「株投資する人のためのNISA特集・筆者からみたNISAの売却時のメリットとデメリット」でお話ししたように、筆者が本コラムで一貫して提唱し、自ら実践してきた「株価のトレンドに従った売買」という手法は、NISAにはなじまないのが実情です。

ただ、筆者のコラムをご参考にしていただきつつも、それとは異なる投資手法を実践されている個人投資家も大勢いらっしゃると思われます。

そこで今回は、そうした実情も踏まえつつ、できる限りNISAを有効活用する方法を考えていきたいと思います。

「株投資する人のためのNISA特集・筆者からみたNISAの売却時のメリットとデメリット」の繰り返しになりますが、NISAのメリットは「売却益・配当金が非課税」、デメリットは「売却損は切り捨て」および「一度売却すると非課税枠は消滅」という点です。これらの点にスポットを当てて、筆者が考える方法をご紹介していきます。

売却損切り捨てリスクは承知の上で大きな利益を狙いに行く

NISA,トウシル
(画像=トウシル)

売却損は切り捨てとなる一方、利益はいくらあげても非課税…それならば売却損切り捨てリスクは承知で、より大きな利益を狙いに行く、という方法も考えられます。

その1つがいわゆる「ボロ株の大化け」を狙う方法です。今は業績がボロボロで株価も低空飛行という銘柄も、もし今後業績が急回復すれば、株価が今の10倍以上に上昇することは決して珍しくありません。そういう銘柄を探して投資するのです。例えば、過去10年間の高値から10分の1以下に下落した後ようやく本格的な反発に転じそうな銘柄(月足チャートで上昇トレンドに転じて間もないもの)です。

ボロ株であるA株に120万円、B株に120万円それぞれ投資しているケースを考えます。A株は70万円に値下がり、B株は220万円に値上がりの状態で売却したとしましょう。

A株をNISA口座に入れ、B株を通常の口座に入れている場合、A株の売却損50万円は切り捨てとなりますから、B株の売却益100万円の20%である20万円が課税されます。

A株、B株とも通常の口座に入れていれば、B株の売却益100万円とA株の売却損50万円が損益通算され、差し引き50万円の20%である10万円の課税で済みます。

このように、A株をNISA口座に入れた場合と、通常の口座に入れた場合とでは、50万円の売却損が生じたとき、NISA口座に入れた方が10万円課税額は多くなります。

一方、上のケースで、A株が1,020万円になった場合、通常の口座にA株を入れていれば課税額は(1,020万円-120万円)×20%=180万円ですが、NISA口座にA株を入れていれば課税額はゼロとなり、NISA口座の方が税金面で180万円も有利になります。

(注)2014年以降、売却益にかかる税率は実際は20.315%ですが、説明の便宜上20%で計算しています。

また、突発的な株価急落が起きると、どんなに優良な銘柄であっても株価が大きく下がりますが、相場が落ち着けば比較的短期間で元の水準に戻ります。このような、より利益を得られる可能性の高い環境を狙ってNISA口座にて買い仕込むのも戦略の1つです。

高配当利回り銘柄に投資して売却損をカバーする

NISA口座では、売却損は切り捨てとなりますから、利益を得られる可能性が高い投資先を考える必要があります。

その観点から筆者が真っ先に思い浮かぶのは、「高配当利回り銘柄」や「REIT(リート:不動産投資信託)」です。例えば、NISA口座で年間の分配金利回り4%のREITに投資して10年間(非課税期間5年+ロールオーバー5年)保有すれば、分配金だけで4%×10年=40%となります。

もし、10年後にREIT価格が値上がりしていれば売却益も非課税となりますから問題ありません。逆に10年後値下がりしていても、買値からマイナス40%までに収まっていれば、分配金と合わせて実質的にプラスの投資成果をあげることができます。

なお、高成長株や好業績株など、5年後、10年後に株価が上昇している可能性が高いと思われる銘柄を選ぶのも手ですが、将来株価が必ず上昇するという保証はありません。よほど銘柄選びに絶対的な自信があるなら別ですが、積極的におすすめできるものではありません。

