シンカー: セントラルバンカーたちは世界経済の先行きに対して不安感を増しているようだ。ECBは景気の堅調な動きを予想しながら、そのリスク・バランスを下方に傾けている。FRBは今週のFOMCで今年4回目の利上げに踏み切るだろうが、今後の利上げ見通しに最大の注目が集まるだろう。リーマン・ショックや欧州金融危機後、グローバルには金融政策の緩和と同時に財政政策の緊縮が行われてきた。金融緩和策による金利低下による資本の活発な動きに対して、財政政策の緊縮による需要停滞で賃金と雇用の回復は遅れ、また、財政政策による所得の再配分と社会保障の拡充は弱く、セーフティーネットは削減され、貧富の格差や中間層の没落がポピュリズムの蔓延につながった。景気回復が十分ではないにもかかわらず拙速に財政再建を進めてしまったことにより、各国の現政権への不満が大きくなってしまった。ただ、ここ数年各国の政策関係者は財政政策と金融政策のポリシーミックスの重要性を認識し始めているようだ。今後、政策のポリシーミックスが強化されると、ファンダメンタルスの腰割れによるグローバルな景気減速を阻止できるだろう。財政政策が緩和に転換することで、景気に対する楽観姿勢は戻り、現在の景気拡大サイクルが緩やかに拡大し続け景気後退は更に先となるだろう。
最新のSGグローバル・レポートと要約
●米国経済(12/17):FOMCプレビュー:「ハト派的な」利上げに
弊社は12月18・19日(火・水曜)のFOMCで25BP利上げが実施されると見込んでいるが、「ハト派的な」利上げになるともみている。即ち、FOMC参加者の2019年FFレート予測で、中間値が低下するともに上下の分布も狭まり、比較的上方のドットが低下すると弊社は考えている。また声明文も調整され「さらなる」(“FURTHER”)が消えて「段階的な利上げ」となる一方、今後のFFレートの実際の動向は今後の経済指標しだい、という一文が加わると見込んでいる。インフレ期待が低下したとFRBが認める可能性もある。弊社はまた、IOER(超過準備預金金利)は、11月議事要旨で示された通り20BPの引上げになると見込んでいる。
●欧州経済(12/10):ECB:量的緩和は終了、市場の期待に屈服せず
ECBは13日、広く見込まれていた通り(差引きベースでの)資産買入れの終了を発表した。新しいECBスタッフ景気予測は、わずかに下方修正された。弊社見込み通り、コアインフレ率の修正幅は少し大きめで、現時点(修正後)では2020年が1.6%、2021年が1.8%となっている。驚くことに、景気見通しに対するリスク評価は「総じてバランスしている」で据え置かれた。ただドラギ総裁は、リスクが下方に動きつつあることを認識していた。金利に関するフォワードガイダンスは変化が無く、楽観的なトーンが維持されたが、市場見込みとの差がますます広くなった。ドラギ総裁はその代わりに、再投資に関する新しいフォワードガイダンスに注目していた(現在は市場の見込みと同じく、初回利上げの「後も」長期間継続されると見込まれている)。テクニカルなパラメータに関して追加で示された詳細は驚くような内容ではなく、修正された出資比率を使いながら、運用上の柔軟性が十分に確保されていた。量的緩和は間もなく終了するが、市場の期待を導き定着させるという、難しい仕事が始まったに過ぎない。
●フランス経済(12/13):欧州委員会の是正手続き、今のところ議題に上っていない
2019年のフランス財政赤字はGDP比3% を超えると見込まれる(詳細は参照)。これにより、欧州委員会が何をできるのか、あるいは実行する可能性があるのかが疑問になる。また、欧州委員会が動かない場合はダブルスタンダードとみなされる、という懸念も出ている。
弊社の見たところ、過剰赤字是正手続き(EDP:EXCESSIVE DEFICIT PROCEDURE)は財政赤字のほかに、政府債務にも関係することが理解されていない。より重要なことに、財政赤字がGDP比3%を超えても、それが一時的とみなされるなら、EDPに自動的につながることはない。フランスの場合(大部分は一時的な要因であるため)、このレベルの財政赤字ではEDPにつながらないと弊社は考えている。
●債券市場(12/17):信任ゲーム
金融市場にとって信頼感はとても重要である。セントラルバンカーたちは当面の経済見通しにさほど信頼を感じていない。欧州中央銀行(ECB)は景気の堅調な動きを予想しながら、そのリスク・バランスを下方に傾けている。米連邦準備制度理事会(FRB)は今週の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決める見通しだが、これで利上げを休止するか否かに最大の注目が集まるだろう。英国のメイ首相は与党・保守党の信任投票でなんとか勝利を収め、同国を欧州連合(EU)離脱へ導くことになるが、道のりは依然として不透明である。イタリアの首相は来年の財政目標に関して欧州委員会の承認を得たもようだが、目標を達成できるかどうかは別問題だろう。最終的には、2019年序盤の投資家の需要が評価を下すことになりそうだ。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司