(本記事は、三村真宗氏の著書『最高の働きがいの創り方』技術評論社、2018年9月22日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

※文中に登場する「コンカー」とは、筆者が社長を務めている"コンカーエクスペンス""コンカートラベル"など、クラウドによる出張・経費管理ソリューションを提供しているIT企業、株式会社コンカーのこと。Great Place to Work Institute Japanが発表した2018年版第12回、日本の「働きがいのある会社」ランキング「中規模部門」で第1位。

最高の働きがいの創り方
(画像=Jacob Lund/Shutterstock.com)

「働きがいを高めるオペレーション」の全体像

「働きがいを高めるオペレーション」を、次の8つの視点――(1)戦略の可視化・実行、(2)モニタリング・フィードバック、(3)認知・感謝、(4)連帯感・コミュニケーション、(5)人材採用、(6)人材開発、(7)人材評価、(8)働きやすさ――から見ていきましょう。

(1)戦略の可視化・実行

社員が高い視座を持つためには、経営情報と戦略を社員と共有することが不可欠です。

これらを共有することもせず、経営者が「社員に高い視座を持って働いてほしい」と言っても、それはあたかも地図もなく、目的地も知らせず、旅をさせるようなもの。

社員は迷ってしまいます。

いきおい、視点や思考が狭くなり、自分や部門の利害を優先するようになりかねません。

経営情報と戦略を知ることによって視座が高まった社員は、自分の仕事が会社全体の戦略やビジョンにどのようにつながっていくかを理解することができるようになり、自分の仕事の意義や意味合いを実感することで、より強い働きがいを感じるようになります。

コンカーでは、経営情報と戦略を徹底的に可視化して社員と共有するために、四半期に一度、全社員が参加する「オールハンズミーティング」と呼ばれる会議を開催し、半日かけて会社の方向性や課題を社員と共有しています。

また年に一度、全社員が参加する「オフサイトミーティング」と呼ばれる会議では、オフィスを離れ、普段の業務をいったん忘れ、頭をからっぽにして、中長期的な視点から会社の将来や課題を丸1日かけて議論します。

そして実行面において、コミュニケーションの促進やナレッジマネジメントの強化といった部門を横断するようなテーマは、「タスクフォース」と呼ばれる複数の部門の社員から構成されるチームによって推進されています。

(2)モニタリング・フィードバック

「測定なくして改善なし」という考え方があります。

このことは、売上や顧客満足度といった事業に直結する数字だけではなく、社員のモチベーションや会社の文化の成熟度にも当てはまります。

社員が働きがいを持って仕事に取り組めているか、社員自身の声を直接吸い上げることによって現状を把握し、そのうえで次の施策につなげています。

コンカーでは、会社、上司、他部門に対する考えを調査する「コンストラクティブフィードバック」を年に一度、また、社員の心身の健康状態を調査する「パルスチェック」を四半期ごとに実施しています。

こうしたモニタリングの仕組みを活用して、社員の声に常に耳を傾けることで、施策の精度を上げる努力を続けています。

また、日々の仕事を通じて社員が気づいた問題意識は「高め合う文化」の考え方のもと、お互いにフィードバックし合うことが奨励されています。

(3)認知・感謝

感謝が一切されないような状況下では、いくら高い報酬を得ようとも、モチベーションを保ち続けることは困難です。

自分の汗した仕事がきちんと認知され、そして感謝されることはモチベーションを高め、働きがいを感じるうえでとても大切です。

また、それは会社が個人を尊重し、尊敬していることの証にもなります。

定量的な成果が測りやすい営業職のように数値目標を持っている部門だけでなく、普段は目立たない貢献にも光を当て、感謝し、報いることは、会社全体のモチベーションを底上げすることにつながります。

コンカーでは、大型契約の受注、プロジェクトの稼働、結婚や出産、昇進など、何か特別なことがあれば、全社でそのことを共有し、祝っています。

また制度としては、半年に1回、社員のさまざまな功績を称える「従業員アワード」、同じく半年に1回、社員同士が感謝の気持ちを送り合う「感謝の手紙」などの取り組みを運用しています。

(4)連帯感・コミュニケーション

「社員の意識がばらばらで、会議はいつもしらけムード」
「ほかの社員に協力を求めても、いつもいやいや」
「直接会話したくないので、隣に座っていてもメールでやりとり」

このような社員の連帯感やコミュニケーションが希薄な職場にいて、働きがいを感じることができるでしょうか。

事業の拡大とともに社員数が急速に拡大してきたコンカーにとっても、連帯感とコミュニケーションの維持は永遠のテーマとして取り組んでいます。

コンカーでは、社員同士のコミュニケーション活性化の施策として、「コミュニケーションランチ」などランチタイムを利用したさまざまな制度、趣味を通じた社員間の交流を図る「部活動」、文化の活性化をミッションとした「CCO(チーフ・カルチャー・オフィサー)」の任命、コミュケーションに徹底的にこだわったオフィスデザインなど、さまざまな取り組みをおこなっています。

(5)人材採用

「会社の文化や価値観に合った人材を採用する」これは、企業文化を維持するうえでとても大切です。

ほかの社員や他部門の陰口ばかり言う人物。会社の施策に批判ばかりしている評論家的な人物。

あなたのまわりにも、そんな人物はいませんか。

そのような人物は、自分の仲間を増やすことにとても熱心です。わずかな不満を抱えている社員をめざとく見つけ出しては近づき、不満の芽を膨らませ、ボーダーラインにあった社員の感情をネガティブなものに変質させてしまいます。

