(本記事は、平野敦士カール氏の著書『世界のトップスクールだけで教えられている最強の人脈術』KADOKAWA、2018年9月29日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
プラットフォーム戦略Rと「ハブ」との関係
いまだに多くの人々は、新しいビジネスを構想するとき、ほぼ無意識のうちに「どんな新製品をつくろうか?」「どんな新サービスを生み出そうか?」と思うのではないでしょうか。
しかし、いま世界で急成長している企業がそう考えることはありません。
彼らはどんな「場=プラットフォーム」をつくろうか?そこで誰と誰をマッチングしようか?と考えるのです。
端的にいえば、プラットフォーム戦略Rとは、関係する企業やグループを「場=プラットフォーム」に載せることで、新しい事業のエコシステムを構築する経営戦略のことです。
フランスのジャン・ティロール教授(2014年ノーベル経済学賞受賞)たちは、2000年初頭から、この理論に注目してきました。
日本でも大前研一氏が2001年に『「新・資本論」見えない経済大陸へ挑む』(東洋経済新報社)のなかでプラットフォームの重要性を指摘しています。
ノーベル賞と聞くと、最新の理論が入り組んだ難解な存在を想像してしまいますが、じつはプラットフォーム自体は古くからありますし、それはインターネットの世界だけで存在するわけでもありません。
男女の飲み会である合同コンパ(合コン)で譬えれば、わかりやすいでしょう。
すなわち、男性グループと女性グループという2つのグループを、出会いの「場=プラットフォーム」によってマッチングすることで、双方のグループに付加価値を与える合コンの機能は、古典的なプラットフォーム戦略Rです。
このとき、その場(プラットフォーム)の主宰者を「プラットフォーマー」と呼びますが、これは合コンの幹事をイメージするとわかりやすいと思います。
そして、合コンで最も多くの情報を手に入れることができるのは、いうまでもなく幹事です。
なぜなら彼はその時間や場所はもちろん、誰を誘うかも自由に決められますし、参加者全員の連絡先という情報も入手できます。
さらにいえば、幹事はどの人とどの人の相性がよいのか、誰が誰を気に入っているのか、という情報すらも得ることができます。
合コンの幹事はまさにフリーマンのネットワーク中心性のところで出てきた人脈ネットワークの「ハブ」(媒介する人)になっている、ということができるでしょう。
プラットフォーマーに必要な資質とは?
では、そこで合コンの幹事になるために必要な資質とは、どのようなものでしょうか。
男性であれば、ものすごいイケメンでスポーツ万能、高学歴・高身長・高年収のような人でしょうか?女性であれば美人で性格がよい人でしょうか?
おそらく、そうした人は普段から異性にモテるので、別に合コンに行かなくても出会いのチャンスがたくさんあり、そもそも幹事をする必要がないかもしれません。
そして事実、合コンの幹事は別にイケメンでも、美人でもある必要はなく、モテる要素があまりない人でもできるのです。
代わりに幹事に必要とされるのは、会場探しや参加者への声がけなど、裏方の仕事をしっかりマメにやることのできる力です。
自分が前に出たいタイプの人よりも、周りの人たちに気配りができる人のほうが向いているともいえるでしょう。
プラットフォーム戦略Rにおいて、そこでどのような資質が必要か、あるいは必要ではないのかと考えるのが大切なのです。
たとえばグーグルというプラットフォーマーは、自社でブログやホームページを作成しているわけではありませんが、検索サイトという「場」を提供することによって、ユーザーというグループとコンテンツというグループをマッチングさせ、それによって自社の広告ビジネスを展開しています。
楽天市場も代表的なプラットフォーマーの一つですが、彼らは決して自社で商品をつくって売ったりはしていません。
あくまでお店に出店してもらい、そのお店の商品とお客さんとのマッチングを行なっているわけです。
インターネットの世界ではありませんが、ブランド品などを扱うアウトレットモールなどもわかりやすいでしょう。
運営者の多くは三菱地所、三井不動産などの不動産会社です。
人気のブランドショップを集めることによって、自らはモノを売らなくても、ブランド品を買いたい多くの人を集客することに成功しています。
こうしたプラットフォームビジネスの成功例に共通して見られる特徴は、それにかかわっているすべての人にメリットを提供している、ということです。
たとえば、アウトレットモールに参加する店舗は、一店舗だけでそれを行なうよりもはるかに低コストで出店が可能になり、かつ効率的に集客が可能になります。
トイレの設置や駐車場の運営などは、プラットフォーマーである不動産会社が行なってくれるからです。
とはいえ、そこで最も大きな恩恵を受けるのが、プラットフォームを提供している“胴元”であることも、いうまでもありません。
人気のブランドショップを集めることができれば、それまで人があまり来なかった地域でも、多くのお客さんを集めることが可能になります。
そこでSNSなどを通じて評判が伝われば、宣伝費をかけなくてもさらに来客数は増加するでしょう。
そうなると、そこに参加したいと思うブランドショップが増え、ますますお客さんが増えていくという「ポジティブフィードバック(正の循環)」が生まれ、プラットフォーマーである不動産会社には、テナントの出店料やその他の売上が加速度的に集まります。
