中小企業のオーナーが死亡し、その後継者が会社の株式(非上場株式)を相続した場合に、多額の相続税が課税されることにより、経営の円滑な承継が難しくなるという社会問題を解決するために事業承継税制が創設されました。
事業承継税制とは、簡単に言うと、中小企業の非上場株式にかかる相続税を納税猶予してあげるという相続税の計算上定められている特例であり、別名「相続税の納税猶予」と言います。
納税猶予という言葉の通り、相続税の納税を一時的に猶予してもらえるだけで、免除されるわけではありません。 会社経営を一定の条件のもと続けていくことで、相続税を猶予してもらうことが可能となります。
相続税の納税猶予がどういった条件で適用されるのか、どういった場合に猶予が取り消されるのか、またこの相続税の納税猶予を受けることのメリットやデメリットについてこちらの記事で解説していきます。
1.事業承継税制とは非上場株式にかかる相続税が納税猶予される制度
詳しい計算は後述しますが、事業承継税制を適用し「相続税の納税猶予」を受けると、後継者が相続する非上場株式にかかる相続税が猶予されます。つまり、一時的には相続税の大幅な節税につながり、会社経営を一定の条件を満たしながら続けていくことで半永久的に猶予してもらうことが可能であり、状況次第では実質的には免除されることとなります。
2.事業承継税制を使い「相続税の納税猶予」を受けるメリット・デメリット
要件に当てはまれば、事業承継税制を適用し「相続税の納税猶予」を受けることはメリットしかないように一見思えますが、実はとても大きなリスクもはらんでいることを十分に認識しておく必要があります。
では、実際、どのようなメリット・デメリットがあるのかを詳しく解説していきます。
2-1.「相続税の納税猶予」を受けるメリット
相続税の納税猶予を受けるメリットは、相続税の大幅な節税、これに尽きます。
換金が難しい非上場株式に相続税が課せられると相続税の納税が難しいケースも出てきます。そういった場合に、この相続税の納税猶予を受けるメリットは後継者である相続人にとっては非常に大きいでしょう。
2-2.「相続税の納税猶予」を受けるデメリット
相続税の納税猶予という言葉通り、相続税の免除ではなく、あくまで相続税を猶予してもらっている状況となるため、この猶予が取り消されるケースも当然ありえます。猶予が取り消されると、猶予を受けていた相続税を一括で納税する必要があるばかりか、猶予してもらっていた期間に係る利子税もかかってきます。
なお、相続税の納税猶予が取り消される場合には以下のような場合があります。
【事業承継税制の主な打ち切り事由】
- 5年以内に後継者が代表者でなくなった場合
- 後継者が取得した株式を他人に譲渡などして手放した場合
- 会社が資産管理会社に該当してしまった場合
- 会社が解散した場合
- 会社の年間収入がゼロになった場合
- 継続届出書を提出しなかった場合 など
3.「相続税の納税猶予」を受けるための主な要件
相続税の納税猶予を受けるためには、以下の要件を満たすことが絶対条件となります。
これらの要件を1つでも満たさなければ、事業承継税制の適用を受けることはできませんのでご注意下さい。
3-1.【要件1】申告期限までに都道府県知事の認定を受けること
相続税の申告期限までに、都道府県知事の認定を受ける必要があります。次項以降で解説しております、会社の要件や後継者の要件が満たされていることを判定の上、認定が行われます。
なお、認定を相続税の申告期限までに受けるために、相続開始から8カ月以内に“申請”を行う必要があります。相続税の申告期限である10カ月よりも早い段階で手続きが必要となりますので注意が必要です。
なお、税制改正が行われる以前は、この認定とは別に、相続開始前に経済産業大臣の確認を受けておく必要がありましたが、平成30年6月現在の法律においては、この相続開始前の認定は不要となっています。
なお、こちらの都道府県知事の認定に関する申請手続きについては、以下の中小企業庁のホームページから様式などをダウンロードすることが可能です。
事業承継税制に係る認定等の申請様式(平成27年1月1日以降に贈与・相続した場合)
3-2.【要件2】先代経営者である被相続人の主な要件
先代経営者である被相続人について、主な要件として以下の要件を満たしている必要があります。
- 会社の代表権を有していたこと
- 相続開始直前で、議決権を50%超保有していたこと※
※正確には、親族等を含め50%以上の議決権を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中でもっとも多くの議決権を保有していたことが条件となります。
3-3.【要件3】経営承継相続人等の主な要件
経営を承継する相続人が主な要件として以下の要件を満たしている必要があります。
- 相続開始の日の翌日から5カ月を経過する日において会社の代表権を有していること
つまり、相続が開始した後、5カ月以内に相続人の中で誰が後継者として代表に就任するのかを決める必要があり、この話し合いがまとまらなければ、事業承継税制の適用は受けられなくなってしまいますので注意が必要です。
- 相続開始時点で、議決権を50%超保有していること※
※正確には、親族等(被相続人も含む)を含め50%以上の議決権を保有し、かつこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有することとなることが要件となります。
3-4.【要件4】認定対象会社の主な要件
事業承継税制の適用を受ける対象の会社が主な要件として以下の5つのいずれにも該当しないことが要件となります。
- 上場企業
- 中小企業者に該当しない会社※1
- 風俗営業会社
- 資産管理会社※2
- 総収入金額がゼロの会社、従業員数がゼロの会社
※1「中小企業者に該当しない会社」に該当しないということですが、分かりやすくいうと中小企業者に該当することが条件となります。中小企業者とは、サービス業であれば資本金5,000万円以下もしくは、従業員100名以下といった基準が定められています。詳しくは、中小企業庁のFAQを参照してください。
※2「資産管理会社」とは、有価証券、不動産(自社で使用していないもの)、現預金等の特定の資産の保有割合が帳簿価額の総額の70%以上の会社や、これらの特定の資産からの運用収入が総収入額の75%以上の会社のことを言います。
3-5.【要件5】担保を提供すること
猶予される相続税の金額及び利子税の金額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。
通常は特例の適用を受ける非上場株式の全てを担保に提供することで、担保の提供があったと見做されますし、実務上も非上場株式の全てを担保に提供することが一般的です。
4.まとめ
非上場会社のオーナー一族にとって、事業承継に係る相続税の負担は非常に大きいです。 事業承継税制をうまく活用することで、相続税額を大幅に節税できる可能性がありますので、要件に当てはまった場合にはデメリットを十分に理解した上で、適用の検討をされることをぜひお薦め致します。
また、素人判断で結論を出すのではなく、必ず、相続税や事業承継税制に詳しい税理士に相談をされることをお勧めします。
(提供:税理士が教える相続税の知識)