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(画像=『365日』の店内には杉窪さんのセレクトした食品も並ぶ)

人手不足と無縁の会社を育てる

『365日』は、大手企業のように福利厚生を充実させることを目指している。飲食店には珍しく週休2日制であり、商品が売り切れたら営業時間内であっても店を閉める。『365日 日本橋店』は百貨店「高島屋」の中にありながら、15時に閉店することもあるそうだ。目先の利益ではなく、社員が働きやすい環境を守ることを優先させている。

「ウチはよそで『使い物にならない』と言われた子が、ちゃんと働けたり、成長したりするのが特徴なんです。普通の飲食店って、シェフや責任者の理想を100点にした減点方式です。彼らの手足となって動けない人はどんどん減点されていきます。シェフの決めた点数が正しくて、『型通りにできないお前が悪い』と言われてクビになる。でもそれって、組織の形じゃないと思うんです。日本の飲食店は個人に責任を負わせすぎだと感じます。飲食業界には、オールマイティにこなせない不器用な子もたくさん入ってきます。そういう子たちの笑顔を守るのが会社としての役割ではないでしょうか。だから会社がリスクを負い、福利厚生を手厚くするのは当然だという考えです」

杉窪さんはずっとシェフを目指して努力してきた。彼の考えるシェフは、オーケストラにおける指揮者のようなポジションだ。

「指揮者は演奏者一人ひとりのパフォーマンスを上げて、みんなでいい音楽を作り上げることが仕事ですよね。うまくいかない人がいたら、なぜできないのか悩みを聞いて、どうしたらできるようになるか考えます。そういう努力をする経営者と、しない経営者。人材に困るのはどちらかと言ったら後者ではないでしょうか」

客がたくさん訪れる繁盛店であり、なおかつスタッフの待遇もしっかりした店。直営店やプロデュース店でそういう店を作った結果、彼の周辺でも、週休2日制を導入する経営者が増えたそうだ。まず自分が実践し、周囲の考え方を変えていく。それこそが杉窪さんの得意とする「リノベーション」なのである。

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(画像=『365日』から歩いてすぐのところには、杉窪さんの手がけるカフェ『15℃』もある)

飲食と生産を両立させる、新しいチャレンジ

杉窪さんは地域の生産者との関わりを大切にしているが、2018年の秋ごろから、自社でも小麦の栽培を始めたという。なぜ経営者自ら、畑を耕し、種をまこうと決めたのだろうか。

「飲食業界は長時間労働が当たり前と言われてきましたが、今後、AIやロボットなど新しいテクノロジーの導入で、労働時間が短くなってくると思います。その余った時間で農業をやろうという発想です。年々、農業に携わる人たちが少なくなり、平均年齢が上がっていっています。日本の農業の担い手がいなくなっていいとは思わないし、責任の押し付けあいになってもいけない。僕は、食材を使っている料理人が農業をするのが自然な形だと思っているんです。僕らが働き方のイノベーションを起こして、農業も飲食も両方できる形を作れば一件落着ですよね。飲食店から1次産業にアプローチする、逆6次産業のモデルとして、小麦だけではなく野菜も作りたいと考えています」

2019年は4月に新しく飲食店をプロデュースする他、直営店の立ち上げを考えているそうだ。忙しい合間を縫って、毎年海外に視察に行くことも欠かさない。未来を読み、どんどん新しいことにチャレンジしている杉窪さん。彼の起こす変化は、最初はさざなみくらいの小さなものでも、数年後は大きな波となって日本中に広がり、飲食業界を刷新するかもしれない。

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これからも杉窪さんの挑戦に目が離せない

『365日』
住所/東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12
電話番号/03-6804-7357
営業時間/7:00~19:00
定休日/2月29日
席数/6席(カウンター席のみ)

執筆者:三原明日香

(提供:Foodist Media