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(画像=尾道のカフェ文化の中心となる『やまねこcafé』)

後継者不在店の事業を継承。名店を残し、街に人が来るきっかけに

いっとくグループの一つである焼き鳥店『鳥徳』を手掛けるのも、もとは老舗飲食店が頭を悩ますある問題がきっかけだった。それは跡継ぎの問題。売り上げの点で問題はなくとも、年を取ると経営は難しくなってくる。『鳥徳』はもともと、創業35年を超える地元の老舗店だった。

「小さい頃から、家族でよく食べに行った店でした。それが店を辞めることにしたって、電話をもらったんです。それで僕が、引き継ぐことにしました」

若い人がどんどん都会へ出てしまう地方の街では、人気がある老舗店でも後継者不足を理由に店を閉じるケースは少なくない。2014年に『鳥徳』をいっとくグループが引き継いだとき、当時の店主は70歳を超えていた。さらに2015年には、『鳥徳』の店主の兄が経営していた『米徳』の事業も継承。ノスタルジックな雰囲気をそのまま残し、新たな客はもちろん、昔ながらの常連客も多く訪れる店になっている。

「引き継ぎ手がいないからと、名店がなくなっていくのは寂しい。『名店を名店として残していく』というのは、大事です。街に人が来る理由になるでしょう。だからあえていじらずに店の雰囲気や味を残して、商売を受け継ぐことは必要だと思っています。しかも普通に開業するよりも、初期投資は安く済みます。すでに馴染み客がいるから、宣伝費も大きくかかりません」

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(画像=後継者不在だった焼き鳥店「鳥徳」の事業を継承。味も雰囲気もあえてそのまま残したという)

近隣店舗と協力し、新たな「街づくり」にチャレンジ

この春、山根さんは、飲食店の枠組みから一歩踏み出す挑戦をはじめた。それが、レンタルスペース『SIMA salon(シマサロン)』、ゲストハウス『SIMA inn(シマイン)』の経営だ。尾道の観光エリアから徒歩圏内にありながら、人通りが少ない新開エリアにあり、今は廃業した『ラウンジ 志摩』をリノベーションして、2018年3月にオープンした。

『SIMA inn』は、「くうねるあそぶ」をコンセプトに、新開エリアで遊び、食べ、泊り、遊ぶきっかけづくりを提供するという。「新開には、市の助成金も手伝って、若い人が多く移住し、ここ数年で30店舗近い店ができました。いっとくグループ以外の飲食店もたくさんあります。そんな新開エリアの人たちと一緒になって、この地域を盛り上げたいんです。ゲストハウスに泊まった人に、新開の楽しみ方をどんどん提案していきたいですね」

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(画像=『SIMA inn』の部屋の様子)

また、新開エリアで働く人たちで集まり、元は遊郭だったという新開の歴史の話を聞くといった勉強会も開催。土地を知ることで、新たなアイデアを生み出すためだという。このほかレンタルスペース『SIMA salon』には、「外から料理人を呼んで食のイベントを行うなどして、尾道の食の質を上げたい」との思いで、キッチンを設置した。今年秋には、新開エリアが一丸となって開催する大きなイベントも予定。さらに、尾道水道の風光明媚な景色を眺めながら食事が楽しめる屋形船『いっとく丸(仮)』も、今夏、本格的に始動するなど、そのチャレンジはとどまるところを知らない。

今後の展望を尋ねると、「7年後、50歳になるんですけど……、尾道に温泉旅館を作りたいですね!」と笑う山根さん。さらに、地域の居酒屋文化を知ってもらいたいと、これまで熊本や京都、広島などで開催してきた「居酒屋大サーカス」について、「東京で開催したいと思っています。その後は、世界に出たいんです。地域によって違う居酒屋のカラーを、いろんな人に伝えていきたいですね」と語ってくれた。

寂れた街にある小さな居酒屋は、日本にも多くあることだろう。飲食店には何もできないと、諦めてしまった人もいるかもしれない。一方で、生まれ育った街に思いをはせ、その思いをくすぶらせている人もいるはず。十数年前、シャッター店が並んでいた尾道の街は、今やわざわざ足を運んででも行きたい観光地の一つとなった。「街を元気にしたい」。そんな山根さんの思いは、地域の人たちを巻き込み、確実に尾道の街を変えている。

有限会社いっとく
住所/広島県尾道市土堂1-11-16
電話/0848₋29₋5109
http://ittoku-go.com/

(提供:Foodist Media

執筆者:戸田千文