(本記事は、斎藤智明氏の著書『絶対に知られたくない! 不動産屋の儲けの出し方』ぱる出版、2019年1月11日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

不動産屋も恐れる「地面師」ってどんな人達?

絶対に知られたくない! 不動産屋の儲けの出し方
(画像=ImYanis/Shutterstock.com)

●大手不動産屋でも騙される地面師の手口とは?

都内の立地が良くて坪単価が高いエリアには「地面師」と呼ばれる詐欺グループが存在します。

「地面師」とは「他人の土地を自分のものとして偽って第三者に売り渡す詐欺師」のことです。

土地を買うために大金を振り込んだら、実は地面師だったということも……。

不動産のプロまで騙される、そんな事件が横行しているのです。

地面師たちは勝手に土地の所有者になりすまし、土地所有者の印鑑証明などの書類を偽造して契約を結び、買い手から大金を騙し取るのです。

手口には様々なパターンがあり、「手付金だけ」を狙う場合や「売買代金の数千万、数億円」単位を狙う詐欺もあるようです。

「手付金」の詐欺については、本人を装い契約をしてその際の「手付金だけ」を騙し取ります。

不動産の売買による決済(残金支払い、引き渡し、所有権移転登記)は、基本的に司法書士が厳しい本人確認のもとに行います。

しかし「契約」時には司法書士が立ち会わないため、「決済」時のような厳しい本人確認がないところに付け込んだ成りすまし犯が現れるのです。

成りすまし犯が土地の所有者だとすっかり信じ込まされた買主は手付金を支払ってしまうというわけです。

不動産の売買においては「契約日」と「決済日」を別に設けることが多いので、その慣習の盲点をついた犯罪といえます。

地面師が横行したのは終戦後や土地取引が非常に盛んであった1990年前後のバブル期でした。しかしながら近年、2020年の東京オリンピックを直近に控え土地の価格が上がっている都内において、またもや地面師が現れ始めているのです。

しかもその被害に遭っているのが不動産取引のプロであるマンション・ホテル開発業者といいますから驚きを隠せません。大きな額の取引を扱う不動産のプロを騙す詐欺ゆえに、その被害額は相当なものになっています。

地面師たちの偽造技術は精巧なもので、最近では3Dプリンターを使って実印も作ってしまうこともあるようです。

そうして、取り揃えられた本人確認のためのパスポート等の証明書の数々と完璧に作り上げられたストーリー性のある話、所有者や所有者側の弁護士、間に入る司法書士などまでいて、疑う余地のない集団詐欺に不動産のプロも騙されてしまうのです。

偽の売主以外に、どこまでが共犯者なのかが判明しにくい構造になるのが特徴です。

このような詐欺が発生する背景にはマイナス金利政策などで金融機関はお金を貸さなければならない状態であること、さらに景気が上向いていることも重なって、居住用不動産はもとよりマンション投資ブームなどに拍車がかかっている状態が影響しています。

さらに、直近に控えた東京オリンピックの影響もあって不動産業界はマンション・ホテル用地探しに熱を入れている状態で、「すぐに買わないと他社に奪われてしまう」という心理が働くため、その焦りの心理を狙った地面師による詐欺が横行しているのです。

2017年8月、大手住宅メーカー「積水ハウス」が地面師事件に遭ったという驚きの発表を行いました。

東京五反田の一等地600坪をめぐり、70億円の土地取引における事件。地面師には63億円が支払われてしまったというものです。

所有者の知らない間に本人確認用の印鑑証明書、パスポートなどが偽造され、それを利用した犯人が高額の代金を受け取り行方をくらませたのです。

よくある地面師のやり方ですが、こういう類の犯罪の難しいところは、報酬を得た売主の成りすまし犯以外の共犯の関係者は、「私は善意でやっていたのに」「私も騙された」と被害者を装うこともあるため、地面師グループの全体像がつかめないことです。

確実な犯人は所有者に成りすました人間のみ。

地面師グループにとって、顔がばれる成りすまし犯は重要な役割を負ってはいるものの、所詮は使い捨てで、成りすまし犯に支払われるのはこのように億を騙し取った場合でも数百万円からとそんなに高い報酬ではないそうです。

このような大きな金額の事件を見ていると、地面師は資産のある人だけを狙うのだろうから自分には縁がないことだと思う方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、地面師グループは、場所が良ければ一戸建てや空き地も狙います。

自分の持ち家でなく、実家が狙われるということもあります。

また、空き家になっていたり、年老いた母親が一人で住んでいて、息子たちが訪ねていくことが少ないとなると、ますます狙われる可能性もあるでしょう。

積水ハウスなど大手不動産屋の巨額事件などが相次ぎ、捜査当局にも情報が蓄積されたため、摘発件数は増えてきています。しかしながらまだまだ氷山の一角。未解決の事件が山積されていそうです。

地面師から狙われやすい物件はというと「抵当権が付いていない」「高齢者の単独所有」「空き家」の物件です。

抵当権が付いていると、それを外すのに抵当権者である金融機関と交渉することになりますので、成りすましであることがばれる可能性が高くなってしまうからです。

高齢の土地所有者はかっこうの餌食です。

ご高齢の所有者は判断能力が低下していたり、施設に入ってしまっていることもあり、勝手に売買されていてもそれに気づく確率が低くなります。騙すために買い手に物件を見せることは大きく信用を得られる手段ですので、空き家は地面師にとって利用価値のある物件というわけです。

決して他人事ではない地面師の世界。ここに書かれた範囲でも、心当たりのある不動産があったとしたら、現地を確認しに行くこと、登記簿謄本を定期的に取得するなどをお勧めします。

地面師を防ぐ方法として、決済引き渡し時の「言動」に注意をしている不動産屋や司法書士もいます。

決済とは銀行等の金融機関などで関係者が一堂に会して手続きを進めるのですが、その際に怪しいと感じている相手方へ何気ない質問をしてその挙動が明らかにおかしいときには決済を中止するそうです。

しかしながら、決済をするために相当な労力を費やしている関係者からするとなんとか無事に決済を終わらせたい一心になってしまい、その焦りから怪しいかどうか疑う余裕がないのが実情で、地面師たちはそのような心理状態も知ったうえで詐欺を仕掛けてきているとか。

プロをも騙す地面師集団。その実態は明らかにされにくいのです。

絶対に知られたくない! 不動産屋の儲けの出し方
斎藤智明(さいとう・ともあき)
実父の不動産に関する相続・投資での失敗を目の当たりにした際、自分が何もできなかったことを機に、不動産のことで困っている人のための「駆け込み寺」になりたいと思い不動産業に従事する。宅建試験の講師も勤めている。著書に『誰も教えてくれない「不動産屋」の始め方・儲け方』『不動産屋が儲かる本当の理由としくみ』(弊社刊 著者名:齋藤孝雄)、『サザエさんの「花沢不動産」はなぜ潰れないのか?』(宝島社)などがある。

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