(本記事は、平野敦士カール氏の著書『世界のトップスクールだけで教えられている最強の人脈術』KADOKAWA、2018年9月29日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
成功するプラットフォームの3条件
「成功するプラットフォーム」には3つの特徴がある、と私は考えています。
以下、その3つについて順次、紹介していきましょう。
1.フリクションをなくす存在になっているか
成功するプラットフォームの第一の特徴は、そのプラットフォームで社会に存在するどのような問題点を解決したいのか?ということを明確に意識していることです。
成功するプラットフォームは非常に具体的な経営理念を有していて、先に申し上げたように、社会に存在するさまざまなフリクションをなくすことによって、その参加者に新しい価値を提供しています。
そこでは直接やり取りをするよりも効率性が上がったり、選択の範囲が広くなったりするなどのメリットが参加者にもたらされることが必要です。
フリクションが軽減されるというメリットこそ、プラットフォームが生み出す価値そのものであり、その価値が大きいほど、そのプラットフォームの成功確率は高まります。
逆にいえば、フリクションがあるところにこそチャンスがある、という言い方もできるでしょう。
フリクションを解決することによって生まれる付加価値を参加者全員が満足するように分配することで、そのプラットフォームはさらに大きくなります。
成功する企業は、その核となる経営理念をもっています。経営理念は「ビジョン」と「ミッション」とに分けられます。
ビジョンとは、将来、どのような姿や状態をめざしているか、ミッションとは、社会にどんな貢献をしたいのか、ということだと理解すればよいでしょう。
日本企業で有名な理念としては、たとえばパナソニック創業者の松下幸之助氏が唱えた「水道哲学」(水道の水のように低価格で良質なものを大量供給することによって、物価を低廉にし、消費者の手に容易に行き渡るようにする)があります。
これは松下氏が戦後の混乱期のなかで、日本に対して果たすべきミッションを具現化したものです。
ちなみにプラットフォーマー企業の経営理念は、以下のような内容です。
アマゾン・ドット・コム
Earth’s most customer centric company.(地球で最も顧客中心の企業)
グーグル
To organize the world’s information and make it universally accessible and useful.(世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする)
フェイスブック
Bring the world closer together.(人と人とがより身近になる世界を実現する)
いずれにもITによる利便性というイメージを越え、自らの力によって人々の役に立ち、世の中を変える、という強い意志を感じるでしょう。
そうした経営理念や経営哲学への共感を呼ぶことができれば、顧客はその夢を実現しようとする仲間になってくれます。
世の中のためになること、誰かの問題を解決すること。
これをやりたい!実現したい!という情熱や信念こそが、共感を集めるのです。
その一方、そこで生まれた付加価値をプラットフォーマーは参加者にどう適正に分配するのか、ということに対しても、心血を注がなければなりません。
崇高な理念を謳っていても、結局はプラットフォーマー一人だけが儲かるような仕組みが確立してしまうと、参加者は他のプラットフォームに移ってしまう可能性が高くなります。
みなさんもオンラインショッピングを行なう際、アマゾン、楽天、ヤフー、あるいはお店のホームページなど、さまざまなサイトを利用されていることでしょう。
こうして複数のプラットフォームを使うことを「マルチホーミング」といいますが、そこで満足できない経験をすると、ユーザーはすぐに他のプラットフォームへと逃げてしまうのです。
そこで自身がプラットフォーマーになるときにもつべきイメージは、「自分一人で1億円稼ぐのではなく、10人で100億円稼ぐことで、1人当たり10倍稼ぐ」という発想の切り替えです。
つまり、自分1人で1億円を稼ごうとするのではなく、10人で一緒にプラットフォームをつくることで全体の収益のパイを100億円に増やし、結果として一人当たりの儲けの金額を1億円から10億円へ増やす、というイメージをもつのです。
