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(画像=人気店だった『BEARD』を閉めて、ジェロームさんに合流した原川さん(画像=Foodist Media))

日本を100%オーガニックにすることは可能か?

『ザ・ブラインド・ドンキー』は、「日本を100%オーガニックにする」という目標を掲げている。その意図について伺うと、ジェロームさんはこう答えてくれた。

「目標や夢を掲げることは大事だと思うんです。でないとスタートしないわけですから。今の地球の状態を見ると100%オーガニックにすることは不可能に近いわけですが、そのゴールに向かうために今何ができるかということを考えることが大切です。日本の農業のシステムというのは限界にきていて、変化が必要とされているときだと思うんです。高齢化の問題もありますね。そういう意味では新しいモデルを定義するチャンスでもあるので、こういう考えが広められればそちらにシフトできる可能性も大いにあります。経済的に成り立つのであれば、食を自然の形に持っていくことができるかもしれません。僕たちの立場としては、生産者とダイレクトに向き合うモデルケースを作っているわけです。それが派生していけばもっと大きなインパクトになると思います。今は100のうちの0.1%かもしれませんが、やがて1や2になっていく。そこを目指していくことも大事ではないでしょうか。すごいスピードで僕たちは自然を変えてしまいましたが、逆に手をかけることで良くすることもできるだろうと思っています」

自然農法を実践する生産者を応援することは、長い目で見れば地球環境や人々の健康を守ることにもつながる。サステナブルという観点でもオーガニックに力を入れることは意義のあることだ。『シェ・パニース』のあるカリフォルニアには、もともとオーガニックの考え方と親和性の高いヒッピー文化があるが、日本でもこの考え方は根付くだろうか。原川さんに聞いてみた。

「日本は戦後30年くらいであっという間にカルチャーが変わりましたよね。とにかく飢えをしのぐために大量生産しようという考え方は、その時代には必要で、決して悪いことではなかったと思います。でも、それ以前の日本の考え方で、海外に影響を与えていることってすごく多いのです。愛媛県の自然農法家の福岡正信さんの著書『わら一本の革命』も、日本よりヨーロッパのほうが有名ですし、世界遺産になった和食も、『四季に敬意を払って料理をしましょう』ということですよね。オーガニックという言葉が先走っていて新しいことのように感じているのですが、もともと日本人が持っていた考え方です。それを現代にコミットする形で、僕たちが何をできるかなということを考えています」

確かに、日本には身土不二という言葉があり、身近にある旬の食材をとり、その味を最大限に引き出す和食という文化が育まれてきた。いつしか全国いつでも同じような食材がとれるようになり、その感覚が薄れてしまったのかもしれない。

原川さんのお話に出てきた福岡正信さんは、田を耕さず、除草せず、農薬も肥料も使わないという自然農法を実践し、科学農法よりも多くの収穫量を得ることに成功した人だ。その福岡さんに敬意を示し、『ザ・ブラインド・ドンキー』の店内には1本のわらが飾られている。「わらのように軽く小さなことからでも、革命は起こせる」というのは福岡さんの言葉だが、それはまさに『ザ・ブラインド・ドンキー』の志を表しているように思われた。

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「今、何ができるかを考えることが大切」と語るジェロームさん(画像=Foodist Media)

ザ・ブラインド・ドンキーが目指していること

最後に、あえて「ザ・ブラインド・ドンキーは100%オーガニックか」という質問をぶつけてみた。するとジェロームさんはちょっと苦笑してこう言った。

「もちろん違います。でも、そういう目的を持って日々取り組むことが大事なのではないでしょうか。大事なのは日々いろんな選択をしていくことです。扱っている食品はほぼ有機で自然農法をされている方たちのものですけど、その人たちが100%オーガニックかというと、必要に応じて農薬を使わなければならない瞬間が数回あったりします。それすら行わずにすべてがダメになってしまって、農家さんの生計が成り立たなくなってしまうのは健全なことではありません。その方たちがどうやって自然と向き合ってくれているか。それを知った上でサポートするということを大切にしています。僕らがどこにお金を落とすかということが大事なのではないですかね。できる限り、共感できる、同じ方向を向いている人たちと協力しあって、その人たちをサポートしていきたいなと思います。私もときどきむしょうに食べたくなって、コンビニで謎の食べ物を食べることもありますよ(笑)」

原川さんは「あまり極端になりすぎてもいけないので、多様な作物を生み出す土のように、いろんな人がいて共存していける豊かな環境になればいいのではないかと思います」と話してくれた。

いろいろ伝えたいことはありながらも、決して押しつけがましくしたり、堅苦しくなったりしないように気を配っているという二人。言葉だけでなく、居心地の良い温かな空間や、旬の美味しい料理、植物や木の器を通して、自然を感じられるようにしているようだ。水がじわじわと土に浸透していくように、その理念が広がっていけば、日本の飲食店や食の在り方が変わるかもしれない。『ザ・ブラインド・ドンキー』という土壌で芽吹いた新たな可能性が、どのように成長していくのか楽しみである。

原川慎一郎(はらかわ・しんいちろう)
静岡県生まれ。料理人。渋谷にある『Concombre』で修業の後、渡仏し『La Madeleine』に勤務。帰国後、三軒茶屋の『uguisu』などのレストラン勤務を経て、2012年に目黒に自身のレストラン『BEARD』をオープン、人気を博す。 同時に地域風土に根ざし食文化を再発見する活動も展開。2016年、カリフォルニアの『Chez Panisse』元総料理長であるジェローム・ワーグ氏とともにRichSoil&Coを設立。2017年12月に東京神田に待望の新レストラン『the Blind Donkey』をオープンする。

ジェローム・ワーグ
フランス・パリ生まれ。料理人・アーティスト。オーガニックレストランの先駆けであるカリフォルニア・バークレーにある『Chez Panisse』に勤務、後に総料理長を務める。 日本には度々来日し、ジェローム氏が参加し、2011年に東京都現代美術館で行われた『OPEN harvest』は大反響を巻き起こした。 2016年より日本に移住。原川慎一郎氏とともに、RichSoil&Coの代表を務め、東京神田にレストラン「the Blind Donkey」をオープン。大の下町好きとしても知られている。

『the Blind Donkey(ザ・ブラインド・ドンキー)』
住所/東京都千代田区内神田3-17-4 1F
電話番号/03-6876-6349
営業時間/17:00~23:30
定休日/月曜、日曜

(提供:Foodist Media

(執筆者:三原明日香)