そして、来場したお客さんはすべてプラットフォーマーの会員となり、いったん会員になれば、メールなどで何度でもイベントなどの告知や来店誘導をすることができるようになるのです。
いかにメンバー間に公平な配分ができるか
このようにプラットフォーマーは裏方として「場」の整備を行ない、「他社の力」を利用することによって、参加するグループすべてに価値を与えることで満足感を得てもらうわけですが、繰り返しますが、そこで最も利益を得るのはプラットフォーマー自身です。
ただし、見落としてはならないのは、プラットフォーマーだけが利益を総取りするようなことをせず、参加者に満足のいく収益の配分をきちんと行なうべきである、ということです。
合コンの幹事だけがおいしいところを毎回もっていってしまえば、いつしかその人が開く合コンには人が集まらなくなるでしょう。
逆に、参加した人が満足すれば、よい評判がその人のネットワークを通じて急速かつ自動的に拡散します。
いまや世界最大のEコマース(インターネットなどのネットワークを介して商品情報を発信し、契約や決済などを行なう取引形態)企業になったアマゾンも、当初はオンライン書店でした。
インターネットで本を売るサイトだったのです。
その後、アマゾンは中古本などのマーケットプレイスをつくることでプラットフォーム化を図りました。
とりわけアマゾンアソシエイトと呼ばれる仕組みによって、ユーザーがアマゾンの商品をツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアで自然に拡散してくれたことで、急拡大したのです。
アソシエイトまたはアフィリエイトとは、成果連動型報酬広告のことです。
たとえばあなたのブログである企業の商品を紹介し、そのブログ経由で商品が売れた場合、その商品の販売者から売上の一部を報酬としてもらえるという、成果報酬型広告の仕組みです。
私がブログを書いているアメーバブログ(アメブロ)でも、アマゾン、楽天、ユニクロなどのアフィリエイトができるようになっています。
そうした仕組みが構築されていくなかで、商品を一気に拡散させることが可能になったのです。
ユーザーのフリクションを軽減したAirbnb
ビジネスにおけるプラットフォーマーの話を続けましょう。
近年、Airbnb(エアービーアンドビー)やUber(ウーバー)といった「シェアリングビジネス」と呼ばれる新しいかたちのプラットフォームが急速に拡大し、既存産業を破壊(ディスラプト)しながら新プレーヤーとして台頭しています。
しかしAirbnbは、世界最大のホテル宿泊事業を展開していますが、物理的な意味での部屋は一つも所有していません。
ウーバーも世界最大のタクシー事業を行なっていますが、原則としてクルマはもっていません。
Airbnbは部屋を借りたい人と貸したい人を、ウーバーはクルマに乗りたい人と乗せたい人をマッチングしているのです。
とはいえ、彼らは単純にマッチングを行なっているだけでもありません。もしあなたが自宅に空いている部屋があったとしても、それを「赤の他人」に貸したいと思うでしょうか。
多くの人は、泥棒だったら怖いから無理だとか、物を壊されたり盗まれたりするのではないかとか、もしかしたら危害を加えられてしまうのではないか、と恐れるかもしれません。
「赤の他人」に貸し出すわけですから、そう感じても不思議ではないでしょう。
こうした人の行動を阻害する要因を「フリクション」と呼びます。フリクションとは、摩擦あるいは障壁という意味です。
このフリクションを取り除く仕組みをつくったことで、Airbnbは一気に広がったのです。そこで彼らは貸し手と借り手双方に「信頼」の仕組みを提供しました。
具体的には、スマートフォンのアプリで双方のニーズを満たすような最適なマッチングを行なうだけでなく、双方向のやり取りを記録し、さらに決済までアプリで完結できるようにしたのです。
これによって、宿泊者以外の人がその情報を見たときも、宿泊先のオーナーのことを知ることができるようになりました。
さらには万一、物を壊してしまったなどの被害が出た場合に備えて、最大約1億円の保険もAirbnbは提供しています。
ウーバーも同じように、フリクションがなくなるための仕組みを提供しています。
自分のクルマに他人を乗せてお金を稼げたらいいだろうな、と思う人はたくさんいることでしょう。
自家用車をもっても月々の駐車場代は高いし、実際に自分でクルマに乗る日は限られている……。その一方、タクシーを利用している人も、タクシー代は高いし、なかなかすぐに捕まらない、と考えているはず。
そこでの双方の悩み、つまりフリクションをウーバーは解決したのです。
私も何度かウーバーを使ってみましたが、とても快適でした。
まずスマートフォンの専用アプリをダウンロードし、自分の現在位置を伝え、クルマを呼びます。行き先も事前に入力します。
するとスマホのアプリ上の地図に周辺にいるクルマが表示されて、「あと5分で到着します」などの連絡があります。
その時間どおり、目の前に黒塗りのクルマが到着します。
乗車すると、目的地を伝えなくとも走り出します。すでに目的地はスマホで知らせているからです。
目的地に着いたらそのまま降ります。支払いはすでにクレジットカードで終了しています。
その後、ドライバーの評価をします。
