サービス公開まで気づかなかった「大企業のニーズ」
――サービスを開始し、利用企業が急増したことで、他社も参入してくるのではないでしょうか?
宮田 一見、シンプルな設計なので、参入の障壁は低いと思います。実際、今、7社くらいの競合がいます。
このジャンルでは、SmartHRがいち早くサービスの提供を開始しました。他社にとって前例となるのは、労務に特化しているSmartHRです。開発のスピードや使いやすさでは、SmartHRを超えられないでしょう。
表面だけを見てもわからない複雑な業務フローやロジックが裏側にあるので、真似をして開発しようにも、なかなか難しいと思います。
会計では「簿記」という決まったやり方が確立されていますが、社会保険手続きや年末調整、雇用契約などは、企業ごとに必要な機能が違ってきますし、従業員の方の状況によって必要な手続きが異なるなど、ケースバイケースです。企業の労務担当の方は、その都度、調べて業務をされている方が多いんです。
――書類でやっていた仕事をSmartHRでするとなると、やりづらく感じたりはしませんか?
宮田 そうした声はなく、「よく考えて作られているね」という評価をいただくことが多いです。15年ほど人事労務の実務経験があるプロダクトマネージャーが仕様を決めています。
初めは、人事労務の知識はほとんどなかった私と共同創業者の2人で、従業員10名未満の企業がユーザーの主軸になると想定して開発していました。サービス公開までには、「50名くらいの企業にも使っていただけそう」と思うようになっていましたが、実際に公開してみると、数百名、数千名規模のお客様からも声がかかりました。この規模になると、企業ごとに必要な機能が違い、私たちだけでは対応できませんでした。そんなときに、今のプロダクトマネージャーが入社してくれたのです。
――むしろ、企業の労務担当者のほうが、SmartHRから仕事のやり方を学ぶような状況なのでしょうか?
宮田 大手企業には専属の労務担当の方がいるのですが、100名未満の企業では他の業務と兼任されていることが多い。様々なケースに合わせて、SmartHRの業務フローを検討し、開発しています。
――1万人以上の企業でもSmartHRを使っているところがあるということですが、企業の規模によってニーズは違いますか?
宮田 違います。
10名未満の企業だと、手続きが頻繁に発生しないため、人事労務の専門知識を学習するコストを省くために、SmartHRを導入していただいています。
また、そういった企業で「忙しくて社会保険手続きに手が回らない」といった状況が起きないよう、今は10名未満の企業はターゲットにせず、無料プランを提供しています。
10~100名以上の規模の企業には、業務効率化のために使っていただいています。
従業員が100~1,000名の企業だと、業務効率化に加えて、業務標準化というニーズもあります。たとえば、人事労務担当の方が不在でも、急な対応が発生したときに、誰でも簡単に使うことができるので、SmartHRを活用していただいているわけです。
1,000名以上に多いのは、全国に支店がある企業や、飲食や小売りなどのチェーン店を展開している企業です。
人事労務の部門は本社にあって、各店舗に店長さんとアルバイトさんがいる。店長さんは人事労務に詳しくないのですが、アルバイトさんの入社手続きをしたり、年末調整をしてもらったりしなければならない。でも、本社としては、店長さんには、そんな作業よりも店舗運営を頑張ってほしい。そこで、SmartHRを導入して、店長さんにかかる人事労務の負担を減らすのです。
また、店舗から本社に、あるいは本社から店舗に、書類を郵送したり、FAXで送ったりすると紛失リスクがありますから、それを避けられることもSmartHRの利点です。
「免許証のコピーをFAXで送ろうとして番号を間違えた」となったら、セキュリティ上、大きな問題ですが、それも防げます。
我々としては、今はとくに1,000~1万名の企業に使っていただけるよう、注力しています。
鉄道や病院、介護や人材派遣など、業種も幅広い企業に使っていただくようになってきました。
――企業によってカスタマイズはするのですか?
宮田 もちろんデータベースなどは企業ごとに別ですが、基本的には、標準の機能のままでお使いいただいています。というのは、クラウドの利点は、一つのソフトをみんなで使うことで単価を安くできることにあるからです。
とはいえ、企業の規模に合わせて、使いやすい設定にはしています。
たとえば、店舗をたくさん持っている企業だと、店舗ごとに社会保険の番号が違うことがあるんです。番号ごとにSmartHRのアカウントを作ると面倒なので、そうしなくても簡単に番号を切り換えて使えるような設定ができるようにしています。