(本記事は、斎藤智明氏の著書『絶対に知られたくない! 不動産屋の儲けの出し方』ぱる出版、2019年1月11日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

「あなたの不動産に購入希望者がいます!」は本当?

絶対に知られたくない! 不動産屋の儲けの出し方
(画像=Takashi Images/Shutterstock.com)

●実際に問い合わせると条件が合いませんといって逃げる場合も!

マンションにお住まいの方なら、「このマンションを購入したいお客様がおります」といった内容のチラシが折り込まれている経験があるかと思います。

チラシには購入希望者が「北千住エリア限定」「60平米以上」「予算3000万まで」「3LDK」「来春に転勤予定の3人家族」などと具体性があり、そのチラシを見たマンションの住人は「売却しようと思っていたけど条件にピッタリのお客様がいるならこの不動産屋にしようかな」と思ってしまうような内容です。

このようにいかにも具体的な購入者がいると思わせるチラシですが、実際にはそのような購入希望者がいないなんてこともあったりするのです。

ではなぜ「購入したい人がいる」と書かれているのに、実際には「購入希望者のいない」チラシを不動産屋は撒くことがあるのでしょうか。

実際にそのようなチラシが入ると、マンションの所有者は「このマンションは人気があるんだなあ」と感じ、所有物件の高い評価に悪い気はしません。

今すぐではなくとも、将来売るときに「確かあの不動産屋はこのマンションの売却を得意にしていたなあ」と思い出してもらえれば、「元付け」となって媒介契約を結ぶことができる可能性が増えるわけですし、まさに「今売りたい!」と思っている人がいたらチラシの不動産屋に連絡をし、媒介契約締結となる可能性はますます高くなるでしょう。

つまり、売主から物件を預かることさえできれば、そこから買主を探しても市場が活発な場所においては比較的容易に見つかるものなのです。

実際に私もマンションを売るときに、このようなチラシを見て「マンションを売りたいのですが、チラシのお客様を紹介してくれますか?」と連絡を入れると、担当の営業マンからは「実は購入希望者のご希望の間取りと合わないようでして」「お値段的に合わないようでして」などと希望と合わなかったことに逃げの口上に嫌気がさしたことがあります。

実際、購入希望者はいないことが多いのでごまかすしかないのですが、なぜそんなチラシをまいたのかというと、実はここから先が一番の目的となるのです。

「じゃあ、どのような条件なら売ることができますか?」の言葉をそのチラシを見た人から聞き出させたら営業マンはかなり有望客が見込めたことになります。

そのようなチラシの目的の一部は、「売主から売却の条件を聞き出すこと」があるのです。

うまく話を聞きだし、売りたい事情を確認して、そうこう話しているうちにチラシを見たお客様はすっかり話を聞いてくれる営業マンを信用するため、「売るならあなたに任せたい」と媒介契約の流れになることも多いのです。

その際、媒介契約の中でも最も不動産屋が欲しい専任媒介契約を結べるように持っていければかなり上出来です。3ヵ月の契約期間ができるため、たとえ媒介契約時には買主がいなくともこの猶予期間ともいえる3ヵ月の間に買主を見つければいいのです。

専任媒介契約となれば、他の不動産屋は入りませんので売主の希望条件をじっくり聞きだし、その条件に合わせて買主を見つけるというわけです。

媒介契約は例えるならば「仲人」の依頼にあたります。

不動産屋に売買の相手方を探してもらい、上手に仲をとりもって「結婚」(売買契約)に結びつけるといったイメージでしょうか。

売主と密に関係を持てる専任媒介契約は売買の契約成立にまで持っていける可能性が高くなります。

そのため一旦物件を預かってしまえば勝ち(売買契約までもっていける)と考え、「とにかく専任媒介契約を」と営業する不動産屋が多く存在するのです。

もちろん専任媒介契約には厳しいルールが存在しますから、お客様に不利になることは少ないと考えられます。

ですから、専任媒介を取りに来る不動産屋は「悪い」とする論調もありますが、その点はきちんとルールを守れる不動産屋なら安心かと思います。

「あなたの不動産の価格査定をします!」の真意は?

●一度依頼を受けてしまうと不動産屋の術中にはまってしまうことがある

前項で、購入希望者が実際にはいない購入希望チラシがポスティングされる「真の目的」についてお話ししました。

そのチラシの中に「あなたが所有されている不動産の価格査定いたします」と書いてあるものを見たことがある方も多いと思います。

自分の所有している不動産の評価額を知りたい人は実はとても多いのです。

「高く売りたいと思っている人」「事情があって少し安くなってもいいからすぐに売りたい人」そうした人が価格査定を求めて連絡をしてくることがあります。

不動産の営業マンにとっては媒介契約をとることが収益を上げるための第一歩になります。

「査定します」の言葉もまた、それをきっかけにして媒介契約を結び、売買契約へつなげるための手段なのです。

家を売ろうと思ったら、できるだけ高く売るために、「いくつかの不動産屋から見積もりを取って検討し、少しでも査定額が高い不動産屋に頼もう」と思っている方も多いのではないでしょうか。

何とかして専任媒介契約をとることが大切な営業マンはこうした売主の心理につけ込んで、「本当は3500万なのですが、4000万で売れますよ」と甘い言葉をささやきながら高い査定金額を提示していきます。

高い金額で売りたい売主にとって、こうした言葉は魅力的に聞こえます。そうして媒介契約を結び、コミュニケーションを重ね、巧みなセールストークで売主との距離を縮めていきます。

売買契約までの3ヵ月の間に売主はすっかり情を掴まれて営業マンを信頼しているので、実際は査定で言われた4000万で売れなかったとしても「この人頑張っているから」「対応がいいから」と許してしまうものなのです。

不動産の売却査定は高ければ良いというものではありません。このような不動産屋から提示された査定額は、後々トラブルに発展することも多いのです。

初めの高い価格に対して過度に期待してしまった売主は、反響がないことや買主から想像以上の価格交渉をされた場合に激怒してしまうことも珍しくありません。

査定額が高い会社を選ぶお客様が多いのがわかっているからこそ、後々値引きすることは前提で、高額な査定額を提示する不動産屋も存在するのです。先に挙げたケースがまさにこれにあたるでしょう。

自社を選んでもらい契約をとるためだけに提示された4000万円という高い査定額ですが、最初から値下げして売ることが前提となっていたりするのです。

もし、高額な査定額を提示されたときには、安易に飛びついてその不動産屋に決めてしまわずに、一度査定額の根拠を尋ねてみましょう。

その際、納得のいく説明が得られれば、安心して査定額の高い会社を選んでもよいかもしれません。しかし、納得のいく説明がない場合は、契約を避けたほうが賢明といえるでしょう。

また、チャレンジ価格として高い価格を市場に投げかけてみることを提案するのであれば、「チャレンジ」であることを売主が理解されての話であればもめることもないと思いますのでよいかと思います。

絶対に知られたくない! 不動産屋の儲けの出し方
斎藤智明(さいとう・ともあき)
実父の不動産に関する相続・投資での失敗を目の当たりにした際、自分が何もできなかったことを機に、不動産のことで困っている人のための「駆け込み寺」になりたいと思い不動産業に従事する。宅建試験の講師も勤めている。著書に『誰も教えてくれない「不動産屋」の始め方・儲け方』『不動産屋が儲かる本当の理由としくみ』(弊社刊 著者名:齋藤孝雄)、『サザエさんの「花沢不動産」はなぜ潰れないのか?』(宝島社)などがある。

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