中国経済の概況
中国経済に明るい兆しが見えてきた。これまで3四半期連続で減速を続けていた中国経済は、19年1-3月期に前年比6.4%増と前四半期(同6.4%増)と同率に留まり、1年ぶりに減速が止まった(図表-1)。特に3月の景気指標は明らかな改善を示した。3月の工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)は前年比8.5%増と、1-2月期の同5.3%増を3.2ポイントも上回った。また、3月の製造業PMIは50.5%と12月の49.2%を1.3ポイント上回り、4ヵ月ぶりに50%を上回った。
しかし、春節連休明けの3月は例年、1-2月期を大きく上回ることが多く、4月には反動減となる可能性がある上、「債務圧縮(デレバレッジ)」と「米中貿易摩擦」という景気悪化の根本原因も残っている。18年に中国経済が減速した原因のひとつは「デレバレッジ」である。中国政府が「デレバレッジ」に舵を切ったのは、17年の党大会後に開催された中央経済工作会議でのことで、2020年までの中期的な目標とされている。中国の非金融企業が抱える債務残高はGDP比約150%とG20諸国で最大、このまま放置すれば将来に大きな禍根を残すと考えたからだ。債務が拡大した発端はリーマンショック後の4兆元の景気対策にあるが、15年に株価が急落した時の景気対策でも債務が上乗せされた。そして、中国政府がデレバレッジを推進した18年、インフラ投資は急減速し、15年10月に導入された小型車減税が17年末で撤廃されたことも自動車販売の足かせとなった。
また、18年の中国経済には「米中貿易摩擦」も大きな打撃となった。米中対立が激しさを増す中で、中国経済の将来を担う「中国製造2025」関連産業で先行き不透明感が強まり、中国株は大きく下落し16年1月に付けた安値を割り込み、消費者マインドを冷やして、自動車販売は前年割れに落ち込むこととなった。さらに、米中対立は「産業のコメ」と言われる集積回路(IC)にも悪影響を及ぼし、データセンター建設ラッシュは沈静化、中国における仮想通貨バブル崩壊でマイニング需要の落ち込みや次世代通信規格(5G)への移行期に差し掛かったスマホの買い控えも重なり、ITサイクルはピークアウトした。最近のIC生産を見ると、3月は138億個と1-2月の平均(114.75億個)を大きく上回ったものの、前年同月の生産量を下回っており、トレンドは下向きのままだ(図表-2)。米中首脳会談の設定も先送りが続いており、先行き不透明感は晴れない。
このように足元で明るい兆しがでてきた中国経済だが、景気が持ち直せば「デレバレッジ」が再び推進される可能性が高く、「米中貿易摩擦」の火種がくすぶる中では先行き不透明感も払拭し切れないことから、中国の景気は一時的には回復しても、持続的な回復は期待薄といえるだろう。
消費の動向
個人消費の代表的な指標である小売売上高の動きを見ると、19年1-3月期は前年比8.3%増と、18年10-12月期の同8.1%増(推定1)を小幅に上回った(図表-3)。
業種別の内訳が分かる限額以上企業の統計を見ると(図表-4)、化粧品が前年比10.9%増と前四半期の同2.5%増を大きく上回ったほか、飲食や日用品も前四半期を上回る伸びを示した。一方、住宅販売低迷を背景に、家具類が同5.0%増と前四半期の同10.1%増を下回り、家電類も同7.8%増と前四半期の同11.0%増を下回った。また、自動車販売は前年比3.4%減と前年割れとなったが、前四半期の同10.1%減に比べるとマイナス幅が縮小した。17年末で打ち切られた小型車(排気量1.6L以下)減税による需要先食いの影響が薄れたのに加えて、米中貿易協議の進展に対する期待が高まって株価が上昇し、逆資産効果が薄れたことがあると見られる。そして、18年夏をピークに低下していた消費者信頼感指数(UnionPay)も下げ止まったため、消費の追い風となりそうだ(図表-5)。なお、ネット販売(商品とサービス)は前年比15.3%増と引き続き高い伸びを示した。
但し、個人消費への影響が大きい雇用指標を見ると、求人倍率は1.28倍と高位を維持しているものの、調査失業率が上昇してきているため、今後の雇用情勢には注意が必要である(図表-6)。
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(1)中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
投資の動向
投資の代表的な指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、19年1-3月期は前年比6.3%増と、18年10-12月期の同7.4%増(推定)を1.1ポイント下回った(図表-7)。投資を3大セクターに分けて見ると、不動産開発投資は同11.8%増と前四半期の同8.3%増(推定)を3.5ポイント上回ったものの、製造業が同4.6%増と前四半期の同11.9%増(推定)を大きく下回り、インフラ投資も同4.4%増と前四半期の同5.3%増(推定)を小幅に下回った(図表-8)。
製造業の投資に急ブレーキが掛かった背景には、米中貿易摩擦の影響があると見られる。槍玉に挙げられたのが「中国製造2025」で、その関連投資に関する先行き不透明感が高まったからだ。また、米中の“関税引き上げ合戦”が激化したため、対米輸出拠点を中国以外へ移転する動きがじわじわと拡がってきており、製造業の投資は18年9月の前年比18.3%増(推定)をピークに低下傾向を強め、19年3月には同2.0%増(推定)まで一気に低下してきた(図表-9)。また、工業設備稼働率を見ても、17年10-12月期が78.0%でピークとなり、19年1-3月期には75.9%まで低下してきており、過剰設備問題の再燃が懸念され始めた(図表-10)。
但し、18年12月に開催された米中首脳会談のあと、米中貿易協議が徐々に進展し始めると、株価は上昇に転じ、企業家マインドにも底打ちの兆しが見られるようになってきた。また、18年12月に開催された中央経済工作会議では、「反循環調節(景気減速の押し戻し政策)」を打ち出し、地方債の増発を決めたため、インフラ投資が持ち直して落ち込みをカバーしそうだ。1-3月期に発行された地方債は前年同期を大幅に上回る約1.2兆元(日本円換算で約20兆円)に達した(図表-11)。