日本企業はこうした発想がなかなかできず、どうしても、自分だけで利益を独占したほうが儲かるのではないか、と考えてしまいがちです。
一社で稼ぐ金額を1億円から10億円に増やそうとばかりするのです。
他方、成功するプラットフォーマーはいかに多くの企業とアライアンス(提携)することでプラットフォームを大きくしていき、参加者全員が得をするようになれるか、と考えます。
一人(一社)では実現できないことが多くの仲間と実現できるからこそ、プラットフォームの存在価値があるのです。
一例を挙げましょう。
これまで企業間取引(B2B)のプラットフォームはなかなか成功しないといわれてきました。
個人ではなく企業同士の場合には、すでにある程度、交流を行なえるような仕組みが存在していたからです。
それにもかかわらず、“中国のアマゾン”ともいわれるアリババが、アリババドットコムなどB2Bのプラットフォームで成功したのは、中国ではモノが売れても入金がなされないなど、企業間の資金決済への信用度が低い問題を解決したからだとされています。
そこでアリババは、「エスクロー口座取引」を導入することによって、企業間の資金決済の信頼度を担保し、フリクションを大幅に削減しました。
「エスクロー口座取引」とは、売り手と買い手のあいだに第三者である金融機関を介することによって、双方が納得した段階で代金決済をするという仕組みのことです。
モノの売買の際には、まずモノを買う側が代金を金融機関に預けておき、モノが買い主に届いた段階で、当該代金を売り主の口座に振り込むというスキーム(手法)といえば、イメージしやすいでしょうか。
アリババの創業者であるジャック・マーはかつて中小企業で働いていた経験があり、中国に無数に存在するスモールビジネスを助けたいという強い思いをもっていました。
そこでプラットフォームに「エスクロー口座取引」を持ち込むというイノベーションを起こしたことで、アリババは第三者金融機関を含め、すべての参加者にメリットを提供することに成功したのです。
そうした企業の取り組みを踏まえたうえで、あなたが個人としてのプラットフォームをつくるならば、そのプラットフォームの経営理念、すなわちミッションとビジョンは何か?
社会に存在するどのようなフリクションを解決しようとするのか?ということを考えるとよいかもしれません。
そのためには、5年後、あるいは年後、あなたはどのような姿になっていたいか、ということをイメージするのが大切です。
ある人はいま展開している事業を大きくして株式上場を果たし、世界進出をめざすことを狙っているかもしれません。
その一方、なるべく自分と家族の生活を中心にして、好きなことをしながらできる範囲で自由な生活をしたい、と思う人もいることでしょう。
後者であれば、あまりお金が儲からなくても継続できるようなことで、社会の問題解決につながることは何か、と考えれば、何かのヒントが浮かんでくるかもしれません。
自分が好きなこと、得意なこと、社会が必要としていること、という3つの重なりを探し出すのが理想ですが、たとえいくら稼げても、それが自分の苦手なことであれば、継続するのは難しいでしょう。
「好きこそものの上手なれ」です。
さらにいえば、そうした理念や哲学は年齢や経験とともに変わっていくこともあります。一度決めたら変えないという理由はありません。
前述のフェイスブックの経営理念は2017年6月に変更されたものです。
むしろ大切なことは、それをいつまでに実現するか、という時間軸を設定することでしょう。
2.「場」の自動増殖機能が活発か
成功するプラットフォームの第二の特徴は、「場」に参加する人同士の交流が活発かどうか、言い方を変えるなら「自動増殖機能」を備えているか、ということです。
そのプラットフォームに行けば、自らのニーズが満たされることを参加者が認識すれば、その参加者はそれを周りの人に伝えてくれます。
そこで交流が発生することによって、プラットフォームの価値は上がっていきます。重要なのは自ら宣伝を行なうのではなく、参加している人がどんどん他の参加者を招いてくれる仕組みの構築です。
先にご紹介したアマゾンアソシエイトの仕組みは、この自動増殖に大きく貢献しました。
あるいはフェイスブックがたった数年のうちに、全世界で20億人ものユーザーを獲得できたのも、ゲーム作成のための仕様(API=アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を公開して、多くの会社がゲームを自由に作成できるようにしたからです。
