(本記事は、五戸美樹氏の著書『人前で輝く!話し方』=自由国民社、2018年5月12日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

7割もの中学生が人前で話すのが嫌い

人前で輝く!話し方
(画像=『人前で輝く!話し方』※クリックするとAmazonに飛びます)

日本の小中学校でアンケート調査を行った結果に「人の前で話すことが嫌い」と答えた子どもは、小学5年生ですでに50%を超え、中学3年生では70%にものぼりました。子どもに限らず、声についての意識調査では、「自分の声が嫌いだ」と回答した日本人は80%を超えています。

ほとんどの日本人が、人前で話すのが嫌で、怖くて、コンプレックス。

「なんとかしたい」と思っている方も、多いと感じます。

このように「人の前で話すことが嫌い」な方が多いのに、“人前で話さなければならない機会”は、以前よりも増えていると思います。

アーティストでいえば、CDが売れない時代ではあるけれど、ライブ・コンサートは増えています。企業の新商品の宣伝も、「SNSの活用」が叫ばれていますが、拡散されるためには、ただテレビやネットに広告を出すよりも、実際に使ってもらったり触ってもらうのが一番ではないかということで、体験イベントやお披露目イベントが行われる…そこには必ず「人前で話す人」がいます。

細かいイベントを数打つ場合は、一回の予算が限られるので、司会にアナウンサーを入れずに、広報の方が司会をし、製品担当の方が製品を説明する、というパターンもよくあります。

真面目な方ほど「司会なんてやったことない」、「製品は良いものなのにうまく伝えられなかったらどうしよう」とパニック状態で本番を迎え、緊張でよくわからないまま時間が過ぎて、終わってぐったり。そんなことが実際に各所で起きています。

一方、「人前で話す」のがうまければ、仕事の幅は広がります。

「人工知能(AI)に仕事を奪われる」という話をよく聞きます。自動運転が発達すれば、タクシードライバーは必要なくなってしまうだろう、といった話です。

いつかそんな日が来るのかもしれませんが、たとえばトークがうまいドライバーさんなら、「この人のタクシーに乗りたい」と指名がもらえるかもしれません。そしたらそのドライバーさんの仕事はなくならないと思うんです。

冠婚葬祭の挨拶でも、主賓に変わってAIが挨拶するなんてことは、時代が進んでも起こりようがないと思います。

また、コミュニティFMで現在、実際にAIがニュースを読んでいる局があります。人件費の問題や、実験的な意味合いもあり、面白い試みだとは思いますが、ラジオとしての違和感は拭えません。

人口音声は「音」であって、「声」ではなく、内容は原稿通り。人に伝わるトークができれば、ラジオパーソナリティがAIに仕事を奪われることはないと思います。

デジタルの時代であっても、「人前で話す」ことからは逃げられない、しかし「人前で話す」ことが苦手な方はあまりに多く、「人前で話す」ことがうまくできれば一歩リードでき、仕事の幅は広がり、人生は豊かになると、私は思います。

トークが苦手なのは「お手本」が間違っていたから!

「人前で話す」の話し方は、時と場合によって違います。挨拶なら、結婚式なのかお葬式なのか、仕事の営業なのか、身内なのか、10人の前なのか、1000人の前なのか。

でも、コツさえつかめば、必要なのは「切り替え」だけです。1000人の前だとうまくできないけれど、10人の前だとうまくできる、なんてことはそんなになく、うまい人は規模が大きくても小さくてもうまい。

ではどんなトークがうまいと言えるでしょうか。

まずは、内容の面から考察していきます。

わかりやすく、結婚式の挨拶から。よくある主賓挨拶の例です。

「この度はご結婚誠におめでとうございます。ご両家ご親族のみなさま、心より御祝い申し上げます。ご年長の方をさしおいて甚だ僭越ではございますが、ご指名により、お祝いを述べさせていただきます」

職業柄、結婚式によく出席するのですが、だいたいこんな感じです。インターネットで「結婚式挨拶」で検索しても、同じような文章が出てきます。

この挨拶、問題点はいくつもありますが、大きな点としては「こう話さなきゃいけない」という思い込みに縛られていることです。

私はこれを「お手本が間違っている」という言い方をします。

「結婚式だから」「主賓だから」「年長者だから」といった理由に引っ張られ、自分を見失ってしまう……。そのため“挨拶テンプレート”を使ったほうが楽だと短絡的に考えてしまう現象です。

結果、「書き言葉」を「読んで」しまい、普段と異なる人物を「演じる」ことになり、ガチガチに緊張して、用意した原稿をしどろもどろに読む……これは、しんどいです。

原稿の書き換えについては、次の「簡単!台本書き換え戦術」の項でお伝えしますが、「心より」や「申し上げる」や「甚だ」は、代表的な「書き言葉」。手紙やメールでお祝いを伝える際はなんら問題ありませんが、しゃべって伝えるには聞き取りづらく、伝わりづらい言葉です。

