一般的に不動産投資は、家賃収入のような安定的な収益をもたらすものの、取引価格が高額で、売りたい時にすぐに売れないなど、流動性が低く投資できる人も限定的されます。一方で株式投資は、上場株であれば誰でも売買できるように、不動産よりもはるかに流動性の高い投資財です。しかし、事業から生まれた利益を分配するための「配当」は微々たるものであることから、投資家の多くは、流動性の高さを利用して株式を売買することで収益を得ています。安定的な収入をもたらす不動産投資に、株式投資のような高い流動性を持たせることはできないのか。不動産証券化とはまさにそのための仕組みです。今回は不動産証券化について考えてみます。

証券化は不動産を持たない!?

REIT
(画像=designer491/Shutterstock.com)

不動産証券化とは、不動産から生じるキャッシュフロー(運用益や売却益)を投資家へ配分することを約束し、投資規模を小口化した証券を発行することで、より多くの投資家から不動産への投資を募ることができる仕組みです。

投資家の視点からの不動産証券化とは、「実物不動産が生み出す収益を受け取る権利を、証券や出資持分等の金融商品へと加工し、投資家が不動産に対して投資をしやすくする仕組み」(国交省による)と定義されます。

不動産の証券化において、投資家は現物の不動産を直接保有するわけではありません。不動産を「ビークル」(Vehicle)と呼ばれる小さい会社のようなものに持たせます。ビークルとは、不動産の証券化に際して、不動産と投資家とを結ぶ機能を担う組織体という意味ですが、簡単にいえば、賃貸不動産だけを持つ無人の会社ということもできます。

通常、個人投資家でも現物の不動産物件を購入するときは、自己資金や借入金を用意します。ビークルも同様で、ビークルが借入金と自己資金を用意して賃貸物件を購入します。

このとき、ビークルの自己資金に該当するのが、不動産投資家からの出資金になります。つまり、投資家はビークルの株を購入するということです。ビークルにとっては、この出資金は投資家から集めた、返さなくてもよいお金(資本)ということになります。

さらに、ビークルは銀行などから、足りない資金を借入金で調達し、賃貸物件を購入します。ビークルは投資家への配当と銀行への返済の両方を行うことになります。

株式投資との違い

通常、一般の上場会社であれば、株主への配当は法人税支払い後の残金を原資とします。そのため、株式配当の原資は非常に少ないのが実態です。しかしながら、ビークルでは法人税支払い前の利益を原資とすることができるので、その分、大きな配当が得られます。

不動産を持つ場合は、賃料収入から費用を差し引き、借入金の返済を行った後の金額が投資家の手残りとなります。しかしながら、借入金の返済はビークルが行いますので、投資家が得た配当はそのまま投資家の収益になることが大きな特徴です。

よく知られる例は「J-REIT」

不動産証券化で生まれた金融商品で一般的なのものは、J-REITと呼ばれる日本での不動産投資信託でしょう。REITとは、アメリカで生まれたもので、「Real Estate Investment Trust」(不動産投資信託)の略です。日本ではJAPANの「J」を頭につけて「J-REIT」と呼ばれています。

J-REITは、日本において組成された不動産投資法人のことです。この証券化の仕組みを利用し、一般投資家から資本を集めるために、株式を公開しています。投資法人は、商業施設、賃貸オフィス、賃貸マンションなどを保有する会社です。

公開株式といえば、大手不動産会社も株式を公開しています。大手不動産会社も多数の賃貸ビルを保有していますが、分譲マンション事業や不動産仲介業といった賃貸事業以外の事業も行っており、それらを総合して利益を出しています。これに対し、J-REITは不動産賃貸業しか行っていない会社です。似ているようでも投資対象と利益の出し方に違いがあります。

大手不動産会社は法人税支払い後が配当原資であるのに対し、J-REITは配当の大部分が投資法人の費用として認められるため、配当原資が大きいという違いもあります。

証券化のメリット 

投資家にとって不動産証券化のメリットは、主に次の三つです。 一つは、投資家の資金が少なくて済むことです。例えば、100万円の物件があるとします。投資家自身で購入するとしたら、資金の満額100万円を用意しなければなりません。自己資金で買えないようであれば、借り入れを行う必要もでてきます。ビークルが50万円を借り入れる事が出来れば、投資家は50万円を用意するだけでよいのです。もちろん、借入をするのは投資法人であるビークルです。これがもう一つのメリットになりますが、投資家自身は借金をする必要がありません。最後は、これまで述べてきたように利益が出た場合の投資家への配当原資が大きいという点です。

一般社団法人の投資信託協会は、J-REITのメリットとして、①少ない金額から購入できる、②複数の不動産への分散投資が可能、③専門家により運用される、④換金性が高い、⑤収益がほとんど分配されるといったことをあげています。

終わりに

このように、証券化は投資家が調達する資金が少なくなることと、債務者にならなくてすむこと、配当原資が大きいという点の三つの利点があり、不動産への投資をしやすくする手法といえます。ただし、現物の不動産投資と違い、あくまでも証券の購入となるので、価値がゼロになるという可能性もあり、なんとなく不安に思う方もいるかもしれません。気になる方は、証券取引所に上場しているJ-REIT(不動産投資信託)への投資を検討してみてはいかがでしょう。(提供:Incomepress


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