2020 年1-3月期と4-6月期の成長率を撹乱。消費増税後の景気判断にも影響
要旨
●来年の2020 年はうるう年であり、2月が1日長いことから個人消費を中心に見かけ上高い伸びになる経済指標が増える。
●しかし、現在のGDP統計では、季節調整に際してうるう年調整を行っておらず、うるう年による増加分がそのまま反映されてしまう。
●うるう年要因により、2020 年1-3月期の個人消費は前期比で0.3%ポイント押し上げられ、4-6月期は0.3%ポイント押し下げられると試算される。GDP全体では前期比年率で0.7~0.8%ポイント程度の影響が出る。
●19 年10 月に実施される消費税率引き上げがどの程度景気に影響を与えたかを判断するためには、19 年10-12 月期の落ち込みの後、2020 年1-3月期と4-6月期にどれだけリバウンドするかを確認することが重要になる。その重要な時期の成長率が、見かけ上のこととはいえ撹乱されてしまうことは大きな問題であり、誤った景気判断にも繋がりかねない。内閣府は早期にうるう年要因についての検証を進めることが求められる。
来年の2020 年はうるう年だ。ちょうど一年後の2020 年2月は通常よりも一日長く、そのことが個人消費の基調を読みにくくすることが予想される。今から来年の話をするのはちょっと気が早いようにも思えるが、消費増税後の景気判断にも絡む話なので、解説しておきたい。
GDP統計ではうるう年要因は調整されていない
たかがうるう年と馬鹿にはできない。単純に考えると、日数が1日増加すれば、四半期で見て90 分の1、つまり1%程度の支出が増加する可能性がある。家賃など月単位で予め決まっている支出については日数変化による影響が出ないため、実際にここまで増えることはないが、いずれにしても消費全体では大きな影響が出るはずだ1。こうした消費の増加は単なる日数の変化に由来するものであり、景気動向を見る上では調整することが望ましい。実際、鉱工業指数などの経済指標では、季節調整に際してうるう年要因の調整が行われているが、すべての統計でこうした調整が行われているわけではない。特に、わが国の景気実態を把握する上で非常に重要な統計であるGDPにおいて、季節調整に際してうるう年要因が調整されていないことが問題になる。
GDP統計では、毎年12 月の年次推計値公表にあわせて季節調整モデルの改定を行っており、そこでうるう年効果についても検証が行われている。以前はうるう年を調整していたこともあった2のだが、現在の系列ではうるう年効果の有意性が観測されないとのことである。結果として、現在のGDP統計では、どの需要項目でもうるう年要因は調整されていない。
月次統計ではうるう年効果は検出される
だが、こうした取り扱いは果たして妥当だろうか。うるう年効果の有意性が確認されなかった背景には、GDP統計では四半期系列で季節調整をかけていることがあるのかもしれない。月次統計の場合には、うるう年による日数増は28分の1の影響を持つが、四半期統計では90分の1の影響になるため、四半期でみた場合、月次統計と比べてうるう年効果は見えにくくなる。2月にうるう年で増加した支出が1月と3月の変動でたまたまかき消され、検出されにくくなっている可能性が高いだろう。実際、家計調査や小売業販売額など他の月次消費関連統計においては、過去のうるう年の月には前年比で明確な増加が確認でき、季節調整値の算出に際してもうるう年要因は調整されている。常識的に考えても、うるう年によって増えた一日分で何も消費しないということはあり得ない話だ。やはり、個人消費についてうるう年効果を否定することには無理がある。
サンプル数の少なさも、GDP統計においてうるう年効果が検出されない理由の一つと思われる。現在、GDP統計において季節調整モデルを選定する際には、1994年1-3月期から2017年10-12月期までのデータを元に検証が行われているのだが、この間にうるう年は6度しかなく、効果の検証が十分できているか疑問が残るところだ
うるう年要因により2020年1-3月期の個人消費が0.3%程度押し上げられる可能性あり
実際に、GDP統計の個人消費(国内家計最終消費支出)についてうるう年要因を調整したものを試算し、現在の公表値と比較したものが図表1~5である。過去のうるう年においては、平均して1-3月期の個人消費が前期比で0.33%ポイント程度押し上げられ、翌4-6月期がうるう年要因の剥落から同程度押し下げられていると試算される3。これはGDP全体では0.2%ポイントに相当し、年率では0.7~0.8%ポイント程度の影響である。個人消費以外の需要項目でも影響が生じる可能性があることを考えると、インパクトはもっと大きいかもしれない。日本のように潜在成長率が低く、少し景気が減速すればすぐにマイナス成長を窺うような国においては、無視できない大きさだろう。
