「オフバランス」(Off-balance)という言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。会社が保有する資産や負債はすべて貸借対照表(バランスシート)にリストアップされるが、何らかの理由でリストアップされず、「資産」と「負債」のバランスが取れないことがあるのだ。これをオフバランスという。企業を買収する際には、オフバランスになっている負債がないか細心の注意を払う必要がある。

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(写真=PIXTA)

後から見つかると目も当てられない簿外負債

たとえば、買収予定の会社が第三者から借金をしているにも関わらず、それがオフバランスになっていたとしよう。貸借対照表に借入金が計上されていないのはあくまで会社の問題だ。正当な借入金であれば会社は借入金を返済しなければならない。

このように本来は貸借対照表に計上されているべき負債がオフバランスになっているものを「簿外負債」と呼ぶ。もし、この借入金が最初から貸借対照表に計上されていれば、会社を買収するときの価額も借入金の分だけ安くなっていたかもしれない。

企業を買収した後で簿外負債が発見された場合、買い手が損害を被る恐れがある。だからこそ、簿外負債の有無については、買収条件を検討する過程で慎重に調査しておく必要がある。

なお、借入金のように誰が見ても負債であることが明らかな項目がオフバランスになっているケースは珍しい。注意を要するのは、見積りが必要な項目や期間に応じて発生している負債がオフバランスになっていないかどうかである。

簿外負債にはどのようなものがあるのか?

オフバランスになりやすく、金額的にも多額になりがちな簿外負債としては「退職給付債務」や「役員退職慰労引当金」が挙げられる。

退職給付債務は、将来、従業員が退職した際に支払われる退職一時金や年金のうち、企業が負担すべきものを指す。会計上は将来の支給金額を見積り、それを現在の価値に引き直した額などを負債として計上すべきことになる。

また、役員退職慰労引当金は将来の役員退職金の支給に備えて計上する負債だ。従業員を対象とする退職給付債務より対象者は少ないものの、一人ひとりに対する支給額が大きいので多額となりやすい。

退職給付債務も退職慰労引当金も、仮に会計上で費用および負債として計上しても、税務上は損金にならないため税金が安くならない。そのため中小企業ではわざわざ計上するメリットが乏しく、簿外負債になりやすいという事情もある。

その他の簿外負債としては、数ヵ月先に控えているボーナスなどに対する賞与引当金、賃料や通信費などで既に期間が到来しているサービスに対する未払費用、得意先に対する債権が焦げ付いているため、本来は認識すべき貸倒引当金などがある。

簿外負債などのリスクを回避する方法は?

以上のような簿外負債に加え、必ずしも貸借対照表に計上すべきではないものの、将来、会社の負担となり得る「偶発債務」という項目も存在する。

たとえば訴訟の先行きによっては会社が負担するかもしれない「損害賠償義務」や、関係会社の融資に対して保証を行っている場合の「保証債務」などが含まれる。このような偶発債務も買収先に存在するリスクといえる。簿外債務とあわせて見つけ出し、評価、検討をしておかなければならない。

簿外負債や偶発債務のリスクを最小限に抑えるためには、専門家の力を借りたほうがよいだろう。企業を買収する際には、公認会計士やファイナンシャルアドバイザーに、こうしたリスクの存在や投資価値を判断するための調査(デューデリジェンス)を依頼できる。相応のコストがかかるが、大きな損失を避けるためと考えれば安いのではないだろうか。