事業承継を完了させても、次期社長がその後の経営を円滑に進めていけるケースばかりではありません。実は、肝になるのは事業承継前のさまざまな準備です。事業承継の準備において重要なポイントを他社の成功事例を参考にして理解し、万全な状態で事業承継に取り組むことが重要です。

事例1 現経営者と後継者、対話によって相互理解を深める

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(画像=PIXTA)

事業承継では、現経営者が後継者に経営を引き継ぎます。そのため両者の相互理解は承継を成功に導くカギの一つと言えます。

中小企業庁の事業承継ガイドライン(P14)から事例を見ていきましょう。中堅中小企業の社長は、長男を後継者と見込んで次期社長に選定していました。ただし、自社株の譲渡によって長男に経営権を渡すことは考えていませんでした。長男はその企業での営業の実務経験は豊富にあったものの、経営経験がなかったからです。

しかし対話(家族内での話し合い))を通じて長男が会社経営に関心を持っていることが分かり、社長は考えを改めます。長男に経営に携わる役職を経験させたり、社外での研修などを受けさせたりすることで経営者として育成し、将来的に全株式を長男に譲ることを決めました。

事業承継において、「後継者への株式の集中」は経営を安定させるためのポイントの一つとされています。この事例では後継者との対話を通じて両者間の理解が深まり、事業承継の第一歩をいい形で踏み出せたことがポイントです。

事例2 事業承継前に事業を磨き上げ、跡継ぎを断った長男が心変わりした

現経営者が企業を存続させようと考え、息子や娘を跡継ぎにしようと考えていても、当の本人たちに断られるケースもあります。事業承継ガイドライン(P25)を見てみます。

地方都市で電化製品の小売を経営していた社長(70歳)を迎え、そろそろ息子に地元に戻ってもらい、跡を継いでほしいと考えるようになりました。しかし息子にそのことを話すと、あっさり断られてしまいました。息子が父の会社の将来性に悲観していたことが理由です。

しかし社長はあきらめきれず、一念発起して息子が継ぎたくなるような会社にしようと自社の磨き上げに着手します。今までの電化製品の小売りのみから脱却し、大型製品の販売から据付工事まで一貫した対応を開始したところ、引き合いが増加。丁寧なアフターフォローが評判となり、今ではこれまでの数倍の売上高や従業員数を誇るまでに至りました。その結果、息子が会社の変貌ぶりに驚き、自分が関与することにより事業拡大の可能性が高いことを実感するようになりました。こうしたことにより、息子は後継者になることを選び、地元に戻ってきました。

父の会社だから自分が引き継がねば、という考え方をする若い世代はもちろん現在もいますが、一方で働き方に関する考え方が多様化する中、義務感から後継者になることを受容しない人もいます。このような場合、その会社の事業自体を将来性や成長性があるものにしておくと、より候補者に後継者になってもらいやすくなるというわけです。

さまざまな成功例に触れ、自社の事業承継に適切な応用を

企業によって規模や業種も異なるので、さまざまな成功事例を参考にしつつ必要なエッセンスを抜き出して、自社のケースに応用することが必要です。事業承継の基礎知識とともに、より多くの参考事例に触れるべきでしょう。(提供:事業承継ガイド


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