このように、現在の季節調整が続いた場合、2020年1-3月期のGDP成長率は見かけ上押し上げられる一方、4-6月期は逆に押し下げられることになる。
消費増税後の景気判断に影響。GDPでもうるう年要因の早期検証を
しかも今回はタイミングが悪い。2019年10月の消費増税に際し、7-9月期に駆け込み需要、10-12月期に反動減が生じることは規定路線であり、10-12月期がマイナス成長となったとしても、それだけでは消費増税のインパクトを測ることはできない。消費増税による景気への悪影響がどれほどのものだったかを判断するにあたっては、2020年1-3月期、4-6月期がどの程度戻るかが決定的に重要となる。もしスムーズに戻るようであれば、今回政府が用意した各種対策が効果を挙げ、消費増税による景気下押しは限定的なものにとどまったという評価になるし、戻りが弱いようであれば、残念ながら今回も増税による悪影響は大きかったという評価になるだろう。
実際、前回14年の増税時も、14年4-6月期の大幅マイナス成長自体は駆け込み需要の反動によるものとして当初はそこまで問題視されず、その後の7-9月期の戻りが非常に弱い(7-9月期も当時の公表値ではマイナス成長となった)ことが確認されていくにつれ、消費増税による下押しが想定以上に大きいとの認識が増えていった。
その大事な時期である2020年1-3月期と4-6月期の成長率が、見かけ上のこととはいえ撹乱されてしまうことは問題だろう。うるう年要因により押し上げられる2020年1-3月期の成長率だけをみて「消費増税を乗り切った」と判断することは避けなければならない。もちろん多くのエコノミストはうるう年要因を除去するための試算を行うだろうが、それが正しく世間に伝わるかどうかは分からない。また、試算にもいくつか方法があるため、エコノミストによってうるう年要因による押し上げ(押し下げ)インパクトが異なるという混乱も起こりそうだ。
このように、現在の季節調整法が続いた場合、消費増税後の景気判断を誤らせることになりかねない。こうした事態を避けるためにも、内閣府はうるう年に関する検証を行う必要があると思われる。なお、例年であれば季節調整モデルの見直しは12月に行われるのだが、それでは消費増税直後、うるう年直前となってしまうため、やはりタイミングが悪い。今後検証を進め、12月を待たずして可能な限り早く見直しを実施することが望ましいと考える。(提供:第一生命経済研究所)
1 消費の他、設備投資や輸出入でもうるう年が影響してもおかしくないが、過去、明確な影響は観察されないため、ここでは個人消費に絞って議論を行った。
2 2000年に季節調整方法がそれまでのX-11からX-12-ARIMAに変更された際、うるう年調整が行われることになった。その後、2004年11月公表の2004年7-9月期GDP1次速報までは個人消費についてうるう年調整が行われていたが、2004年12月に公表された2004年7-9月期GDP2次速報以降、うるう年調整は行われていない。
3 内閣府 経済社会総合研究所が09年10月に発表した論文では、うるう年効果について5パターンの検証が行われており、前期比絶対値で0.1%~0.7%ポイントの影響があったと試算されている。その際、月次87目的分類での検討も行われており、うるう年効果は非耐久財の半数程度で観測されたとしている。
<参考文献> ・新家義貴(2005)「個人消費の誤解 ~閏年要因を調整すれば個人消費は引き続き底堅い可能性~」、第一生命経済研究所 Economic Trends ・内閣府経済社会総合研究所(2009)「四半期別GDP速報における季節調整方法の改善について」、季刊国民経済計算No.139 ・広瀬哲樹(2009)「安定的なSNAの四半期系列について(新しい推計法の検討)」、内閣府経済社会総合研究所 New ESRI Working Paper Series No.11 ・新家義貴(2011)「うるう年と個人消費 ~2012年1-3月期の個人消費が見かけ上押し上げられる可能性あり~」、第一生命経済研究所 Economic Trends ・新家義貴(2015)「うるう年と個人消費 ~2016年1-3月期のGDP成長率が年率1.2%Pt上振れ、4-6月期が下振れの可能性あり~」、第一生命経済研究所 Economic Trends
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト 新家 義貴