定年に関するアンケート調査より
第一生命ホールディングス株式会社(社長 稲垣 精二)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 丸野 孝一)では、男女1,000 人に対して「定年に関するアンケート調査」を実施しました。このほどその調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。
本リリースは、当研究所ホームページにも掲載しています。 URL http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year
≪調査結果のポイント≫
再就職先の決定に至る状況 ●再就職をした60代の「前職を退職する前から、再就職先が決まっていた」への回答割合は男性36.8%、女性22.2%
再就職先の探し方 ●男性は「知人・友人が紹介してくれた」(36.8%)、女性は「ハローワークを利用した」(33.3%)が最も多い
60 歳を過ぎても職業生活を継続するために必要なこと ●再就職をした60代女性は「専門的な知識・技能」(31.3%)と「幅広い知識・技能」(29.2%)の回答割合が女性の中では高い
60 歳以降も職業生活を継続するために実行していること ●再就職をした60代の「仕事で活用できる資格を取得した」割合は、男性20.5%、女性16.7%で勤務継続をした人よりも高い
60 歳以降も職業生活を継続するために自発的に実行していることが特にない理由 ●60代では男女とも「仕事上必要な知識・技能が既にあるので必要がない」の割合が男性50.0%、女性42.1%で最も高い
勤務先から定年後の仕事に関する情報提供を受けたか ●「定年後の仕事内容や労働条件についての情報提供を受けた」と回答した60代の割合は男性51.2%、女性36.1%
≪調査の背景と目的≫
少子高齢化が進む中、わが国経済の持続的発展のためには、労働者が働きやすい環境を整えて、これまで働いていなかった女性や高齢者などを含め、労働力を確保することが必要とされています。実際、これまでの女性活躍推進や高齢者雇用促進のための取り組みによって、女性や高齢者の就業者が増えています。
総務省の「国勢調査」によれば、男性の労働力率は大きな変化が見られないものの、60~64 歳の労働力率が2015 年では80.8%となり、2005 年から5.7 ポイント上昇しました(図表)。女性は30~34 歳の労働力率が1995 年の53.4%から2015 年には73.5%と20.1 ポイントも上昇していることに加え、50 歳代から60 代前半にかけても10 ポイント以上の上昇がみられます。それでもなお、女性の25 歳以降の労働力率は男性よりも10 ポイント以上低いです。労働力確保のために、さらなる女性の就労促進が必要とされる中、子育て期の女性就労を支える仕事と家庭の両立支援の取組のみならず、50 歳以上の女性の労働力を引き上げるための方策にも目を向ける必要があると思われます。
こうした背景から、当研究所では女性正社員の定年前後の就労実態と意識を明らかにするため、50 代後半の正社員(勤続15 年以上)、並びに60 歳まで正社員として働いていた60 代の男女1,000 人を対象にしてアンケート調査を実施しました。
今後、女性の活躍推進により、多くの女性が男性と同じように正社員として継続就業すれば、定年を経験するようになるでしょう。定年という職業人生の節目を迎えるにあたり、同じ会社で働き続けるか、あるいは再就職の道を選択するか、男性と同様に女性も決断が求められる人が増えることが見込まれます。
本稿では、定年前後の再就職の実態や60 歳以降も働くための準備状況について性別による違いを浮き彫りにして、女性活躍推進の先にある定年後の継続就業について考えます。
≪調査概要≫
1.調査対象 全国の55~69 歳の男女1,000 人(男性500 人、女性500 人) 55~59 歳については勤続15 年以上の正社員を抽出し、60~69 歳(以下「60 代」)については60 歳まで正社員として働いていた人(本調査時点での就労状況は問わない)を抽出しました。
