持株会社を新たに設立したり、事業会社を持株会社化したりすることは、機動的な意思決定や明確な収益管理を行うための一つの有用な方法として挙げられています。さらに近年ではこの持株会社を事業承継のスキームとして利用する事例が増えてきています。

持株会社とは――設立が長らく禁止されていた

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(画像=PIXTA)

持株会社とは、他会社の株式を所有することにより、その会社の事業活動を支配し経営することを目的とする会社形態の一つです。

1947年に独占禁止法が制定されてから、支配力の過度な集中を防ぐという目的から持株会社の設立は長く禁止されてきました。しかし経済界からの規制緩和の要望もあって、1997年の独占禁止法の法改正により解禁が行われるに至りました。

持株会社は、傘下の事業会社の株を保有して支配力を有することで、グループの先導役としての役割を担います。経営判断の迅速化や、特定事業の利益に固執せずに柔軟に経営戦略を策定できることなどがメリットとして挙げられます。

そして近年、この持株会社は、事業承継を円滑に進める上でのスキームとしても注目を浴び、活用されるようになっています。

持株会社を活用した事業承継の流れと概要

持株会社を活用した事業承継のスキームでは、後継者はまず持株会社を設立します。 次に、株式を購入する資金調達を準備します。 事業承継において、後継者が現経営者から株式を買い取る形で手続きが進められていくとき、後継者には現経営者の株式を購入する費用が必要になります。そのための資金調達はしばしば事業承継においてハードルの一つになります。

持株会社を活用したスキームでは、後継者が株式を購入するために金融機関へ融資の申し入れを行う際、保有している事業会社の株式の配当による返済を金融機関側と約束し、融資を受けることができるようにします。

現経営者側からみると、後継者が株式を現金で買い取る形になるので、手元に株式ではなく現金が残ることとなります。株式の資金化(現金化)は、現経営者側にとってメリットの一つです。

遺産分割による株式分散のリスクを回避

この持株会社スキームを活用した際には、現経営者が一連の手続きを終えたあとに亡くなった場合でも、既に故人はその会社の株式を保有していないので、遺産分割による株式分散のリスクを防止することができます。

原則として、故人が保有していた財産の相続には「遺留分」があります。相続人が複数おり、そのうちの1人が後継者だとしても、この遺留分があるために故人が保有していた株式が、複数の相続人に分散してしまうリスクがあります。

事業承継においては、後継者にその会社の株式を集中させることが成功のポイントの一つです。しかしこの遺留分がネックになって後継者への株式の集中が難しくなり、結果的に事業承継後の経営がうまくいかないケースが起きてくることがあります。。

こうしたケースでも、中小企業経営承継円滑化法に基づく民法の特例によって株式の集中を目指す方法はありますが、相続人全員の合意が必要となるなどの手間や時間も掛かるので、より円滑な承継の方法として、持株会社を活用した事前の準備とその方法を選ぶケースも出てきています。

持株会社を活用する際の留意点とは

持株会社を活用したスキームでは、後継者にとっては金融機関からの借入金の負担が増えるということになりますし、事業会社の経営がうまくいかない場合には、その借入金の返済に苦労することもあります。

また現経営者にとっては、株式を譲渡する際に得た譲渡益に対して所得税などが課税(申告分離課税)されることもあるほか、その譲渡対価の現金を後継者に相続する際には相続税が課税されることになるため、税務面においては、節税効果は期待できない、という見方もあります。

これらのことは現経営者も後継者も留意すべきポイントの一つと言えるでしょう。(提供:事業承継ガイド


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