2,500万円もの非課税枠がある生前贈与課税制度の一つである相続時精算課税制度。「これほど非課税になるなら一度は活用してみたい」と思う人は少なくありません。しかし、安易に活用することで、非課税のメリットを享受する以上にデメリットを被ることもあります。

相続時精算課税制度のメリットは「非課税枠2,500万円」

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(写真=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

相続時精算課税制度は2003年から導入された生前贈与課税制度の一つです。原則として60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の子や孫に対して財産を贈与した場合、その贈与額の総額が2,500万円に達するまで相続税が課税されずに済みます。(2,500万円を超えた部分の贈与については一律20%で課税)

贈与回数や贈与可能な財産についての制限がないため、他の贈与の非課税制度よりも一見活用しやすく、メリットが大きい制度に見えるのです。しかし、それはあくまでも表面上の話といえるかもしれません。メリットが大きければ大きいほど制限も大きくなるのが税法です。相続時精算課税制度も例にもれず、以下のような多くの制限が伴います。

こんな場合はかえってマイナスに

では、相続時精算課税制度にはどのような制限が伴うのでしょうか。また、制限を注意しないことで、どのようなマイナスが生じるのでしょうか。主に次のような点が懸念材料となります。

●相続時に値下がりする財産だと損をする
相続時精算課税制度は本来、「課税の繰り延べ制度」に過ぎません。つまり、相続時精算課税制度が適用された贈与財産については、相続が発生した際、贈与時の時価で相続財産に持ち戻されます。その際、もし累計2,500万円を超える贈与があり、2,500万円を超える部分に対して、納めた贈与税額があるならば、相続税額からその分差し引かれることになります。

相続時精算課税制度の対象となった財産の時価が贈与時より相続時の方が高ければ、贈与時の低い時価で計算する分、相続税を節税することが可能です。逆に、対象財産の時価が贈与時より相続時の方が低ければ、その分高い相続税を支払うことになります。 2020年の東京オリンピックの影響で不動産の価格が上昇傾向にある昨今です。 そのため、相続時精算課税制度の適用を検討する人もいるかもしれません。しかし、相続発生のタイミングは予測できないのが現実。慎重に検討を行う必要があります。

●相続人がうっかり忘れていることも
現実に多いのが、相続時精算課税制度の適用を受けた相続人本人が、この制度を活用して贈与を受けたことを忘れているケースです。贈与を受けたことそのものを忘れていることもさることながら、もう一つの生前贈与課税制度である暦年課税制度と混同してしまうこともあります。「今回の相続と何ら関係のないもの」「すでに完結しているもの」と勘違いしていることも珍しくありません。

これが後々、税務署からの指摘などにより、相続人間のトラブルにつながることもあります。相続時精算課税制度は、生前贈与で申告・納税が完結するものではなく、相続時に課税を繰り延べるものでしかありません。制度の内容を贈与者・受贈者双方がよく知ったうえで活用するのが望ましいといえます。

●後から気づくと相続税が増加して他の相続人から恨まれる
先ほどお伝えしたように、相続人自身がうっかり忘れているとトラブルになりやすいのが相続時精算課税制度です。なぜかというと、本人が後になって気づいたり、税務署からの指摘があったりして、遺産分割協議をやり直し、相続税の修正申告を行う必要が出てくるからです。手間がかかることはもちろん、相続税の増加にもつながる可能性があるため、受贈者は他の相続人から恨まれることになりかねません。

このほか、「一度選択をしたらその贈与者・受贈者間では2度と暦年課税制度を利用できない」「期限内に贈与税の申告を行わないと20%で課税されてしまう」といったデメリットがあります。安易に活用するのではなく、専門家に相談しながら検討するとよいでしょう。(提供:相続MEMO


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