高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化といった社会情勢に対応するために、配偶者の死亡により残されたもう一方の配偶者の生活への配慮などの観点から、相続に関する規律を見直す必要があるとして、法制審議会民法(相続関係)部会において民法改正の検討が進められていました。

相続関係の民法改正案
(画像=チェスターNEWS)

平成28年6月21日の第13回会議において中間試案が取りまとめられ、パブリックコメントの募集がなされていましたが、その後の検討や平成28年12月19日の最高裁判所大法廷判決(相続された預貯金は可分債権であり相続開始時に相続分に応じて分割される性格であるという従来の考え方を変更し、遺産分割協議の対象財産となる旨を示した判決)を踏まえて、平成29年7月18日の第23回会議において追加試案が公表されました。

部会においては、以下の検討項目が審議されていますが、今回の追加試案は、下線部の2項目を対象としています。

第1 配偶者の居住権を保護するための方策
第2 遺産分割等に関する見直し
第3 遺言制度に関する見直し
第4 遺留分制度に関する見直し
第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し
第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

「第2 遺産分割等に関する見直し」について、中間試案では、一定の条件(婚姻後の資産増加の貢献や婚姻期間等)を満たすことによる配偶者の相続分の引上げが含められていましたが、配偶者の貢献を相続の場面で評価することには限界があるとして、残された配偶者の生活を保障するという方向性自体は必要としつつ、追加試案ではその内容が大きく変更されています。

具体的には、まず、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し、居住用の土地・建物の全部又は一部を遺贈又は贈与したときは、民法903条3項の持戻し計算の免除の意思表示があったものと推定し、その価額は特別受益として扱わず、遺産分割の計算対象から除外されるとの案に変更されていますが、これは、贈与税の配偶者控除(相続税法21条の6)の趣旨が民法においても考慮されるような形となっています。

また、上記最高裁判決によって、預貯金が遺産分割の対象であることが明確になったことにより、遺産分割協議がまとまるまで預貯金の払戻しができないといった問題に対応するために、一定の条件の下に預貯金の仮払い制度を設けることが提起されています(詳しくは「チェスターNEWS」2017/09/05「平成28年最高裁判決を踏まえた分割前の仮払い制度の創設について」をご参照ください)。

その他、遺産の一部分割に係る取扱いを明文化することや、共同相続人の1人が遺産分割前に遺産を処分した場合の取扱いなどが取り挙げられています。

なお、「第4 遺留分制度に関する見直し」においては、遺留分減殺請求権について、物権的性格を持つとの従来の考え方を見直し、遺留分侵害額に相当する金銭債権として取扱うことにしつつ、金銭の支払いに代えて個別財産を給付できる旨の法整備をすることが提起されています。

追加試案は、平成29年9月22日期限で改めてパブリックコメントの募集が行われており、追加試案の対象とならなかった中間試案の内容を含め、今後の法改正のスケジュールが具体化される予定です。

(提供:チェスターNEWS