ゼネラルモーターズ(GM)が2017年、フランスのグループPSAに売却した欧州のブランド、Opel(オペル)とVauxhall(ボクスホール)の業績が急激に伸びている。両ブランドの2018年上半期の営業利益は総額5.87億ドルに達した。

赤字続きという理由で売却された両ブランドの利益が、マネジメントが変わった途端に大きく伸びるとは何とも皮肉なものだ。日本では馴染みのないOpelとVauxhallの歴史とともに、大躍進の背景を探ってみよう。

ミシン製造から欧州最大の自動車メーカーに成長したOpel

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(画像= Razvan Iosif/Shutterstock.com)

Opelの前身は1862年にアダム・オペル氏が、ドイツのヘッセン州で設立したミシンメーカー。1886年からは自転車製造に手を広げ、1899年に初の自動車を生産した。

アルファロメオの前身となったDarracq(ダラク)の創設者アレクサンドル・ダラク氏からライセンスを取得し、1902年に「Opel Darracq」を市場に売りだした。その後小型車から高級車、レーシングカーまで精力的に展開し、1928年には市場シェア37.5%を占めるドイツ最大の自動車メーカーに成長を遂げた。

Opelは保険会社を設立した最初のドイツの製造業者でもある。また、独自の銀行を通して自動車ローンを提供したのも、ドイツの製造業者の中で最初だ。

しかし不況の影響から翌年、株式の80%を2600万ドルでGMに売却。1931年に残りの株をGMが買いとったことにより、完全子会社化された。

親会社GMの破たんと再建

GM傘下となった後も勢いは衰えず、1939年には従業員2.5万人を抱える欧州最大の自動車メーカーとなる。しかし、2009年にGMが経営破たんしたことで、一時はカナダの自動車部品メーカーMagna Internationalやロシア貯蓄銀行など国外への売却が検討されていた。

GMが再建を決めたことで(The New York Times2009年11月4日付記事)、その後長期にわたりGM子会社としてベストセラーのスーパーミニ「Corsa」、スタイリッシュな「ADAM」 、高級感あふれる中型サルーン「Insignia」など、次々とヒットを飛ばし続けた。

ところが、GMにとってはVauxhallとともに赤字がかさむ頭痛の種だった。

英国最古の大衆車ブランドVauxhall

「Corsa」などOpelの一部のモデルは、英国ではVauxhallブランドとして販売されている。Vauxhallは英国最古の自動車メーカーのひとつ。1857年にポンプと船舶用エンジンメーカーとして設立され、1903年から自動車生産を始めた。大衆車として本国で人気だったが、1925年にGMに買収されている。

そのため欧州では生産台数や開発能力で勝っていたOpelベースのモデルが多く、「Opelは欧州市場向け、Vauxhallsは英国市場向け」といった戦略をGMは打ちだしていた。

欧州の大衆には広く受け入れられていた両ブランドだが、売上は年々減少傾向にあり、2016年だけでも総額2億ドルの損失をだした。ここにBrexitの影響によるポンド安や、離脱後の欧州における事業環境への懸念などが加わる(CNN2017年3月6日付記事)。さらにGM自体が規模縮小によって収益性を追求する姿勢を打ちだしたことで、OpelとVauxhallの売却に踏みきったものと思われる。

「大赤字ブランド」を生き返らせたPSA

新たな買い手として名乗りでたのは、Peugeot(プジョー)やCitroen(シトロエン)、DSを傘下に置くグループPSAだ。

2017年8月の買収発表にあたり、GMにとっては「大赤字ブランド」だったOpelとVauxhallを傘下に加えることで、「2020年までに営業上のフリーキャッシュフローを改善すると同時に、2020年までに2%、2026年までに6%の営業利益率を生みだす」と強気なコメントを発表していた(Autcar2017年11月4日付記事 )。

しかしそれから1年後、PSAはそれが単なる希望的観測ではなかったことを証明した。26億ドルで買収した両ブランドは、2018年上半期だけで5.87億ドルの営業利益を計上したのだ。この発表を受け、PSAの株価は14%上がった 。

マネジメント、コスト削減、収益性追求がカギ

OpelとVauxhallの躍進は売上増加に起因するものではない。実は販売台数自体はGMの傘下だった時よりも落ちている。両ブランドの2018年上半期の総販売台数は57.2万台だが、GM傘下にあった前年同期の販売台数は60.9万台だった。

販売台数が増えたからといって必ずしも利益が増えるわけではなく、販売台数が減ったからといって利益が減るものでもない。米ファイナンシャルサービス企業Jefferies のオート・アナリスト、フィリップ・ホウチョイス氏 は、PSAによる「より良いマネジメント、コスト削減、そしてより収益性の高いモデルの販売に焦点を当てた戦略」が大幅な増益につながったと分析している。

同社の発表によると、固定費を約30%削減することに成功したほか、サプライヤーとの価格交渉に加え、自社生産の部品の使用を増やすなど、節減対策を実施した。

ホウチョイス氏 いわく、PSAの功績に貢献したのはカルロス・タバレスCEO だ。フィアット・クライスラー・オートモービルズ やフェラーリのCEOを務めた「カリスマ実業家セルジオ・マルキオンネ氏を彷彿させる何か」を、タバレスCEOは感じさせるという。

対照的に、GMがOpelおよびVauxhall車の販売に用いた戦略は不採算的なもので、「経営者も赤字ブランドの救済を諦めていた」という。マネジメントの姿勢や戦略が勝敗を大きく分けた例だろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)