ツナギ売りの活用でNISA口座での売却を回避する

NISAのデメリットの1つである「売却すると非課税枠が消滅してしまう」点を回避する方法として考えられるのが、「ツナギ売り」の活用です。

ツナギ売りとは、保有株の一時的な値下がりを回避するために、保有株を持ったまま、同じ銘柄を同じ株数だけ空売りすることをいいます。

例えば、NISA口座においてX株を1株300,000円で買ったところ、株価が270,000円まで下がり下降トレンド入りしてしまったとします。

通常であればここで損切りするわけですが、NISA口座では一度売却するとその分の非課税枠は消滅してしまいます。そこで、NISA口座のX株はそのまま保有し、通常の口座(一般口座ないし特定口座)にてX株を1株空売りするのです。

もし、X株の株価がその後200,000円まで下がったもののそこから持ち直して400,000円に上昇したならば、上昇過程で空売りを買戻せばよいのです。270,000円以下で買い戻せば空売りによる損失は生じません。

一方、X株の株価が下がったまま上昇に転じる気配がないため仕方なく売却するとした場合でも、損失の一部を空売りの利益でカバーすることができます。

売却のタイミングはどう考えるか

悩ましいのが、NISA口座で保有する株式の売却(利益確定)のタイミングについてです。NISA口座では一度売却すると、その分の非課税枠は消滅してしまいます。かといって、非課税期間の5年間、株価が右肩上がりに上昇するという保証もないからです。

利益はできるだけ伸ばしつつも、非課税期間中いつまでも持ち続ければよいわけではない、という難しい判断を迫られることになります。

これに対処するための1つとして筆者が考えるのが、例えば長期のトレンドが下降トレンドに転換したら売却する、というものです。具体的には、月足チャートで株価が12カ月移動平均線を下回った場合です。

長期のトレンドの周期は数年から長い場合は10年以上の期間となります。長期のトレンドがひとたび下降トレンドに転じると、再び上昇トレンドに転じるまで数年はかかります。

できるだけ利を伸ばすという目的と、非課税期間が5年間と有限であることを考えると、長期のトレンド転換で売却するのが筆者個人的には最もしっくりきます。

そして、長期のトレンド転換を待たずとも、株価が買値の5倍、10倍にまで上昇したら持ち株の一部を売却するのも手です。もちろんそれ以上株価が上昇する可能性もありますが、しっかりと利益を確定しておくのも大事です。

なお、高配当利回り銘柄やREITなど、配当金を重視して投資した銘柄であれば、配当金を非課税で受け取り続けるためにも非課税期間中は保有し続けるのが基本です。もちろん、その間大きく株価が上昇したならば非課税期間終了を待たずに売却してしまってもよいでしょう。

損切りできない個人投資家はNISAを活用しない手はない

このように、NISA口座では売却損は切り捨てられることが大きなデメリットになりますが、どうしても損切りができない、という個人投資家にとってはあまり関係ありません。損切りをしなければそもそも売却損が生じないからです。

損切りが重要とする本コラムの主張からすると逆説的でありますが、損切りが苦手な個人投資家は、NISAを積極的に活用すべきです。でも、筆者の本音をいえば、損切りができるに越したことがないのは言うまでもありません。

ただし、NISA口座にて投資した銘柄を値下がりしたままの状態で保有し続けると、非課税期間が終了して通常の口座(特定口座や一般口座)に移管した後の売却時に新たな問題点が発生します。この点については次回(株投資する人のためのNISA特集・非課税期間終了後の注意点とその対策を考える)にて説明します。

※このレポートは、2013年8月1日のレポートをトウシル編集チームがデータなどを一部修正したものです。

足立 武志(あだち たけし)
足立公認会計士事務所代表 公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー
個人投資家の「困った!」を解決する公認会計士。一橋大学商学部経営学科卒業。資産運用に精通した公認会計士として個人投資家向けに有用かつ実践的な知識・情報をコラム、セミナー、書籍、ブログ等で提供。株式会社マーケットチェッカー取締役として株式投資スクリーニングソフト「マーケットチェッカー2」の開発にも関わる個人投資家でもある。