そのような文化の破壊者を採用してしまった際のダメージは計り知れません。

コンカーの採用率は、わずか2.7パーセント。

100人の応募者の中で、採用されるのはわずか2.7人です。営業経験や技術知識といった専門知識がいくら高くても、文化や価値観に合わない人材は採用しません。

どんなに人手が足りなくても、決して妥協しない。

文化の維持に努めることには、デメリットがあります。

それは、採用で苦労することです。

専門スキルだけでなく、文化の適合度でも人材を評価する。

そのため、採用のハードルがぐっと上がり、必要な数の人員を採用できなくなる問題が発生しうるのです。

「採用への強いこだわり」と「人員数の確保」――この2つの相反する命題に対するコンカーの戦略が、応募者数の最大化でした。そのために、さまざまな採用の施策を打っています。

採用エージェント向けには、「採用エージェント向け説明会」を定期開催して、積極的に経営情報や戦略を採用エージェントに開示しています。

さらには、コンカーへの採用意欲を刺激するための「採用エージェント・アワード」なども運用しています。

また、社員の知人や過去の同僚の紹介を奨励する「社員紹介インセンティブ制度」や、人材候補者に直接コンカーの価値を伝える「コンカーを職場に選ぶ理由」という資料のネット上での公開など、採用エージェント以外の施策にも取り組んでいます。

採用後、新入社員が早期に会社に溶け込むことも重要なテーマです。

そのために、社長である私と新入社員が早期にお互いを理解し合う機会になる「ウェルカムランチ」、入社後のメンタルケアを目的とした「フォローアップアクティビティ」などの施策も運用しています。

(6)人材開発

「仕事を通じて成長を実感できるかどうか」は、働きがいを感じるうえでとても重要なファクターです。

人材の成長は、個々の社員が自分で汗をかいて経験した成功や失敗を通して得られる自助努力的な要素が強いものの、制度の面で会社として支援できることも多くあります。

コンカーでは、成長目標を明らかにするために、「4年後・10年後の目標」を社員と上司が話し合います。

成長機会を明らかにすることは、どのような研修を受けるかの道しるべにもなります。

また、社員が先生となってほかの社員に自分の知見やスキルを教える「教え合う文化ワークショップ」、業務時間内に受講可能な「英会話クラス」、汎用性の高いスキルを学ぶ場である「ソフトスキルトレーニング」、長期で勉強したい社員をサポートする「留学のための休職制度」など、人材開発を目的としたさまざまな施策をおこなっています。

(7)人材評価

仕事に熱意とプライドを持って取り組んでいる人ほど、他己評価より自己評価が勝っているものです。

評価において100%の納得は困難ですが、それでも絶対に大切にしなければならないのは、「公平性」と「公正性」です。

評価に公平性と公正性を欠いては、社員の働きがいは望めません。

コンカーは中途採用の社員が多く、どの社員もじつにさまざまなバックグラウンドを持っています。

こうした環境下では、前職の給与、入社後の活躍の度合い、勤続年数、年齢などさまざまな要素が絡み合い、納得性のある評価・報酬制度を構築するのは困難でした。

そこで、どのような職務レベル(コンカーではこれを「ジョブグレード」と呼びます)に、どのような結果が求められ、それはどのような報酬を得られるのか、それらを体系的に整理して、「ジョブグレード制度」として運用しています。

また、外資系企業では管理職を外部から採用するケースが多くありますが、コンカーでは初期のコアメンバーを除き、管理職は100%、現場で活躍した社員を内部昇格させています。

(8)働きやすさ

「働きやすさ」を高めることは、「働きがい」を高めることに直結するわけではありません。

それでも、働きやすさを高めることが社員の便益になるのであれば、リソースの許す範囲でどんどん取り組んでいこうと考えています。

たとえば、働きやすさを徹底的に考え抜いたオフィス環境はもちろん、ワークライフバランスを確保することを目的とした「有給休暇奨励日」や、家族の健康まで視野に入れた「家族も含めた予防接種デー」など、さまざまな取り組みをおこなっています。

特に、女性の働きやすさを高めるために工夫をこらしてきました。

コンカーは女性社員の比率が4割を超えており、女性社員の活躍が会社のパフォーマンスに直結します。

優秀な外部の女性候補者にコンカーに興味を持ってもらうこと、そしてなによりコンカーで働く女性社員が安心して幸せに働くことは、会社にとって最重要テーマの1つです。

女性社員にとって大切な出産や育児が仕事を続けるうえで障害にならないよう、「100時間勤務制度」「ベビーシッター料金の半額補助制度」といった制度の拡充に取り組んできました。

こうした取り組みが評価され、日本における「働きがいのある会社」女性ランキングでコンカーは、2017年に小規模部門で4位、2018年に中規模部門で3位と高い評価を受けています。

最高の働きがいの創り方
三村真宗(みむら・まさむね)
株式会社コンカー代表取締役社長。1993年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本法人の創業メンバーとしてSAPジャパン株式会社に入社。2006年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、2009年、電気自動車インフラ会社であるベタープレイス・ジャパン株式会社において、シニア・バイスプレジデント。2011年10月から現職に就任。2002年に日経コンピュータ「ITを変える50人」に選出。著書として『新・顧客創造』(ダイヤモンド社、2004年)、『次世代自動車 実用化と普及拡大に向けて』(共著・化学工業日報、2011年)、寄稿など多数。
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