たまにあまり道に詳しくない人もいるので、そうした場合は少し厳しめの採点をします。態度が悪い人も同様です。しかしほとんどは素晴らしいドライバーです。
それらをすべてスマホのアプリで行ないます。
こうした流れ一つをとっても、ウーバーが成功したのは、たんにタクシーを呼ぶためのサービスではないから、ということがわかるでしょう。
マッチングだけでなく、そこでのドライバーと乗客とのあいだのすべての取引をスマートフォンのアプリで記録し、GPSで位置情報を把握し、さらに決済まで行ない、双方の評価を実施することで、双方への「信頼」を提供することに成功したからです。
いまや遊休不動産などで使用していないものがあれば、何でもシェアリングサービスの俎上に載せることができます。
少し前にはアメリカで自宅のトイレを貸してもらえる家を探せるAirPnPというサイトが話題になりましたし、日本でも店舗が休みの日に店舗の前の軒先を借りられる「軒先ドットコム」などが注目されています。
使っていない服を貸し借りする「エアークローゼット」など、それこそアイデアは無限に出てくるのではないでしょうか。
重要なのはマネーよりもフレンドシップ
プラットフォームと「信頼」の関係について、話を進めていきましょう。
かつての企業戦略は簡単にいえば、顧客の「経済的なニーズ」、つまり、物欲や金銭欲を満たすことによってどう利益をあげていくか、というものでした。
しかしフェイスブックやツイッターといったSNSの急激な拡大によって、企業は顧客の「経済的なニーズ」を満たすだけでなく、「ソーシャルなニーズ」、具体的には友だちとの絆やつながりを支援することが収益につながる、という認識をもつようになったのです。
なぜか。
ボストンのコンサルティング会社であるMPDで私の同僚だったミコワイ・ヤン・ピスコロスキ(現在はスイスIMDビジネススクール教授)は、『ハーバード流ソーシャルメディア・プラットフォーム戦略』(平野敦士カール訳、朝日新聞出版)において、以下のように主張しています。
「ソーシャルの失敗(ソーシャルメディア上で交流がうまくいかないこと)が生じるのは、相互交流コストに起因する。
どのように発生するのか具体的に2人の人間の双方にメリットを生む相互交流で考えてみよう。
そこで得られる利益が、彼らが各自他の活動をして得られる利益よりも大きければ、この関係は互恵的な関係といえる。
次に、相互交流コストが存在する可能性を考えてみよう。たとえば、2人の人間が離れたところにいる場合、あるいは交流を始める際に著しい不快感を経験する場合に、コストが発生する。
相互交流に伴うコストが上回る場合、交流が始まることはなく、ソーシャルの失敗が発生する。」
この「ソーシャルの失敗」を起こさないように、企業は「マネー」ではなく「フレンドシップ」を大切にすべきである、という認識が一気に高まってきたのです。
まずは企業が顧客に有益な情報を提供することで、その顧客に
(1)新しい友だちが増える、
(2)既存の友だちとの関係が強化される、
というメリットを与えることができれば、顧客は「喜んでお金を払う」ようになり、その企業のファンになってくれる、とピスコロスキは主張しました。
そこでは決して宣伝したり、売り込んだりしてはなりません。
あくまで有益な情報を先に提供すること、そして同じ関心をもつ人々のコミュニティをつくることが重要なのです。
多くの人が勘違いをしているのはこの点でしょう。
毎日ブログに食事の写真を載せたり風景の画像を載せたりしても、それを「情報」と呼ぶことはできません。
ほんとうの情報とは、読者のためになる、読者の抱えている問題を解決するようなものを指すのです。
人がある商品をほしいと思い、そこから購入に至るまでには、大きく分ければ2つのパターンがあります。
一つは、その広告や実物を見て、そのもの自体のデザインや機能などに魅力を感じ、ほしいと感じる場合。
読者の方もほしいものや行きたいお店などがあるときには、グーグルなどの検索エンジンで調べるか、食べログなどのクチコミサイトを見ることでしょう。
グーグルのビジネスモデルはまさに、このように能動的に「調べる」人たちの存在を基礎として、そこに最適な広告を配信する技術を開発したことから生み出されたのです。
もう一つは、それまでまったく興味がなかったにもかかわらず、他人、とくに信頼できる人のレコメンデーション(推薦)やクチコミを見ることなどによって、初めてそれをほしいと感じる場合。
この領域は、単純な広告やグーグルなどの検索エンジンではアプローチできない部分です。
友だちや信頼できる人からの推薦は、単純な広告よりもはるかに心を動かされます。
それが強い消費行動に結びつくのは当然ですが、よく考えてみれば何のことはありません、これはご近所の奥さんたちが集まった“井戸端会議”で話題になった商品をみなが買う、というのと同じ原理です。
そうした原理がそのままインターネットの世界に出現したのが、SNSなどのソーシャルメディアであるといえるでしょう。
リアルの人間関係がそのままインターネット上に展開されたからこそ、実名登録のフェイスブックが支持され、それがそのまま世界一のプラットフォームになったのです。
だからこそ、そこで企業は顧客の「ソーシャルなニーズ」を満たすことができれば収益をあげられる、ということになるわけです。
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