「令和」を迎えた東京株式市場が波乱となっています。日経平均株価はほとんどの営業日で下落し、平成最後の営業日からの下落は一時1,000円を超えました。米中通商協議が難航し中国から米国への輸出すべてに関税が賦課される可能性が台頭するなど、米中通商摩擦が激化の様相を呈しているためです。5/17(金)にはようやく大幅反発となりましたが、底入れと判断するには時期尚早かもしれません。
こうした中、米トランプ大統領は米国企業等が中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)へ部品等を輸出することを禁じることを表明し、5/16(木)の東京株式市場では、これまで株式市場をリードしてきた「5G関連」の銘柄の多くも下落してしまいました。
しかし、実は足元の米中貿易摩擦や波乱になった上場企業決算等は、いくつかの「5G関連」の銘柄にとって投資好機となっている可能性もありそうです。実際、どのような「可能性」が秘められているのでしょうか。
ファーウェイ問題の本質
冒頭で触れましたように、米トランプ大統領は米国企業等が中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)へ部品等の輸出を禁じることを表明し、5/16(木)の東京株式市場では、これまで株式市場をリードしてきた「5G関連」の銘柄の多くも下落してしまいました。
「5G」は「5th Generation」の略語で、「第5世代移動通信システム」のことを指しています。5Gの通信速度は毎秒10ギガ(ギガは10億)ビット超と4Gの1,000倍の容量を持ち、無線区間の低遅延化や、センサーネットワークなどにおける多数同時接続が可能となります。このうち、低遅延化や多数同時接続という特徴は自動運転やIoTを実現する上で必須の技術であり、この点から5Gには、単なる「次世代通信規格」という投資テーマの枠を超えた注目が集まっています。
特に「5G」の「多数同時接続」「超低遅延」が多方面から注目を集めています。「多数同時接続」は、基地局1台から同時に接続できる端末を従来に比べて飛躍的に増やすことです。これまで自宅ではPCやスマホなど数台の接続であったものが、100程度の機器やセンサーと同時に接続できるようになると言われています。「超低遅延」は、通信ネットワークにおける遅延を極めて小さく抑えられることです。自動運転のように高い安全性が求められるものに必要な機能となります。
「4G」までは基本的に人と人とのコミュニケーションを行うためのツールとして発展してきたのに対し、「5G」はあらゆるモノ・人・自動車などが繋がる「IoT」、「自動運転」時代のコミュニケーションツールとしての役割を果たすと言えるでしょう。「IoT」や「自動運転」は革新的な技術であり、それ自体重要な投資テーマですが、「5G」なくして、それらを実現することはできないと考えられます。
ちなみに、通信の世代が代わるごとに、世界は大きく動いてきました。「2G」の時代を先導し、「iモード」を生み出したNTTドコモ(9437)の時価総額は一時日本企業で過去最大の時価総額を享受しました。しかし、「3G」の時代に生まれた米アップル社の「アイフォン」がスマートフォンの時代を切り開き、日本企業の地位は電子部品等を除いては大きく低下しました。
こうした中、「5G」は中国の通信事業者や通信機器メーカーが主導して展開されるはずでした。図1にもあるように、世界の携帯電話市場でファーウェイはサムスン電子(韓国)やアップル(米国)とトップ争いをしています。しかし、ご存知の通り、米国と中国の覇権争いの中で、米国は主導権を取り戻すべく、中国を排除しようとしています。
中国に対する米国の強硬姿勢は、一見トランプ大統領固有のスタンスのようにみえますが、実は共和党・保守党共通の方針となりつつあります。したがって、将来トランプ大統領が仮に大統領選挙に敗れることがあっても、同様の中国政策は次の政権に引き継がれる可能性が大きいとみられます。
ただ、世界的通信機器メーカーであるファーウェイを市場から締め出そうとすれば、サプライチェーンの中で同社とつながった企業も影響を受けると予想されます。例えば半導体製造装置がその一例で、すでに東京エレクトロン(8035)などの株価も下げています。ただ、「ファーウェイ・ショック」における日本企業のツレ安は「行き過ぎ」のケースも少なくないとみられ、押し目は買いになるケースが多そうです。
図1:世界の携帯電話端末・台数シェア(2018年)
図2:東京エレクトロン(8035・日足)
「5G」は今が投資チャンスか?