このAPI公開によって、多くの会社が多数のゲームを投入しましたが、そのゲームの多くには「友だちを誘う」という機能がありました。
ゲームをするためには友だちを誘う必要があるため、フェイスブックの会員になる必要があり、フェイスブックの会員はどんどん増えていきました。
その結果、フェイスブックは自ら宣伝や勧誘をしなくても、ゲームの制作会社、そのゲームで遊ぶユーザーたちによって自動的に会員が増加する仕組みを構築できたのです。
このようにプラットフォームを拡大するためには、いかにして「交流」を活発にする仕組みを取り入れるかが重要となります。
そして、この「自動増殖機能」を実装するためには、4つの重要な考え方があることを、『最新プラットフォーム戦略マッチメイカー』(平野敦士カール訳、朝日新聞出版)において、シカゴ大学講師のデヴィッド・S・エヴァンスと、元マサチューセッツ工科大学スローンスクール学部長のリチャード・シュマレンジーは明らかにしました。
順番に解説していきましょう。
(1)サイドスイッチング
これはフェイスブックやツイッターのように、他人の投稿を見る人が、自分でも投稿することができる、というものです。
あなたのブログをプラットフォームとする場合には、コメント欄に書き込みをしてもらったり、ブログに読者登録をしてもらったり、相手の方のブログにあなたがコメントを残したりといった方法で、お互いが交流することが可能になります。
ただしブログの場合にはスパムも多いので、フェイスブックでの友だち限定の投稿を活用したり、会員登録した人のみがコメントをできるようにしたりするなどの工夫が必要になるかもしれません。
(2)フリクションレスエントリー
これはフリクション(摩擦)がない投稿ということです。画像や短文など、誰もが簡単に投稿できるものがよいということです。
インスタグラムやツイッターが流行った理由は、画像であるため、あるいは140字という制限があるために、誰でも簡単に投稿ができて交流がしやすかった、という部分にこそありました。
(3)最適なマッチングアルゴリズム構築
マッチングアルゴリズムとはすなわち、参加者同士が意図した相手と出会うことができるような仕組みを構築することです。
たとえば合コンに足を運んでもいつも出会いがなければ、多くの人は参加するのをやめようとするはずです。
逆に、事前にどのようなタイプの人が好きなのか、趣味は何か、どのような考え方の人を求めているのかなどの情報があれば、そこでマッチングが実現する可能性は格段に高くなるでしょう。
グーグルの検索が高い人気を得たのは、検索する人が意図するような内容のサイトがすぐに探せたからです。
多くの検索エンジンが存在するなかで、ユーザーがほしいと思っていた情報を最も素早く検索結果として表示できたのが、グーグルなのです。
このように最適なマッチングをするためのアルゴリズムこそ、そのプラットフォームが自動的に増殖するかどうかの最も重要な点だといえます。
とはいえ、具体的にどうやって最適なマッチングアルゴリズムをつくればよいのでしょうか。
2014年にノーベル経済学賞を受賞したフランスのジャン・ティロール博士は、「4つのネットワーク効果」という概念によって、そのアルゴリズムを構築すべきである、と述べました。
「4つのネットワーク効果」とは、「直接効果」における正と負、「間接効果」における正と負の4つを指します。ここでいう「直接効果」とは、プラットフォームに参加する同じグループに与える効果のことです。
「間接効果」とは、異なるグループに与える効果のことです。そしてそれぞれに正と負の効果が起こります。
つまり合計で4つの効果が起きうるのです。
これだと何をいっているのかわからないでしょうから、簡単に説明しましょう。決して難しくはありません。
たとえば、男性グループと女性グループの合コンを考えてみましょう。あなたは男性であると仮定します。
その男性グループに超イケメンでお金もちのAさんが参加すると聞いたとき、あなたはどう感じるでしょうか。正直にいえば、強力なライバルが登場したと思って、嬉しくはないことでしょう。
これが男性という同じグループに生じる「負の直接効果」です。
一方、もしあなたが女性で、男性に超イケメンでお金もちのAさんが参加すると聞いたらどう思うでしょうか?
