(本記事は、五戸美樹氏の著書『人前で輝く!話し方』=自由国民社、2018年5月12日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

うまくやるコツは「うまくやろうとしない」

人前で輝く!話し方
(画像=Pressmaster/Shutterstock.com)

緊張しすぎてパニック状態に陥り、放送で号泣してしまった私が、メンタルをレッスンする…世の中何が起きるかわかりません。

さて、人前で話すときに、“適度な緊張”を保つことは大事です。

ピリッとした緊張感を持ち、「あれは大丈夫だよな」など準備したものに思いを巡らせるほうが、ルーティーンでやってしまって緊張感がないときよりもうまくいきます。

一方で、“緊張しすぎる”と、持っている力を発揮できなくなってしまいます。

ガチガチな緊張で苦しくなり、声は出づらく顔は真っ赤で、何をしゃべっているかもわからなくなってしまう…これが“緊張しすぎる”状態です。

私が教えている女性アイドルで、ラジオの“冠番組”を持っている子がいました。“冠番組”とは、タイトルに自分たちの名前が入っているということです。まさに自分たちが主役になる番組。

冠番組で話すのはとても光栄なことです。番組をきっかけに自分たちを知ってもらうこともできます。ラジオが面白かったら、ファンになってもらえるかもしれません。良いところを存分にアピールしたい……。

そんな彼女たちは初回の収録で、“緊張しすぎ”てしまいました。とてつもなく早口で、声は裏返り、「一生懸命頑張ります」と「よろしくお願いします」を連発し、特に内容のある話はできないまま、終わってしまいました。終わった瞬間放心状態で、何をしゃべったか覚えていないという…。

これはよくある“人前トークあるある”です。初回でしたし、新人らしくて、あれはあれで良かったとは思いますが、本人たちは激しく落胆していました。「こんなはずじゃなかった」と。

いくつか原因はありますが、ひとつは「うまくやろうとしてしまった」ことが挙げられます。つまり、普段の自分以上のものを演じようとしてしまったのです。真面目な子ほど「トークがうまいと思われたい」と思いすぎて、緊張しすぎてしまいます。

私の新人の頃もそうです。新人アナウンサーが先輩方のように淀みなく話すことはできないので、新人らしく、一生懸命さが伝わるようなトークができればよかったのですが、「失敗したくない」とか「怒られたくない」と思いすぎて、緊張しすぎてしまいました。

自分の持っている以上のものは出せません。

ピアノの発表会で本番だけうまく弾くことはできないのと一緒です。すごく簡単に言うと、普段友人や同僚と話している時と同じしゃべりをステージでもすればいいんです。

厳密に言うと状況が違うので話し方も変わりますが、あまりに掛け離れたトークをしようとするから、緊張しすぎてしまうのです。(友人と話している時のままなんて話し方がひどすぎて無理だと思う方は、その話し方を見直したいところ)

うまくやるコツは、うまくやろうとしないこと。なんだか変な表現ですが、つまりは「開き直る」ということです。

「うまくできなかったらどうしよう」と考えるのではなく、「まぁいいか、うまくできなくても」とか「うまくいかなかったら、うまくいかなかったでいいか」とか「うまくいかなくても、命まで取られるわけじゃないし」などなど。本番は開き直って、緊張をときほぐしましょう。

練習・準備でメンタル補強

エマーソンという哲学者は、「恐怖は常に無知から生まれる」と言っています。

人前で話すのに、何をどう話したらいいかサッパリわからない、という恐怖がそのまま“緊張しすぎる”状態につながるのです。

これは内容を事前に「準備する」ことと、それを声に出す「練習する」こと、この“予習”でメンタル面を補強できます。

なかには、「内容を決めてしまうと急な流れに対応できないから、決めないでいったほうがいい」なんて言う方がいますが、それは人前で話すのが慣れている方だけができること。

もちろん一言一句練習通りにする必要はありませんが、全く練習しないで本番を迎えるのは、音楽家でいえばプログラムを決めずに即興で演奏をするようなレベルの話です。音楽家もはじめは譜面を追いますよね。

プレゼンならパワポを作ったり、ゲストがいるステージなら相手のことを調べるという準備ができます。

そして、それを声に出す練習です。

譜面を覚えるだけでは素敵な演奏はできないし、レシピを覚えるだけでは料理人にはなれない。なのに、スピーチとなると、紙に書くだけ、あるいはテンプレートをプリントするだけで本番に臨む方がいます。レッスンを受けるまでは、トークだけ一発勝負にしていたアイドルやアーティストの生徒が、本当に結構いるんです。そして緊張しすぎて失敗するという…。

