1.はじめに

複数後継者への贈与
(画像=チェスターNEWS)

平成30年度税制改正において、これまでの一般措置に加え、適用要件が緩和された事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」が特例措置として創設されました。

この特例措置では、中小企業経営者の次世代経営者への引継ぎを支援する税制措置の創設・拡充のための制度が設けられましたが、そのうちの1つとして、「対象者の拡充」があります。

具体的には、一般措置においては、1人の先代経営者から1人の後継者への贈与・相続される場合のみが対象となるところ、特例措置においては、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となりました。

2.後継者である受贈者の主な要件

上記のように、特例措置が適用される後継者である受贈者については、その範囲が拡大されましたが、この後継者である受贈者に該当するための主な要件は下記のとおりです。
(租税特別措置法70条の7の5第2項第6号)

ⅰ)会社の代表権を有していること

ⅱ)20歳以上であること

ⅲ)役員の就任から3年以上を経過していること

ⅳ)後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数(※1)の50%超の議決権数を保有することとなること ※1:「議決権数」には、株主総会において議決権を行使できる事項の全部について制限された株式の数等は含まれません。

ⅴ)後継者の有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること(特例措置※2)

イ:後継者が1人の場合

後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること

ロ:後継者が2人又は3人の場合(※3)

総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除きます)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること

※2:一般措置については、「後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること」が要件となります。

※3:ⅴ)ロの要件について、
例えば、後継者が長男A、次男B、三男Cの3名いたとして、先代経営者Xが70%の株式を保有しているような場合を想定します。この場合に、長男A(後継者)に51%、次男B(後継者)に10%、三男C(後継者)に9%という割合で贈与をしたとすると、AとBだけが「特例後継者」となり、Cはⅴ)ロの要件を充たさないことから「特例後継者」に該当せず納税猶予を受けられなくなります。

3.時期を異にして行われた複数後継者への贈与に対する特例措置適用の可否

複数の後継者に同時に贈与される場合だけではなく、時期を異にして複数後継者に贈与されることもあるかと思います。 この場合に、特例措置は適用されるのでしょうか。

租税特別措置法70の7の5第1項には、特例措置の対象となる先代経営者の範囲から「…非上場株式等について既にこの項の規定の適用に係る贈与をしているものを除く」と規定されています。

例えば、先代経営者Xが、平成30年4月にXの長男A(後継者)に特例措置の対象となる株の贈与を行い、その後、平成30年7月にXの次男B(後継者)にも株の贈与をした場合で考えてみましょう。

この場合、平成30年4月の時点で、先代経営者Xは、既にXの長男である後継者Aに対して、特例措置の適用を受ける株の贈与をしています。このときに「既にこの項の規定の適用に係る贈与をしているもの」に該当し、Xは特例贈与者から除外され、その後の7月に行われたXからBへの贈与には特例措置を適用することができないようにも思われます。

しかし、時期を異にする後継者への贈与が「同一年中」に行われている場合には、「既にこの項の規定の適用に係る贈与をしているもの」には該当せず、当該贈与も特例措置の対象となります(租税特別措置法通達70の7の5-2(注))。

よって、上記の事例の場合であれば、先代経営者Xが、後継者Aと後継者Bに行った贈与は、平成30年4月、7月と「同一年中」に行われていることから、後継者Aへの贈与のみならず、後継者Bへの贈与も、特例措置の適用対象となります。

他方で、例えば上記事例で、後継者Bへの贈与が平成31年1月であれば、「同一年中」での贈与ではないことから、後継者Bへの贈与については、特例措置の適用対象外と考えられます。

なお、「同一年中」に、先代経営者から特例措置の適用対象となる贈与を受けた後継者が複数名いる場合には、その他の者の氏名及び住所を記載した書類を申告書に添付する必要があります(租税特別措置法施行規則23の12の2第14項第9号)。

(提供:チェスターNEWS