2019年3月期の本決算が発表の佳境を迎えています。5/8(水)には東証で時価総額最大のトヨタ自動車(7203)や、そのライバルの本田技研工業(7267)が決算発表を実施しました。5/9(木)にはソフトバンクグループ(9984)、パナソニック(6752)の発表が終り、5/10(金)には発表社数が649社とピークになりました。東京株式市場では企業業績の株価への織り込みが進みつつあるようです。
我が国の企業業績は踊り場を迎えていると考えられます。ピークを越したとはいえ、5/13(月)~5/15(水)の3営業日で合計1,400社超の企業が決算発表の予定であり、まだ波乱が続く余地はあります。物色的には、決算発表を終えた企業からの選別が「正攻法」となりそうです。
今回の「日本株投資戦略」では、決算発表シーズンが波乱の展開となる中、2019年3月期で市場の期待に応え、2020年3月期も期待される銘柄を抽出すべくスクリーニングを行ってみました。足元の株価は米中貿易摩擦の問題もあり、それらの銘柄でさえ下落基調となっている場合が多いようです。しかし、それらの銘柄は市場が反発に転じた場合、物色面でのリード役になる可能性がありそうです。
市場の期待に応えた「好業績銘柄」はコチラ!?
それではさっそく、スクリーニングを行ってみたいと思います。スクリーニング条件は以下の通りとなっています。
(1)東証1部上場銘柄であること
(2)時価総額が1千億円以上の銘柄であること
(3)広義の金融(銀行、証券、保険、金融)や電力、ガスを除く東証33業種に属す銘柄であること
(4)3月決算銘柄で、5/9(木)までに決算発表が終った銘柄であること
(5)2019年3月期の営業利益が事前の会社予想および市場予想を上回った銘柄であること
(6)2019年3月期、2020年3月期(会社予想)ともに前期比5%以上の営業増益となっている銘柄であること
上記のすべての条件を満たした銘柄を掲載したものが表1となります。この表では、2019年3月期の営業利益が事前の市場予想を何%上回ったのかを計算し、その数字が大きい順に並べています。事前の市場予想営業利益が「市場の期待」を反映したものであるのならば、掲載された銘柄はそれに応えた「好業績銘柄」であると考えられます。
なお、冒頭でもご説明したように、5/10(金)は発表社数ベースで649社のピークになりました。ただ、5/13(月)~5/15(水)にも1,413社の発表があります。今回のスクリーニングは2,000社以上の決算発表を残した状態で行っており、市場の期待に応えた「好業績銘柄」のすべてを抽出しきれた訳ではないと思います。また、分析対象の利益を営業利益に絞っているため、ほかの損益計算上や貸借対照表の勘定を使って分析した場合に、異なる価値観が生じる可能性を排除することはできないと思われます。
日銀短観(2019年3月調査)では、業況判断指数が悪化したのみならず、3ヵ月前に想定した値よりも悪くなっている業種が増えています。言い換えれば、2019年1~3月期に、米中貿易摩擦等を背景に、業績下方修正リスクが急速に強まったものと推測することが妥当になりました。逆に、この時期をくぐり抜けた上で2019年3月期の営業利益が事前の会社予想および市場予想を上回った銘柄というのは、高い評価を受けることが妥当であると「日本株投資戦略」では考えます。
表1:市場の期待に応えた「好業績銘柄」はコチラ!?