大きな声を出す必要はないので、まずはひとりでリハーサルをしてみましょう。家族に見られるのが恥ずかしかったら部屋を閉め切っても、お風呂の中でもいいと思いますし、カラオケに行って歌わずに練習するのもいいと思います。そしてできれば録音して、それを聞いてひとり反省会ができるとよりグッドです。

予習は面倒ですが、本番は断然楽になります。「練習通りにやれば大丈夫」と思うことで、直前の精神面も扱いやすくなります。

“引き出し”の“組み合わせ”

トーク番組を見たり聞いたりして面白いなと思うのが、いつ次の話になったかわからないけれど、気がついたら次の話になっているとき。笑福亭鶴瓶さんやオードリーの若林正恭さんは本当にうまいなと思います。

たとえば『オードリーのオールナイトニッポン』では、ロケのエピソードトークから、マネージャーがやってしまった面白い失敗談の話になり、ほかのタレントのマネージャーの話になったかと思ったら、別の番組の話に変わっていて、最後は自分の失敗談で“オチ”を作る、といった具合です。

“ひとりしゃべり”でなかなかここまでうまく構成することはできませんが、この流れを参考に、会話の中でどんどん次の話を提案する、という練習法があります。

ラジオ日本「1ami9」は菊地亜美さんがパーソナリティで、お笑いコンビ・マシンガンズのお二人がゲストに来たとき、「テレビで見るより可愛い」と言われたことから次のように展開させました。

(マシンガンズ、以下マ)「テレビで見るより可愛い」→(菊地亜美、以下亜)「もっと毒舌の子かと思ってたってよく言われる」→(亜)「自分は最初のイメージが悪い。逆にイメージが良いと大変」→(亜)「イケメンは鼻をほじってるだけでげんなり」

→(マ)「柳原可奈子さんはニコニコしているイメージだから、笑ってないと怒ってると思われるらしい」→(亜)「三四郎の小宮さんは、一般の方にも“舐められてる”みたいで、街中でおい小宮って言われるらしい」→ここから人に“舐められる話”に広げていきます。

普通だったら、「テレビで見るより可愛い」と言われたら「本当ですか?ありがとうございます。お二人も素敵ですよ」などと言って、もうこの会話はここで終了、という場合が多いです。もちろん時間がないときはそれでいいですし、いつも広げるのがいいというわけではありませんが、ひとつの話を膨らませられる方は、トークスキルが高いなと思います。

人はそれぞれ独自の“引き出し”を持っているものです。会社や自宅での体験、家族や友人知人の話、趣味や特技。それぞれ、頭の中のトークの“引き出し”にしまってある状態から、少しだけ関連しているものを同時に出したりしまったりすることができます。

たとえば、「今日は寒いですね」という会話なら、「そうですね」といって終わらせることもできますが、発展させるなら「寒いときに食べたいもの」や「寒いときに楽しかったこと」など、関連する違う話を持ってきて、展開させるということ。

私だと、「今日は寒いですね」→「寒くてクシャミを何度もした」→「30代になってからクシャミを豪快にするようになった」→「豪快なクシャミを何度も続けてしたら、背筋をつってしまった。寝違えたみたいで痛い」→「寝違えと言えばダルビッシュ有投手が何度か寝違えで登板回避していたけど最近してない」といった具合です。

皆さん意識しないで普段からやっている話し方ですが、あえて少しだけ意識して、積極的に広げるようにすると、これもまた脳トレになります。

人前で輝く!話し方
五戸美樹(ごのへ・みき)
フリーアナウンサー・トークレッスン講師。1986年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部日本語日本文学コース卒業。2009年、(株)ニッポン放送にアナウンサーとして入社。『三宅裕司のサンデーハッピーパラダイス』『古坂大魔王ツギコレ』などを担当。2015年、フリーアナウンサーとして、エイベックス・マネジメント㈱に所属。契約満了後の2017年秋よりフリーランス。現在はJ-WAVE『GROOVELINE』、AbemaRADIOレギュラー、日刊スポーツWEBコラム『ごのへのごろく』連載中。テレビ朝日アスク講師。「ストアカ」にて話し方教室開講。プレゼントーク、コミュニケーション研修など、企業研修・講演も行う。

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