2.調査方法 インターネット調査(株式会社クロス・マーケティングのモニター)
3.調査時期 2016 年10 月
4.回答者の属性(60 代の就労状況)
再就職先の決定に至る状況
再就職をした60 代の「前職を退職する前から、再就職先が決まっていた」への回答割合は男性36.8%、女性22.2%
図表1は「再就職」をした人に対し、再就職先の決定に至る状況についてたずねた結果です。性別にみると、男性では「前職を退職する前から、再就職先が決まっていた」(以下「退職前から決まっていた」)が36.8%で最も多く、次いで「職探しを開始後、満足のできる再就職先がすぐに見つかった」(以下「すぐに見つかった」)が30.3%となっています。これらを合わせると、男性の7割近くは時間をかけずにスムーズに再就職先を決定することができたようです。女性は「退職前から決まっていた」が22.2%、「すぐに見つかった」が17.8%であり、男性の回答割合を大きく下回っています。
他方、「職探しに時間がかかったが、満足のできる再就職先が見つかった」(以下「時間はかかったが見つかった」)や「あまり満足していないが、職を選ばなければすぐに見つけられた」(以下「職を選ばなければすぐに見つけられた」)、「前職と同じような仕事を続けたかったが、見つからなかったので別の仕事を見つけた」(以下「あきらめて別の仕事を見つけた」)の回答割合は女性のほうが男性より高いです。女性は、満足のできる仕事を見つけるまでに時間をかけることが必要だったり、満足のできる仕事を得ることをあきらめて別の仕事に就いたりしている人が少なくないことがうかがえます。
再就職先の探し方
男性は「知人・友人が紹介してくれた」(36.8%)、女性は「ハローワークを利用した」(33.3%)が最も多い
再就職先の探し方についても男女で回答傾向が異なります。男性は「知人・友人が紹介してくれた」が36.8%で最も多く、次いで「前の勤め先が紹介してくれた」が26.3%となっています(図表2)。男性は知人・友人や前の勤め先の紹介によって再就職先を決定している人が女性よりも多いようです。
女性は「ハローワークを利用した」が33.3%で最も多く、次いで「知人・友人が紹介してくれた」が28.9%となっています。「インターネットの求人情報で探した」の割合も22.2%と約5人に1人の割合です。女性の場合は男性よりも前の勤め先による紹介は非常に少なく、ハローワークやインターネットなどを利用して再就職先を探した人が多いことが特徴です。男性の場合は、前の勤め先の紹介があることが再就職のしやすさにつながっているようですが、女性の場合は、勤務先による紹介に頼ることができず自力で探さざるを得ないことが再就職の厳しさに関連していると思われます。
しかしながら、今後は女性の活躍推進とともに定年を迎える女性が増えるにつれて、定年前後に再就職という道を選択する女性も増えると思われます。男女ともに再就職先を探す人が増えれば、これまでのように勤務先に再就職先の紹介を受けられるケースは一定程度に限られ、多くの人は外部の求人情報等によって自力で再就職先を探すことが必要になると思われます。そのため、これまで以上に再就職市場の活性化が重要になります。
他方、男女ともに働く側も、定年直前よりも早い時期、例えば40 代や50 代前半から、 60 歳以降も働き続けることを念頭に置いて新しい知識や技術の習得を図るなど、自己の職 業能力の向上に努めることも必要でしょう。
60歳を過ぎても職業生活を継続するために必要なこと
再就職をした60 代女性は「専門的な知識・技能」(31.3%)と「幅広い知識・技能」(29.2%)の回答割合が女性の中では高い
現在働いている人に、60 歳を過ぎても職業生活を継続するためにどのようなことを必要と思っているかをたずねた結果が図表3です。
性・年代・就労状況別にみると、「特に必要なことはない」と回答した人の割合は50 代後半の男性の13.0%が最も高く、これ以外の属性では1割未満です。多くの人は何らかのことが必要と考えているようです。具体的には、いずれの属性も「身体的な健康・十分な体力」「働く意欲」「精神的な健康・メンタルの強さ」が上位です。60 歳以降も働き続けるためには、まずは「体力・意欲・気力」が重要と思っている人が多いことがわかります。
