどこまでも取材対象に接近する必要がある。そしてこれは永久に人間の仕事である。

情報の流れはソーシャルメディアによって加速していく一方、サイト管理者による制限や、ブラックボックスも生じる。誹謗中傷、フェイクニュースとともに、ソーシャルメディアには避けて通れない課題だ。従来型新聞社は、ネットの発達を観察している側ではなく、こうした状況をむしろ改革すべき側、としている。

記者の増強

現実にはどのように改革していくべきなのだろうか。記事はまず記者の増強を挙げている。

新聞メディアの目標は、記事の内容と個性化する読者体験とを結合させることにある。この新聞メディアの原則と価値観は崩さず、読者に有意義な情報を提供していく。

そのために新聞社はAI化を受け入れ機構を改革すべきだ。AIは抽象記事や創作記事を制作することはできない。また突発的なニュースに対して、AIは人類の知恵の蓄積に打ち勝つことはできない。

よくAIを学習した記者は、分析やデータ収集、時系列へのまとめなどでAIの利用を広げている。つまりAIは記者の理解を深めるためのサブシステムである。

AIによる補助は記事内容の隠匿や正確性だけではなく、テーマに沿っているか、言葉の調子はどうかにまで及ぶ。記者はこれを利用して、データまたは情報の収集と理解を、徹底しておこなう。こうして“人類記者”の完成度を高めるのだ。記者の増強とは、人数増ではなく、こうしたAI込みの新システムを稼働させることを意味する。

新聞社にあってSNSにないもの。それは個々の内容に対する詳細で深い理解である。

編集部の増強

新聞社の編集部とその業務は、日常の実践を通じて“発展”していかなければならない。例えば、主要業務におけるイノベーションやデジタル化への取組みが遅れている、などは論外である。業界や企業の伝統文化から、ただちに脱する必要がある。

新聞社は、一つのイメージ打ち出しつつも、異なった人や異なったグループにそれぞれアピールする必要もある。一方、世界の虚実を見極めるのは、ますます難しくなっている。AIは、取材した事件やレポートに潜む偏見は、検知できるかもしれない。

しかし意見が百出している問題はどう表現すべきだろうか。結局、編集部が判断しなければならない。新聞社はAIをシステムに組込みつつ、編集部の機能を増強すべきである。

記事は、主として新聞記事のクオリティーを挙げる内容となっていて、その先については考察していない。AIを巻き込み、これほどの備えをしたとしても、1894紙が存続できるとは到底思えない。結局、省級のブロック紙を中心に、業界再編が進むのではないだろうか。死の淵に臨んでさえ、新政策を採れないところは廃刊しろと主張しているようにも見える。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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