コード / 銘柄 / 株価(5/10) / 騰落率(発表後) / 19/3期増益率 / 19/3期市場予想比 / 20/3期会社予想増益率
<4507> / 塩野義製薬 / 6,651 / +1.5% / +20.2% / +6.2% / +6.1%
<4901> / 富士フイルムホールディングス / 5,250 / +3.4% / +70.1% / +3.6% / +14.4%
<7518> / ネットワンシステムズ / 2,821 / +1.7% / +57.9% / +1.7% / +15.3%
<6750> / エレコム / 3,385 / -8.0% / +24.4% / +1.5% / +5.7%
<4684> / オービック / 12,230 / +1.7% / +17.4% / +1.2% / +8.1%
<9434> / ソフトバンク / 1,424 / +9.3% / +12.8% / +1.0% / +23.7%
<4739> / 伊藤忠テクノソリューションズ / 2,705 / +6.2% / +9.9% / +0.5% / +8.6%
※Bloombergデータ、会社公表データ等を用いてSBI証券が作成。株価騰落率は決算発表日の前営業日から5/10(金)までの騰落率。増益率はすべて営業利益について計算。「市場予想」はBloomberg集計の市場コンセンサス。なお、ソフトバンク(9434)の19年3月期はヤフー連結前、20年3月期予想は同連結後の数字です。2019年6月末までにヤフーの連結子会社化が完了することを前提とし、2019年度の期首に遡及して連結したと仮定した場合、20/3期の予想増益率は3.5%と計算(会社側)されます。
抽出銘柄の投資ポイント
今回のスクリーニングでトップに躍り出たのは塩野義製薬(4507)でした。5/9(木)に発表された2019年3月期決算では、営業利益が1,385億円となり、事前の市場予想を約6%、2018年3月期実績を約20%上回る好決算となりました。会社側は2020年3月期の営業利益も6%増の1,470億円と増益を見込んでいます。
2020年3月期は新製品の増収をテコに過去最高益の継続を狙う方針です。抗HIV薬等のロイヤリティ収入が売上高の半分弱を占め、収益がブレにくいことは、企業業績全般が踊り場を迎える中で再評価の対象になる可能性がありそうです。5/9(木)に会社側が示した今期予想営業利益は市場予想を7%程度上回る数字で、これが好感されたこともあり、5/10(金)の株価は大幅高となりました。
図1は塩野義製薬の一目均衡表です。上昇後の株価を維持できれば、遅行スパンが日々線を上回ってきそうです。
図1:塩野義製薬(4507)・日足・一目均衡表
富士フイルムホールディングス(4901)は5/8(水)に決算発表を行い、2019年3月期の営業利益が前期比70%増の2,098億円となり、2008年3月期以来の最高益更新となりました。
会社側が示した2020年3月期の営業利益は2,400億円と、前年同期比で14%超増える見込みです。ただ、この数字は事前の市場予想値である2,506億円を下回る金額で、その点はマイナス要因になったと考えられます。しかし、決算発表後の5/9(木)および5/10(金)の株価は続伸となっており、2ケタ増益および最高益更新の予想が評価された可能性があります。最高益の2008年3月期(2007/11/1)に付けた高値5,710円)が意識されてくるかもしれません。
ネットワンシステムズ(7518)は企業のネットワーク構築を支援する企業で、SBI証券がご紹介する「テーマキラー!」では、5G関連銘柄の一角を占めています。
2019年3月期の営業利益は130億円となり、前期比57.9%増、市場予想比で1.7%増の増益となりました。会社側が公表した2020年3月期の予想営業利益は150億円で、前期比15%超の増益となる見込みです。
図2:ネットワンシステムズ(7518)・日足・一目均衡表
SBI証券の企業調査部では、5/9(木)付で目標株価の引き上げおよび投資判断(買い)の継続を発表しています。概要はSBI証券のWEBサイトをご確認ください。図2はネットワン・システムズの一目均衡表です。好業績に加え、テーマ性もあり、高値を維持する展開になっています。
ちなみに、表1では伊藤忠テクノソリューションズ(4739)も、ほぼ同業者と考えられ、業界全般に好調な可能性も指摘されます。
ソフトバンク(9434)は、5/8(木)に決算発表を行うとともに、ヤフー(4689)の子会社化を発表しました。2019年3月期の営業利益は7,195億円で前期比12%増の大幅増益となりました。これは市場予想をも1%上回る数字です。会社側が公表した2020年3月期の予想営業利益は8,900億円で、上記の営業利益からは23%超の増加となります。ただ、計画通りヤフーが連結子会社化されれば、実質的には3.5%増予想という形になります。
通信料金への値下げ圧力や新規参入への懸念という逆風は今後も当面、吹き続けると考えられます。新規上場時の2018/12/19始値である1,463円も引き続き強い上値抵抗線になりそうです。 反面、ヤフーの子会社化で「携帯」以外の収益が組み込まれることになることや、会社側が2020年3月期の予想一株配当金を85円と設定し、予想配当利回り(5/10)が6%弱に達することはプラス材料とみられます。
図3にもあるように、ソフトバンクの一目均衡表は一気に好転してきた格好になっています。
図3:ソフトバンク(9434)・日足・一目均衡表
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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