制度設計の原則を外れた「こども保険」は、制度への信頼を損ない、問題ばかり

変える力,こども保険
(画像=PHP総研)

亀井 なるほど。「こども保険」の意義が見えてきました。その方向性は評価できますが、実際の政策として考えるといろいろ課題がありそうです。島澤さん、いかがでしょうか。

島澤 私は「こども保険」には問題しかないと思っています。

先ほど、フリーライドという指摘がありましたが、フリーライダーに対しては、経済学では、対処法が非常に明快です。子供が将来の社会を支える存在である、安全保障や外交、司法と同じように公共財だと考えるならば、税金で対応すべしというのが基本原則です。何もわざわざ保険を使ってやる必要は全くありません。正面切って、負担が必要であれば税金で負担をお願いすべきなのです。

政府の歳出の規模の推移を見ますと、リーマンショックを契機にその規模は急拡大し、その後も規模はほぼその水準を維持しています。国がまず身を切るんだという話も提言の中に出てはきますが、そもそも、リーマンショック級の危機が去った後も財政規模は変わっていないわけですから、本当に全く空しいばかりの表現です。まずやるべきは、リーマンショック時に10兆円以上水ぶくれした財政をもう一度見直すことです。そうすれば、児童手当の加算くらいの規模は簡単に捻出できるのではないでしょうか。

今回の提案ですが、既に「子ども・子育て拠出金」が厚生年金に上乗せされていて、これは全額事業者負担なのですが、結局、その流れの中でこの手のものを安易に思いついたのではないかなと感じています。

全世代型で子育てを応援するという話ですが、先ほど法人税的な効果はあるとの指摘がありましたが、日本企業の国際競争力を考えると、これ以上負担を増やせば、雇用の拠点を失うことにもつながりかねません。法人税減税に取り組んでいる中、保険を上乗せしていくのは、国全体の施策として見れば、真逆のことを平気でやっていることにもなります。

なにより深刻なのは、こうした辻褄合わせの政策は、制度への信頼を失わせるという問題です。保険と言いながら、その制度設計の基本であるリスクの存在が明らかでなく、歪んだ財源調達手段として保険制度を用いるのは、社会保障制度への信頼を失わせることにもつながります。人口減少の問題にしても、課題ばかりの現行制度を前提として解決策を示すのも問題でしょう。