(本記事は、三村真宗氏の著書『最高の働きがいの創り方』技術評論社、2018年9月22日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
※文中に登場する「コンカー」とは、筆者が社長を務めている"コンカーエクスペンス""コンカートラベル"など、クラウドによる出張・経費管理ソリューションを提供しているIT企業、株式会社コンカーのこと。Great Place to Work Institute Japanが発表した2018年版第12回、日本の「働きがいのある会社」ランキング「中規模部門」で第1位。
応募の分母を増やすために「採用エージェントへの方針説明会」を開催
●採用で妥協すると、ボディブローのように経営へのダメージになる
若い頃、マネジメントの本をむさぼるように読んでいた時期がありましたが、その素晴らしい内容に感激して愛読書になった1冊が『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』です。
その中にあったのが、「だれをバスに乗せるのか」という有名な言葉でした。
乗せるのは正しい人でないといけない、まちがった人をバスに乗せてしまうと大変なことになる、と。
スタートアップの企業が躓くのは、拡大期において初期のメンバーから人員を増やす際に、採用を急ぐあまり、採用で妥協してしまうこと。
採用ミスは、ボディブローのように経営へのダメージになります。
実際、コンカーの日本法人の創業期に苦労したのは、採用の問題に起因したものが多々ありました。
会社に合わない人を採用してしまうと、文化が壊れてしまう。
採用には、徹底的にこだわらないといけません。
会社が成長しているときには、文化への適合度合いなどはよく吟味せず、すぐにでも人を採用したくなってしまいますが、絶対に安易に妥協して採用してはいけません。
しかし、狭き門にしつつも、一定の採用人数を確保しなければ成長を維持できなくなりますから、採用は重要な経営マターです。
採用戦略とマーケティング戦略は、人を集める観点で、多くの類似点があります。
そこで考えたのが、マーケティングでいうところの「ファネル」的な発想でした。
ファネルとは「漏斗(ろうと)」を意味しており、見込み顧客を集めると、その見込み顧客は商談の過程で徐々に少なくなっていくので、出口の量を大きくするためには入口の見込み顧客の数を大きくしなければならないという考え方です。
端的にいえば、「採用を絞っても必要な人員を確保するために、分母となる応募者数を最大化する必要がある」ということです。
分母を大きくすることができれば、それだけ選考段階で妥協せず、出口の採用人数も増やしていくことができます。
結果的に、コンカーでは、IT業界の採用率としては異例に低い2.7パーセントとなっています。すなわち、100人の応募があっても、合格するのはわずか3人未満。
それだけの厳選採用をしているからこそ、コンカーに本当にふさわしい優秀な人材が採用でき、文化も保たれている。
そして、業績も継続的に成長を続けていくことができているのです。
●採用エージェントとの関係構築を人事部まかせにしてはいけない
では、どうやって応募者数を増やしていくのか。
考え方はシンプル。
採用に携わるエージェントやヘッドハンターの数を増やすのが最初の一歩です。
採用はある種の確率論ですから、取引するエージェントを増やすことによって、紹介される候補者の母数を増やす、というわけです。
そして同時に、採用エージェントとのリレーションを深めることを考えました。1社1社との関係を大切にするのです。
私も以前から採用エージェントとはお付き合いがありましたが、1つの印象を持っていました。
それは「採用エージェントは取引先として、もしかすると、あまり大事にされていないのではないか」ということでした。
人事部の取引先であって、経営者にとっての取引先ではない、という印象がある。
だから、一部のエグゼクティブに特化したエージェントを除いて、経営者のパートナーとして特別に大事にしてもらえることがあまりないのではないか、と。
しかし、私は、採用エージェントは「経営者にとっての取引先」だと認識していました。経営において、採用は企業の競争力を左右する重要な活動だからです。
多くの企業が、採用エージェントとの関係構築を人事部任せにしがちです。
しかし、私はいい候補者へアクセスするには、経営者自ら採用エージェントとの関係強化をすることが必要だと考えています。
そこでおこなうことにしたのが、年2回の採用エージェントを集めた方針説明会でした。
目指すべきは、採用エージェントがワクワクしながら、「コンカーは、いい会社だから受けるべき」と自信を持って候補者と会話している状況です。
そのために、説明会では会社のビジョンや戦略の説明、各部門長からのプレゼンテーション、製品のデモンストレーションなどを実施することにしたのでした。
●知ってもらえなければ、好きになってはもらえない
採用エージェント向けに、経営者自身がこのような活動をしている企業は、とてもめずらしいと思います。
それだけに、採用エージェントがコンカーを見る意識が変わりました。
それこそ端的に、採用エージェントを大切にしてくれている会社と、邪険に扱っている会社では、優秀な人材が来たときに、はたして、どちらに採用エージェントは候補者を紹介するでしょうか。
ただ、採用エージェントによっては、「特定の企業に深く入り込むことで、採用にコミットする」というスタイルの会社もあります。
コンカーとしては分母を広げたいので、採用エージェントを増やしたいわけですが、多数の採用エージェントと契約していることに対して、一部のエージェントからは「これではコンカーにコミットできない」と不満の声も寄せられました。
そこで、採用エージェントにとって候補者をどの企業に紹介するかは、大きく3つの基準があると考えました。
(1)紹介フィーが高いかどうか
(2)その会社には自信を持って紹介できるだけの魅力があるか
(3)入社後に候補者が幸せになれるか
それなら、この3つを満たすことができれば、多数のエージェントがコミットしてくれる――そう考えたのです。
それを方針説明会でしっかりとエージェントに伝えていくことが大切であると。
実際、方針説明会でコンカーのことをしっかり知ってもらえれば、コンカーに対して好感を持ってもらえる可能性が高くなると私は思います。
好感を持ってもらえれば、「入社後に候補者が幸せになってもらえる」という具体的なイメージを描きやすいはずだ、と。そのためには、きちんとした情報を提供することが極めて大事です。
そして採用エージェントは、「紹介した候補者が、コンカーに入社した後、どうなっているか」ということにも、関心を持っているようです。
採用エージェントは、紹介した社員が入社した後も、定期的にフォローアップを目的として会っており、厳選採用をしているおかげで、入社した社員からはポジティブなフィードバックが送られているようです。
結果的に、「やっぱりあの会社に紹介したら幸せにできる」というイメージをより強く持ってもらえるようになります。
●採用こそ最大の経営戦略
採用エージェントへの方針説明会には、今では30〜40社も集まります。
エージェントの数を増やすと、今度はどうしても1社1社とのリレーションが薄くなる危険がある。
そこで、ARM(Agent Relationship Management)と称して、コンカーにふさわしい優れた人材を紹介してくれているかどうかでエージェントをクラス分けし、上位、準上位のエージェントとは会食をさせてもらったりするなど、徹底した関係強化を図っています。
また、採用数に応じて紹介料がランクアップする仕組みを導入したり、採用エージェント間の競争意識を加速するため、年間で最も多数の社員を紹介したエージェントをアワード表彰する制度も作っています。
これはエージェントへの方針説明会でも語っていますが、「人材こそが最大の経営戦略」というのがコンカーの考え方です。
スキルは伸ばせますが、文化や価値観への適合度合いは入社後に変えることは困難です。したがって、文化を守るためには採用を厳選せざるをえない。
それができるかどうかは、採用活動の成否にかかっています。突き詰めれば「採用こそが最大の経営戦略」なのです。
採用エージェントは、経営者にとっての重要な取引先。
いい関係を築かなければいけない、大事なパートナーなのです。
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