挨拶を考えるには、テンプレートを使ってしまったほうが楽ではありますが、実際にしゃべるには、テンプレートは全然楽じゃない、むしろ覚えるのが辛いです。内容を考えるのが大変でも、自分の言葉でお祝いの気持ちを伝えたほうが、本番が楽ですし、個性が出ます。本番で楽に話している挨拶は、うまく聞こえます。

うまいなと思った主賓挨拶の例です。

「主賓って柄でもないんですけど、せっかくなので、お祝いの言葉を伝えたいと思います。AさんBくん、結婚おめでとう。自分はAさんが働いている「○○」という会社の上司にあたるんですが……」

この後は新婦の優しい性格を、具体例をまじえながら紹介していました。恐縮しながらも、普段の言葉遣いで、自分と新婦の間柄を簡単に説明し、内容に入っていく、うまい挨拶のひとつの例です。

次に、ちょっと例が若いですが、私が教えている10代の女性アイドルの自己紹介を見ていきましょう。

「はい!埼玉県出身!17歳!高校2年生の!山田花子です!!最近ハマっていることは!入浴剤を!集めることです!よろしくお願いします!!」

アイドルはこうしゃべらないといけないという法律でもあるのかというほど、こういった自己紹介が非常に多いです。

誰にも呼ばれていないのに、頭に「はい!」をつけて、原稿はないのに棒読みで、「ことは!」や「入浴剤を!」などと文の途中で切れてしまう、実に不思議な話し方です。

この自己紹介も「お手本が間違っている」といえます。どこかの“アイドル自己紹介テンプレート”を使う必要はないんです。

こちらの山田花子さんの自己紹介なら、以下のように変換できます。

「私は山田花子っていいます。出身は埼玉で、年は17歳で高校2年生です。最近は入浴剤を集めるのにハマってるかな。よろしくお願いします!」

ちなみに本当に山田花子さんだったら、その名前にもっとフォーカスを当てます。

(欲を言うと、「最近入浴剤集めにハマっている」くらいだと他の子との違いを出しにくいので、

「子供の頃から入浴剤集めが趣味で、最近のおすすめはA社の醤油の香りの入浴剤です。醤油につかっているみたいな今まで感じたことない初めての体験ができますよ。でも醤油の香りが全身に残っちゃうので、お風呂につかるのは最初にして、必ず体をキレイに洗ってくださいね。ってそれじゃ入浴剤の意味ないか、ははは」

くらい言ってくれると印象に残ってグッドです。嘘はいけませんが、例えです)

アイドルの自己紹介は極端な例ですが、ほかにもたくさんの思い込みのお手本があります。

何を隠そう私も「アナウンサーらしくしゃべろう」という思い込みを長らく抱えていました。

ラーメン屋さんでの中継で、店主にインタビューする際、「おすすめのラーメンはどちらですか?」などといった質問を、棒読みで言っていました。私としては、アナウンサーらしく質問しようと気取っていたわけですが、私より店主のほうがよっぽど自然に話していると、先輩方に指摘をいただき、後で放送を聞いてみると、本当にそうで、愕然とした覚えがあります。

インタビューだけでなく、「ニュースを読むならこう」という思い込みも持っていました。

ほかの職種でも、声優が女の子を演じるならこう、政治家が答弁するならこう、というイメージ、あると思います。

接客業でも、コンビニの「いらっしゃいませこんにちは〜」、ファミレスの「ただいまお伺いしま〜す」、電話窓口の「お電話ありがとうございます」などなど、同じ挨拶を、同じような声で話している現状、ありますよね。

これは同調性を求められるがゆえの国民性もあると思います。無意識に「ほかの人と同じようにやろう」と思ったり、アルバイトだと「目立つのは恥ずかしい」と思う方も多いかもしれません。

挨拶も自己紹介もプレゼンもMCも、頭の中にある「こうだろう」というお手本を一回捨てて、自分らしいトークを目指しましょう。自分自身の良いところを最大限に引き出すトークです。

内容を考えるのはテンプレートを使うより少し大変にはなりますが、本番は断然楽になります。

人前だからと取り繕って、別の自分を演じる必要はないのです。

つまり、トークを磨くということは、ほとんど、自分と向き合うこととイコールです。

人前で輝く!話し方
五戸美樹(ごのへ・みき)
フリーアナウンサー・トークレッスン講師。1986年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部日本語日本文学コース卒業。2009年、(株)ニッポン放送にアナウンサーとして入社。『三宅裕司のサンデーハッピーパラダイス』『古坂大魔王ツギコレ』などを担当。2015年、フリーアナウンサーとして、エイベックス・マネジメント㈱に所属。契約満了後の2017年秋よりフリーランス。現在はJ-WAVE『GROOVELINE』、AbemaRADIOレギュラー、日刊スポーツWEBコラム『ごのへのごろく』連載中。テレビ朝日アスク講師。「ストアカ」にて話し方教室開講。プレゼントーク、コミュニケーション研修など、企業研修・講演も行う。

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