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(画像=木のぬくもりを感じることができるウッド調の店内)

「都会と田舎」はワンセット。田舎の食材に都会の感覚で価値を付ける

北広島町の内需だけで経営していくのは難しい。そこで植田さんは都会から売上を引っ張ることを考えた。

「ずっと田舎にいると、田舎であることに慣れてしまうんです。ここの米は確かに美味しいけど、いかにうまいのか、実際に住んでいる人には分からない。だから、ほどよくまずい米を食べている都会の人に食べてもらうんです。そうするとそこに価値が生まれます。そうやって『外貨』を稼がないといけません。そのために必要なのは、田舎と外とを繋ぐパイプです」

パイプとは、田舎と都会の両方を対比できる感覚であったり、田舎へ人を呼び寄せることができたりする人脈だ。さらに植田さんは、メディアもパイプの一つだと話す。

「東京でやっていたビジネス、そしてこのカフェは、何度かメディアでも取り上げていただきました。そのときに知り合ったテレビや雑誌の方たちとはFacebookでつながっているので、何か新しい取り組みをするときには取り上げていただけることもあります。もちろん自分で情報を発信することもあります。自分で作り、売り、そして発信するんです」

そう話す植田さんは自らタレント事務所を設立。自社のタレントが、地元の情報番組に出演した際は、北広島町の魅力をアピールしてもらうという。さらに今年、「ぞうさん出版」という出版部門も新設。8月には第一号となる書籍が発売予定で、今後は翻訳して海外への流通も考えているという。そうなると、カフェ経営どころではないのでは、とも思うが、植田さんは首を振る。

「僕は、カフェだってメディアの一つだと考えているんです。カフェも、人と情報が集まる場所ですから」

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(画像=2014年、東京から移住し、北広島町にカフェをオープンした)

カフェはメディア。集客のためにあえて「コンセプトを作らない」

人と情報が集まる「メディア」としてのカフェ。とはいえ電車も通っておらず、土・日はバスも停まらない場所にあるカフェ。しかも広島市街地からのアクセスは車で1時間半となると、集客面ではかなり苦労すると思うが……。

そんな課題に対して、植田さんが集客ツールとして考えたのが「イベント」だ。植田さんは持ち前の人脈とフットワークの軽さで、月3~4回ほど多彩なイベントを開催している。例えば、NASAプロジェクトのメンバー入りを辞退し、東京から北広島町へ移住した宇宙博士・井筒智彦さんと楽しむ天体観測は、毎回参加する固定ファンがいるほどの人気ぶり。さらには、ロックや演歌などのコンサート、地元農家の協力を仰いだ田植え体験など、その多彩なラインナップには驚くばかりだ。

「あえてイベントのコンセプトを絞らないんです。コンセプトを絞らなければ、イベントごとに来る人の層がガラッと変わって、幅広い人にカフェのことを知ってもらえます。料理も、僕は料理人じゃないからピザとかカレーとか、誰でも作れるようなものばかり。でも、自分たちで作った米や野菜、味噌、北広島町で獲れるシカやイノシシなどのジビエ、それに東京時代から取り扱っているオーガニックのココナッツミルクとか、素材はどれも自信があるものばかり。コンセプトや料理にこだわっていたら都会には勝てないから、ここならではの空間を味わってもらうようにしています」

地方では、過疎化を何とか食い止めようと移住者を募り、助成金などで開業を支援する自治体もある。とはいえ、田舎と都会とでは人々の暮らしや価値観は大きく異なるもの。東京の人気店が、北広島町でも同じように人を集められるとは限らない。移住し、開業までこじつけながらも、「憧れの田舎暮らし」と「現実」にギャップを感じて離れてしまう人も多くいる。そんななか、移住者だからこそ持っている「都会と田舎」のバランス感覚を存分に生かしながら、互いがWIN-WINになれる価値を見つけ成功している店舗もある。植田さんの成功は、多くの移住希望者にとって大いに参考になるのではないだろうか。

『芸北ぞうさんカフェ』
住所/広島県山県郡北広島町荒神原201
電話番号/0826-35-1324
営業時間/11:00~18:00
席数/28席
定休日/水曜・木曜
http://www.zousancafe.com/

(提供:Foodist Media

執筆者: 戸田千文