次いで、いずれの属性も「専門的な知識・技能」や「幅広い知識・技能」が2~3割で続いています。こうした知識・技能を挙げた割合は男女ともに60 代の方が50 代後半よりも高いです。特に再就職をした60 代女性は「専門的な知識・技能」と「幅広い知識・技能」に3割前後が回答しており、女性の中では高い割合を示しています。再就職した女性には専門的ないし幅広い知識や技能の必要性を認識している人が比較的多いようです。
また、「幅広い人脈」の回答割合に注目すると、いずれの年代・就労状況も男性の方が女性よりも高いです。先に、再就職にあたり女性よりも男性の方が勤め先や知人・友人の紹介で再就職先を決めた人が多いことを示しましたが、その背景には、こうした人脈形成に対する意識の差が関連しているように思われます。
60歳以降も職業生活を継続するために実行していること
再就職をした60 代の「仕事で活用できる資格を取得した」割合は男性20.5%、女性16.7%で勤務継続をした人よりも高い
60 歳を過ぎても職業生活を継続するために、どのようなことが実行されているのでしょうか。
性・年代・就労状況別にみると、まず50 代後半では男女ともに「特にない」が7割近くを占めています(図表4)。まだ現役で働いている人には現実味がないようで、60 歳以降も働くための準備をおこなっている人は少ないです。実行していることの中では、男女ともに「体力づくりをおこなっている(経験がある)」(以下「体力づくり」)が男性22.1%、女性21.2%で最も高い回答割合です。図表3で、働き続けるために必要なこととして「身体的な健康・十分な体力」が、男女ともにいずれの年代も1位であったことからも、定年後の継続就業には体力づくりが重要と認識している人が少なくないことがわかります。
次に60 代をみると、男女差というよりも就労状況によって回答傾向が異なります。男女ともに再就職の人では「特にない」が5割以下と他よりも低く、半数以上の人は何らかの準備をしているようです。具体的な内容は「体力づくり」の割合が男女ともに3割以上を占め、最も高いですが、「仕事で活用できる資格を取得した」の割合も男性20.5%、女性16.7%で他よりも高いです。再就職を経験した60 代は、男女ともに専門的ないし幅広い知識・技能の必要性を認識している人が他よりも多かったですが、実際に知識や技能を身につけるための準備をしている割合も他より若干高いことがうかがえます。
60歳以降も職業生活を継続するために自発的に実行していることが特にない理由
60 代では男女とも「仕事上必要な知識・技能が既にあるので必要がない」の割合が男性50.0%、女性42.1%で最も高い
他方、60 歳を過ぎても職業生活を継続するために自発的に実行していることが「特にない」と回答した人にその理由をたずねたところ、50 代後半では男女ともに「時間的余裕がない」の割合が4割近くを占め、次いで男性は「仕事上必要な知識・技能が既にあるので必要がない」(以下「知識・技能が既にある」)(31.5%)、女性は「費用がかかる」(27.3%)が続いています(図表5)。
60 代では、男性は「知識・技能が既にある」への回答割合が、勤務継続の人も再就職の人も5割前後を占めています。女性で勤務継続の人は「知識・技能が既にある」が4割以上で最も多いですが、サンプル数が限られているものの再就職の人は「60 歳を過ぎたら既存の知識・技能が活かせる仕事を選ぶので必要がない」(以下「既存の知識・技能を活かす仕事を選ぶ」)に半数近くが答えています。男性の再就職の人も「既存の知識・技能を活かす仕事を選ぶ」に3割以上が答えていることをみても、再就職の際には男女ともに、既にある知識・技能を活かして仕事を選ぶ人も一定程度いることがうかがえます。
勤務先から定年後の仕事に関する情報提供を受けたか
「定年後の仕事内容や労働条件についての情報提供を受けた」と回答した60 代の割合は男性51.2%、女性36.1%
