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(画像=今後はとんかつの店もオープン予定だとか。撮影=吉野英昌)

大名から西中洲・春吉へ。家賃が安ければ、生き延びることができる!

その頃、中尾さんが目をつけたのは西中洲だった。

「家賃がびっくりするくらい安かったんですよね。今まで、客単価が3000~4000円の居酒屋をしてきましたが、それを6000〜10000円に持っていくにはどうすればいいかと考えたんです。お酒もいいものを置いて、魚もいいものを扱う。西中洲にちゃんとした店構えの店を作ろうと考えました。それが『西中洲 なか尾』です。それまでのお店は予約をしてくるお客様はあまりいなかったのですが、『西中洲 なか尾』はお客様が予約をしてきてくれるようになりました」

そして、2005年3月、福岡県西方沖地震が発生。大名は警固断層の上に位置していたため、これを機に大名のお店を全て手放したという。そして、次に目をつけたのが春吉だった。

「当時、大名の家賃は坪5000円程度でしたが、西中洲や春吉は坪4000円で貸してくれる物件がたくさんありました。とくに春吉は、飲食店が出店しようと物件を見にきても『こんなところでは商売はできない』と諦めるような状況。家賃がどんどん安くなっていったんです。うちの場合、なぜか誰も見向きもしないような物件の方がうまくいくんですよね。大名のお店を閉め、かつて評判だったもつ鍋を春吉に復活させました。それが『もつ鍋 一慶』です」

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(画像=『もつ鍋 一慶 春吉本店』の店内)

中尾さんは常に、「家賃が安い」ことを軸に出店エリアを決めてきた。このことが店を長続きさせることに繋がっているという。

「うまくいっているときは、家賃が高くても問題ないけれど、売上が下がったり、ライバル店が出てきたりすると、家賃が高いところは閉店せざるを得なくなってきます。家賃さえ安ければ、あの手この手で生き延びて、しばらくするとたまに何かが爆発的にヒットする。そうやってうちの店は、これまで生き延びてきたんです」

大名も春吉もかつては住宅がほとんどのエリアだったが、中尾さんが店を出すことで他の飲食店店主が注目し、飲食店が立ち並ぶエリアへと変貌。今や福岡市内でも屈指のグルメ激戦区になっている。

ところで、『もつ鍋一慶』といえば、炙りもつ鍋が有名だが、その誕生秘話を聞いてみると……。

「当時、よくキャンプへ行っていたんですけど、そこでBBQをするんですね。仲間に『子どもを連れてくる』と言われると、食べるか食べないかわからないけれど、道の駅で地鶏を買ったり、自分の店のモツを持って行ったりしていたんです。子どもって自分で焼きたいでしょ。モツを焼いたり、炙ったりしていたけど、結局は食べなくて。捨てるのはもったいないと思って、翌朝、その炙ったホルモンをお味噌汁に入れて出したんですよね。それが評判よくてね。もつ鍋に使える!と考えました」

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(画像=『お茶割り 茶茶ちゃ、』の外観)

複数の業態を持っておけば、リスクを分散できる!

こうして中尾さんは、様々な業態の店舗をいくつかのエリアで展開してきた。

「飲食店の場合、常に僕が店に立ち料理を作ることはできません。狂牛病や鳥インフルエンザなど、いつどんなことが起こるかわからないし、いくつかの業態を持っていたからこそ、その都度生き延びることができてきたんです。店名も一緒で、同じ名前にしてしまうと、関係のないお店も影響を受けてしまいます。リスクを分散させておくことが大切だと思いますね」

そう話す中尾さんが、今、次々にお店を出しているのが薬院エリアである。

「2014年に『唄う稲穂』(1階)、2015年に『炉端デ・ニーロ』(2階)をオープンさせた建物を購入できることになったんですけど、自分でやって失敗したら貸せばいいと思っていました。その向かい側のエリアにも物件を持てることになって。ようやく2018年から店をつくり始めました。1つは『お茶割り 茶茶ちゃ、』。あの場所は狭すぎて、どんな業態が合っているのか、まだ試行錯誤の段階。ある時期になったら、ほかの店で頑張ってくれているスタッフが夫婦でやれる店にできたらなとも思っているところです。次に大名にあった『エピドール』を移転オープン。近々、1階は豚肉料理、2階はとんかつの店をオープンさせる予定です」

狭いエリアに次々に店舗を展開していく手法は、大名時代や西中洲・春吉へと進出した頃に似ているようにも感じる。

「今、福岡は飲食店の店主同士の仲がいいんですよね。昔はライバルだったから、そんなに仲良くなかったんです。福岡の飲食は全国的に注目を集めていますし、私自身ももっともっと店が増えた方がいいと考えるようになりました。たとえば、餃子や焼き鳥(鶏皮専門店含む)のお店はどんどん増えています。同じ業態でもご飯を食べていくことができ、2号店、3号店と展開できるのが、今の福岡ではないでしょうか。かつては、福岡の飲食店店主たちが東京や大阪へ視察に行っていたけれど、今は東京や大阪の飲食店の店主たちが福岡を見にきてくれます。面白いですよね」

若手や中堅の飲食店店主たちとも交流を持ち、福岡の飲食業界のアニキ的存在として親しまれる中尾さん。今なお現役で走り続けつつも、そのDNAは確実に、福岡の飲食人に受け継がれている。(提供:Foodist Media

『博多 もつ鍋 一慶』 https://motsunabe-ikkei.com

執筆者:寺脇あゆ子(cadette)