「MiFID2(Markets in Financial Instruments Directive 2)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?新しい映画のタイトルのような名前ですが、実は2018年から施行される「第2次金融商品市場指令」と呼ばれるEU金融界の新規制のことを指します。証券会社やアナリストの在り方を変えるかもしれないというその内容と新しい「指令」が生まれた背景、日本への影響を知っておき、格上のビジネスパーソンを目指しましょう。
MiFID2は2018年からEUで施行される金融規制
EU(欧州連合)が2018年1月3日から施行する「MiFID2」は、2007年11月に施行された「MiFID(金融商品市場指令)」の改正版にあたります。MiFIDは、日本の金融商品取引法に相当する金融市場の新しい基本法でした。
2007年施行のMiFIDは、今までの枠を超えた新テクノロジーによる金融商品の増加を受けて、投資家の保護とEU域内での金融機関の競争を促進し、金融取引を拡大させることを目的に制定されました。施行前のEUでは、市場集中主義が原則であった有価証券取引に、取引所外の電子取引システム(ATS=Alternative Trading System、日本ではPTS=Proprietary Trading Systemで私設取引システムのこと)が普及し始めていたころで、デリバティブ(金融派生商品)を使用した金融商品の多様化も進んでいたときでした。こうした新テクノロジーを、国を超えて規制するには新しい法律が必要だったのです。
そして、今回施行されるMiFID2は、フィンテックの進展でさらに高度化していく金融市場で、より安全で透明性が高い市場の構築を目指す目的で改訂されました。新指令では有価証券以外で、相対取引で行われていた金融商品を対象にした新たな市場を創設することが決定しています。さらにアルゴリズム取引(コンピュータによる自動高速取引)やダークプール取引(機関投資家向け取引所外電子取引)といった一般投資家には見えにくい取引を規制し、投資家を保護する役割も担います。金融システム全体を一気に崩壊させるシステミック・リスクの回避をすること、監督権限があいまいだった商品デリバティブの監督権限を強化することも盛り込まれているのです。
MiFIDの目玉はアンバンドリングの強化
MiFID2の中で影響が一番大きいと見られているのが、「アンバンドリング(分離明確化)」の強化です。資産運用会社は現行のMiFIDで、投資家保護の観点から、顧客にとって最良の条件を採用する「最良執行義務」が採用されました。それとともに、リサーチに対するコストと注文の執行に対するコストをしっかりと分離すること、すなわちアンバンドリングが求められました。
アンバンドリングを、もっとわかりやすく説明しましょう。資産運用会社は自社内にリサーチ部門を持っている場合もありますが、リサーチ部門を持たない会社は証券会社のアナリストや外部リサーチ会社から情報を得ます。その情報をもとに有価証券の売買を判断し、売買執行を証券会社に委託するのです。
委託料は手数料となり、証券会社の収入になります。手数料は投資家である顧客の資産にかかるコストですから、しっかりと内容が明示されることが望ましいといえるでしょう。つまり、アンバンドリングの原則が強化されたのは、そういった点にあります。運用会社が証券会社などに払った費用が、リサーチに対する対価なのか、執行に対する対価なのかを分離して明示することが求められるようになったのです。
金融業界には昔からの商習慣として、証券会社が運用会社にシステム、データを提供し、第三者にあたる独立系のリサーチ会社に費用を払うことで運用会社から手数料を得ていました。そうした不透明な部分にメスを入れ、顧客の利益を損なわないように誠実に注文を履行することが求められたのです。
MiFID2では、アンバンドリングがさらに徹底されます。リサーチ費用がさらに明確化されるため、執行に対する対価とリサーチに対する対価をさらにはっきり分ける必要があるのです。資産運用会社が外部リサーチに対して費用を払えるのは、資産運用会社の自己資金か、リサーチ・ペイメント・アカウント(RPA)から支払われるコミッション(委託手数料)だけに規制されます。
証券会社は大手資産運用会社に対し、リサーチや執行の提供だけでなく、幹事会社などのマネジメントや投資家のミーティングをアレンジするコーポレート・アクセスにも力を入れています。コーポレート・アクセスがリサーチなのか、それともリサーチに含まれないのか、国ごとに論議になってもいます。
アンバンドリングの強化で、外部リサーチに対するコスト、特に証券会社のリサーチに対する対価が減少するとの見方が主流です。証券会社のサービスも、リサーチ中心から質の向上へと変える可能性が指摘されています。すでに一部の大手証券会社は、アナリスト数やアナリストのカバー銘柄数を減らさざるを得ないと発言もしているのです。大手資産運用会社では、自社リサーチの強化をはじめ、これまでは費用がかかると敬遠されてきた独立系リサーチ会社の活用が増えるかもしれません。
MiFID2はEUでの規制 しかし、日本でも無視できない
MiFID2は基本的にはEU内での金融規制です。日本の機関投資家や証券会社には直接は関与しません。ただ、日本株の売買代金の60〜70%が外国人投資家の売買であり、欧州機関投資家も大きな存在といえます。そのため、日本の大手証券会社もMiFID2への対応を進めざるを得ないでしょう。また、日本の大手資産運用会社も欧州で株式や債券を扱っていることから、日本の金融機関も対応を求められることでしょう。
米国や日本でも同じような流れが強化され、業界再編のきっかけとなることもあり得ます。それゆえに今後、MIFID2の報道はビジネスパーソンとして知っておく価値があるといえます。
(提供:フィデリティ投信)