おそらく多くの方は嬉しく思い、ぜひ参加したいと感じるのではないかと思います。
Aさんという男性の参加という一つの事象は、女性グループという異なるグループに、「正の間接効果」を生じさせているのです。
それでは、女性にはモテないけれど、著名人である男性のBさんがそこに参加した場合は?おそらく男性はBさんが参加することで興味をもって参加する可能性が高くなるのではないかと思います。
一方で女性も、別にBさんはタイプではないけれど行ってみてもいいかな、となる可能性があります。
この場合には、男性という同じグループにとって「正の直接効果」が生じるとともに、女性という異なるグループにも「正の間接効果」が生じています。
こうした「4つのネットワーク効果」という概念がとくに役に立つのは、どのグループにいかなる価格を設定すべきかを検討する場合などです。
たとえばある合コンでは男性は1万円の参加費なのに、女性は5000円、場合によっては無料だったりします。これは女性がなかなか集まらない場合です。
しかし、そこで男性が医者や弁護士などの人気職業に限定されていれば、逆に女性が1万円を払う一方、男性はほとんど無料、という場合もあります。
こうした価格設定について、「4つのネットワーク効果」を見ながら調整することで、その「自動増殖機能」をさらに高めることができるのです。
(4)参加グループのバランス
「自動増殖機能」を実装するための4つ目の考え方は、参加グループのバランスがとれているかどうか、ということです。
これも実際にあった事例で説明しましょう。
あるお見合いサイトに絶世の美女が参加したら、多くの男性がその画像を見てメールを送りました。
大量のメールが殺到したために、結果的にその女性は退会してしまいました。
その後、そのサイトでは、画像を見る前に趣味や考え方のアンケートをとることで、内面的にもマッチングするように候補者を絞ることに変更した結果、男性と女性の双方に高い満足度がもたらされた、ということです。
先の「4つのネットワーク効果」でいえば、負のネットワーク効果を最小化するために制限を行なうことで幸せなマッチングを増やせる可能性が高まる、といえるでしょう。
これは「質のバランス」ですが、「量のバランス」が重要なことも理解しやすいはずです。男性が1人だけで女性が100人の合コンは成立しません。
質・量ともにバランスをとることによって、「自動増殖機能」を高めることができるのです。
3.クオリティコントロールがなされているか
以上、「成功するプラットフォーム」の2つ目の特徴が長くなってしまいましたが、最後に3つ目の特徴についても述べておきましょう。
それはずばり「クオリティコントロール」です。
プラットフォームが拡大していく一方で、そのトレードオフ(一方を追求すれば他方が犠牲になる状態)としてコンテンツの質が低下したり、ユーザー同士のトラブルなどが多発してしまっては本末転倒です。
プラットフォーマーは、プラットフォームの弱体化につながらないように質のチェックの仕組みを設けるなどのコントロールをすべきです。
「悪貨は良貨を駆逐する」といいますが、たとえば、かつて北米の家庭用ゲーム市場の8割のシェアを獲得して大成功した「アタリ」が、わずか数年で売上が30分の1程度に激減し、実質破綻した「アタリショック」のような例があります。
ゲーム機メーカーであったアタリはスティーブ・ジョブズが在籍していたことでも有名な会社ですが、自社のゲームソフト以外の第三者による粗悪なゲームソフトでも遊べるようになってしまったために大量の質の低いゲームが氾濫し、アタリのゲームはどれもひどいという評判が立ってしまったことで人気が急落して、「アタリショック」と呼ばれる状況に陥ってしまったのです。
最近もツイッター社の身売り話が出ましたが、最終的に誰も買収しようとしなかったのは、そのクオリティチェックがなされていないことが要因だとも報道されました。
ツイッター社もようやくその重要性に気がつき、規約の変更などを実施していますが、その実効性に注目したいところです。
それらを身近な例に転じれば、もしあなたが勉強会に参加した際に知り合った人から、そのあとで高額な商品の売り込みを受けたとしたら、おそらく二度とその勉強会には参加したくないと思うのではないでしょうか。
そこにおけるクオリティをどうコントロールするのか、ということに勉強会の主宰者は心血を注ぐべきなのです。
ここまで「成功するプラットフォームの3条件」について述べてきましたが、簡単にまとめておくと、プラットフォームを構築する際には、理念、すなわちビジョンとミッションを明確に描き、そのためのルールと規範をつくり上げる必要があります。
これは企業においてはもちろん、あなた自身の「マイプラットフォーム」を構築する際にも、とても重要な点です。
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