SBI証券では、テーマ株投資を行うツールとして「テーマキラー!」をご提案しています。その中で、「5G」は投資家のアクセスランキングでトップを走り続けている人気のテーマです。
今回の日本株投資戦略では、「テーマキラー!」で5G関連銘柄としてご紹介している銘柄、および3/22付レポート「30万円未満で買える好業績『5G関連銘柄』はコチラ!?」でご紹介した5G関連銘柄を対象に、業績、株価のチェックを行いました。
表1はそれらの銘柄のうち、3月決算で営業利益が会社計画を上回った銘柄で、時価総額が1千億円以上の銘柄について再考してみました。
協和エクシオ(1951・図3)はNTT等を主要取引先とする通信工事大手企業です。通信キャリアによる5G投資拡大の恩恵を受けると考えられます。
足元の業績も好調ですが、今期の会社見通しが市場予想に比べると慎重で、決算発表後は一気に利益確定売りが広がりました。ただ、足元の株価は下げ過ぎ感も強まっており、さらに深押しするようであれば投資チャンスかもしれません。
図3:協和エクシオ(1951)・日足
伊藤忠テクノソリューションズ(4739)およびネットワンシステムズ(7518・図5)は、ほぼ同業とみていい銘柄で、ネットワーク・インテグレーターに属しております。通信ネットワークが世代交代するときに繁忙となりやすい企業で、5G投資の本格化も重要なビジネスチャンスとなっております。なお、後者については企業調査部からレポートが更新(5/9付・投資判断「買い」継続)されています。
取引先が国内中心で、ファーウェイ問題の影響を受けにくいことも投資家にとっては安心感につながりそうです。両社とも5月に入り、年初来高値を更新しています。
図5:ネットワンシステムズ(7518)・日足
日本電気(6701)は通信向け基地局大手であり、今後5G投資拡大の恩恵を受けそうです。業績も足元は順調で、株価は再び年初来高値近辺に接近しています。
ちなみに、世界的な基地局市場はエリクソン、ノキアといった欧州系2社に韓国サムスン電子、中国のファーウェイ、ZTEが世界的な大手です。国内ではNECと富士通が中心ですが、世界大手からは出遅れています。ただし、ここもと、米国が中国2社を排除する方向で動き出したため、他社に追い風が吹くとの期待が高まっています。
NECはサムスン電子と業務提携し、こうした追い風を享受しそうです。ただ、現実にはNECは国内固めが中心になる可能性もあり、過度な期待にも注意が必要です。
アンリツ(6754・図4)はここにきて株価が大きく調整しました。2019年3月期の営業利益は28.9%増と好調でしたが、2020年3月期は11%減と伸び悩む予想にしたことが原因とみられます。5G関連銘柄の中心的存在として期待も大きかっただけに、失望売りも厳しくなりました。
ただ、伸び悩む理由は4G向けの構成比が減るためで、期待の5G向けは増える見通しです。会社の予想も保守的過ぎるかもしれません。企業調査部からレポートが更新(5/10付・投資判断「中立」継続)されています。
図4:アンリツ(6754)・日足
太陽誘電(6976)はファーウェイ問題の影響で、業績への悪影響が懸念される電子部品、半導体製造装置業界共通の逆風を受けているようです。株価は年初来高値から26%下げています。
ただ、Bloombergデータを見る限り、ファーウェイが販売先の上位に含まれている訳ではないようで、影響は限定的のように予想されます。受注も底入れの兆しが指摘されています。5/13(月)付で自社株買いを発表し、5/27(月)以降実施予定となっています。押し目買い好機となっている可能性がありそうです。
ご参考までに、図2の東京エレクトロン(8035)もファーウェイ向け販売はBloombergデータを見る限りではあっても、少ないとみられます。
このように、表1に掲載された5G関連銘柄は投資チャンスを迎えている銘柄が多そうです。
表1:会社予想を上回り、今後も注目可能な5G関連の主力銘柄
コード / 銘柄 / 株価(5/17) / 年初来高値 / 同日付 / 株価騰落率
<1951> / 協和エクシオ / 2,534 / 3,135 / 2019/4/15 / -19.2%
<4739> / 伊藤忠テクノソリューションズ / 2,718 / 2,792 / 2019/5/8 / -2.7%
<6701> / 日本電気 / 3,920 / 3,995 / 2019/4/10 / -1.9%
<6754> / アンリツ / 1,620 / 2,379 / 2019/3/4 / -31.9%
<6976> / 太陽誘電 / 2,018 / 2,726 / 2019/4/22 / -26.0%
<7518> / ネットワンシステムズ / 3,005 / 3,035 / 2019/5/17 / -1.0%
※各社株価データをもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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