現代人は、慢性的な「酸欠状態」である
一般的に、ため息にはネガティブな印象がある。しかし実は、ため息はストレスフルな現代人にとってはむしろ前向きになれる「呼吸法」だと指摘するのは、企業研修などを通じて呼吸法を指南する倉橋竜哉氏だ。息を深く吐くことが、心を整えることにつながるからだという。良い「ため息」のつき方を含め、理想的な呼吸法についてお話をうかがった。
パソコンを使いすぎると呼吸が浅くなる!
現代人の呼吸は、昔と比べて浅くなっています。浅い呼吸は、ストレスの多い現代人の心を、ますます不安定にします。呼吸と感情は、相互に影響を与えているからです。
呼吸が浅くなっている原因は、二つ考えられます。
一つは、パソコンの普及です。パソコンで作業すると、一つの画面に集中するため、緊張状態が続き、呼吸が浅くなりがちです。
さらに、前傾姿勢で操作することでお腹が圧迫され、横隔膜が動かしにくくなり、ますます深い呼吸ができなくなります。背を丸めてスマートフォンを操作し、自ら気道を狭くしている人も多く見受けられます。
二つ目は、扇情的なニュースの蔓延です。不正献金や不倫といった、世間の怒りを煽るような報道を目にすることで、無意識のうちに興奮してしまい、胸で浅い呼吸(胸式呼吸)を繰り返しています。
深く呼吸しにくい環境に囲まれた現代人は、慢性的な酸素不足に悩まされているのです。
浅い呼吸である胸式呼吸は、交感神経を活性化し、人を攻撃的にします。一方で、胸より深くお腹で呼吸できる腹式呼吸は、副交感神経を活性化し、人をリラックスさせます。
とはいえ、身体を活発に動かすには交感神経の働きが欠かせないので、胸式呼吸のすべてが悪いというわけではありません。問題は、胸式呼吸が中心となり、交感神経のスイッチが入りっぱなしであることなのです。
そこで、胸式呼吸と腹式呼吸を使い分け、感情をコントロールする必要があります。しかし今では、腹式呼吸ができない、という方が珍しくありません。
その証拠に、今と昔では「怒り」に対する表現が変わりました。ひと昔前までは、「腹が立つ」と表現していたところを、今では「ムカツク」と言います。本来、「ムカツク」とは、胸がムカムカする状態を表わす言葉です。それだけ、お腹に意識を向けられない現代人が増えているのでしょう。
「おっさんのため息」はリラックス効果抜群!?
では、どうすれば自然に腹式呼吸ができるようになるのか。
ポイントは、「ため息をつく」ことから始めること。ため息とは、息を大きく「吐く」ことです。実は人の身体は、吐くことに意識を向けることで、腹式呼吸になりやすく、吸うことに意識を向けると胸式呼吸になりやすいよう作られているのです。
さらに、ただ息を吐くのではなく、「吐き切る」ことを意識すると効果的です。声を出してため息をつくとよいでしょう。
できるなら、「おっさんのような声」をイメージし、声を出してください。湯船に浸かったおっさんの「あー」という野太い声です。この声が声帯を刺激し、その振動が身体に伝わることで、緊張感や疲労で強こわ張ば った全身を緩めていきます。
吐き切ったら、お腹の力を抜きます。力を抜くだけで、息を吸おうとせずとも、自然と肺に酸素が入ってくるのです。気づかないうちに、腹式呼吸に切り替わっているでしょう。今まで意識が向かなかったお腹に、神経が集中していることがわかるはずです。
これにより、横隔膜が上下し、みぞおちの下あたりにある太陽神経叢(たいようしんけいそう)という自律神経が刺激されます。ここが刺激されると、副交感神経が優位になり、リラックスするスイッチが入ります。
また、内臓のマッサージ効果もあるので、胃腸の血流が改善し、体温も上がります。身体全体の不調にも効果があるはずです。
交感神経がフル活動していると、息が詰まり、身体の中が淀みがち。腹式呼吸で外気を取り入れ、内部の空気を積極的に排出していきましょう。
余談ですが、今年100歳を迎える、カラオケ大好きな私の祖父は、今も元気です。歌を歌うときに欠かせない腹式呼吸が、長寿の秘訣ではないかと推測しています。
気持ちを切り替える「3・3・7拍子」の呼吸
腹式呼吸を習慣化するためにも、現代人は、息を吐くことに意識を向ける時間を増やしたほうがいいでしょう。かといって、さっきまで緊張感を持って仕事をしていたのに、いきなり気持ちを切り替えるのは難しい。
そこで、気分をリセットする「3・3・7拍子」を意識した呼吸法をお勧めします。「吐いて・止めて・吸って」を歩きながら繰り返す呼吸法です。
歩きながら座禅に近い効果を得る「歩行禅」を参考にしているので、通勤中にも実践できます。気持ちを切り替えられるように、呼吸と歩行に意識を向け、なるべく何も考えないようにしましょう。
行き詰まったときや気持ちを切り替えたいときなどにも効果があります。図で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
倉橋竜哉(くらはし・りゅうや)日本マイブレス協会理事
1975年生まれ。5歳のとき、弟の死をきっかけに呼吸に興味を持つようになる。以来、医療、禅、スピリチュアルなど、あらゆる呼吸法を学習、実践。「セルフコントロール」と「呼吸」の関係性を研究、これまで学んできた呼吸法を体系化し、「マイブレス式呼吸法」を開発。著書に『呼吸で心を整える』(フォレスト2545新書)など。《取材構成:THE21編集部 イラスト:池田須香子》(『THE21オンライン』2018年12月号より)
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