一方、勤務先では定年前後の従業員に対して、定年後の仕事に関するアドバイスや情報提供をしているでしょうか。勤務先からアドバイス等を受けた経験をたずねた結果をみますと、性別による違いが目立っています。
いずれの年代も、男性よりも女性の方が「特になし」の回答割合が高く、男性に比べて女性はアドバイス等を受けていない人が多いです(図表6)。特に50 代後半では女性の53.0%が「特になし」と回答しています。60 代女性の「特になし」の割合は28.4%にとどまりますが、「定年後の仕事内容や労働条件についての情報提供を受けた」割合は36.1%であり、男性(51.2%)より15.1 ポイント低いです。また、「継続就業のために身につけるべき知識や技能についてのアドバイスを受けた」については、いずれの属性も1割以下と低いです。定年後も働く意思のある人が働き続けることが可能になるためには、必要な知識や技能の習得の機会を与えるなど企業による人材育成の強化も必要と思われます。
従業員自身による準備も重要ですが、企業側も人材活用の方向性を検討の上、従業員に対し、定年に向けた働き方についての情報提供や人材育成を積極的に図ることも必要と思われます。
≪研究員のコメント≫
以上、定年前後の就労実態や60 歳以降も働くための準備状況をみてきました。調査結果から、そもそも定年を経験する人が男性に多いばかりでなく、定年後に再就職する人も男性の方が女性より多いことがわかりました(2ページの60 代の就労状況より)。今回、定年前後の再就職に注目したところ、男性は定年退職前から再就職先が決まっていたり、決まっていなくても「すぐに見つかった」という人が女性に比べて多いです。男性の方が女性よりも再就職が多い背景には、男性の場合、知人・友人や勤め先の紹介によって再就職先を決定できる人が多く、自力で外部の求人情報を頼りに就職先を決める女性に比べ再就職に対するハードルが低いことが関連していると思われます。この他、再就職をしている人の特徴として、男女ともに既に獲得している知識や技能を活用して仕事を選ぶ傾向がみられました。定年退職前から一定の知識・技能を持っていることが必要であり、それを前提として、定年後の就業を実現しています。高齢期の就労が一般的な生涯現役社会に向かう中、個々人が新しい知識や技能を習得することで自らの職業能力を開拓し、人材価値の向上を目指していくことが必要です。
男女雇用機会均等法の施行(1986 年)後に入社した女性があと数年で60 歳を迎えます。以後、定年退職を経験し、定年後も働く女性が増えるようになると、これまでのように人脈を頼りに再就職先を決められるケースばかりではなくなるように思われます。現役時代からの人脈形成も大切ですが、専門性や幅広い知識や技術を蓄積した上で、自力で求人情報などを活用して定年後の勤務先を決めることも求められるようになるでしょう。
今後、労働力人口が減少する中、わが国の経済を支えるために男女を問わず高齢者も労働参加が必要とされており、働く意思のある人が出来る限り働き続けることができる社会の構築が求められています。女性の活躍推進により、これまで以上に女性も定年退職を経験するようになる中で、定年を機に再就職の道を選択する人が増えると思われます。働く側が現役時代から退職後の働き方を意識して、自分の職業能力を振り返り、どのような知識や技能が必要かを見極めるなどの準備も必要です。一方、行政もハローワークなどにおける就業マッチングの拡充など、定年後の再就職市場を活性化させるための環境整備が求められます。さらに、勤務先における定年後の仕事に関するアドバイスや情報提供も、男性に比べて女性は受けている人が少ないことから、今後は企業も定年退職者の人材活用の方向性を検討し、女性の従業員に対しても、定年に向けた働き方についての情報提供を強化することも必要と思われます。(提供:第一生命経済研究所)
株式会社 第一生命経済研究所 (研究開発室 上席主任研究員 的場康子)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(津田・関) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi