(本記事は、中川奈美氏の著書『自分も相手も幸せになる最高の気遣い』=自由国民社、2018年10月17日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「I LOVE&THANK YOU」されたい心理を満たす
商品、もしくはサービスをご購入になるお客様は、いくつかの欲求を持っているといわれています。それを私たちは
「I LOVE & THANK YOU」されたい心理
と呼んでいます。
欲求があるので、まずこの欲求を満たすことがお客様の基本満足につながるわけです。
これは個人のお客様も、法人のお客様も同様なので、法人営業に携わる方も知っておいていただくとよいと感じます。
まず、「I」はImportance のIです。
これは重要視されたい、「個客」(他者とは違う一人の大切なお客様)と認められたい。独占したいという心理です。
この顧客欲求は皆様同様の心理をお持ちなので、ご自分が購入者側、すなわちお客様の立場だったらどう感じるかを考えていただければ分かりやすいかと思います。
例えば、靴を買いに行ったとしましょう。
ショップでスタッフの方と「この靴、24センチと、24.5センチ、どちらがいいかしら?」と履き比べながら、相談をしていたとします。
そこへ、新しいお客様がいらして、自分を担当していたスタッフの方に「すみません! この靴の他の色ありますか?」と話しかけました。そこで、そのスタッフの方が、新しいお客様に「はい、こちらの靴はですねぇ、こちらにブラックがございまして、あと〜」と、応対を始めたとしたら、どう感じますか?
そんなことが起こったら(えっ、どうして、あなた、私の相談に乗ってくれてたのに、どうしてそっちいっちゃうの??)と驚きとがっかりの感情が沸いてきませんか?
それもそのはずです。なぜなら、独占したい欲求があるので、その欲求が満たされないと満足ではなく不満足になってしまうのです。そのお店での商品購入の意識さえ下がってしまいます。
ですので、お客様の応対をしているときには、できる限りそのお客様を重要視して、集中することが大切です。
新しいお客様は他のスタッフに引き継ぐか、少し待っていただくようお願いしましょう。
ただ、このとき、新しいお客様には
「少々お待ちください」
ではなく、
「この後伺いますので、恐れ入りますが少々お待ちいただけますでしょうか」
と丁寧に伝えましょう。
また個客と認められたい心理もあるので、ご予約やカード類などでお名前が分かるようであれば、積極的にお名前でお声掛けしましょう。
次は「LOVE」です。
これは好感視されたい、歓迎されたい心理です。
ですので、お客様、お取引先様をお迎えするときはしっかり歓迎を伝えましょう。
ここで、大切なことは、
「『いらっしゃいませ』『こんにちは』と伝える=歓迎した」ことではなく、
「相手の方、お客様が、歓迎されたと感じること」なのです。
皆様も、人とお会いしたり、お店に入った時、「こんにちは」と言われても、顔も見ず目も合わせずに真顔で挨拶をされたら歓迎は感じないと思います。
笑顔とアイコンタクトで、
「いらしてくださり嬉しいです」 「お目にかかれ嬉しいです」 「ようこそいらっしゃいました」
という気持ちを感じていただけるよう表現し、伝えることが大切です。
また、ここは応対のオープニングですので、その応対自体の第一印象、お店や会社、組織の第一印象を決めるといっても過言ではありません。歓迎されたと感じていただけると、安心感や居心地の良さが高まります。
ですので、相手の方と共にする時間(接客であっても、営業であっても、ミーティング等も同様です)もより良いものになっていきます。
まず、何か作業をしていても手を止め、相手の方にしっかり顔も体も向けます。
そして、笑顔でアイコンタクトを取り、明るい声で、はっきり
「いらっしゃいませ」「おはようございます」「こんにちは」
と挨拶の言葉に歓迎の心を込めて伝えます。
そして、伝え終わった後、お辞儀をします。
お辞儀の後、顔を上げたら、さらにアイコンタクトを取りニコッと笑顔を送ります。
一般のお辞儀でよく目にするのが同時礼というもので、これは挨拶の言葉とお辞儀を同時に行うものです。「こんにちは」と言いながらお辞儀をするものですね。皆様もよく見かけると思います。
しかし、心を伝え相手の方にその気持ちを感じていただくには分離礼をお勧めします。先ほど記したように、挨拶の言葉をしっかりと言葉の最後まで相手の方にアイコンタクトと笑顔で伝えてから、お辞儀をします。これを「語先後礼」とも言います。(言葉が先、礼が後です)この語先後礼を癖にしていただくと、心が伝わるばかりか、行動にもメリハリが出ます。ぜひお勧めです。
「THANK=感謝」と「YOU=尊敬」
では、次は「THANK」です。
これはこのまま、感謝されたい心理です。
購買活動は、対価を払いお取引をするので、お客様は潜在意識においてですが(あなたの組織に利益を及ぼすんだから感謝されるのは当然のこと)との思いが大なり小なりおありです。ですので、この欲求もしっかり満たしましょう。
先ほどの歓迎と同様、相手の方、お客様が「感謝された」と感じることが大切です。
感謝の表現も目的は感謝を伝えることよりも、感謝を伝え表現し、相手の方に実感していただくことです。
先ほどの語先後礼で
「ありがとうございました。またお待ちしております」 「ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
とアイコンタクトを取り、心を込めてしっかり伝えてから、心を込めてお辞儀をします。もちろん、顔を上げたら、もう一度相手の方、お客様をしっかり見ましょう。
お客様がもうお帰りになっていて、背中を向けていらしても、背中に向かって、
「またお目にかかれる日を楽しみにしております。ありがとうございました。お気をつけて」
と思いながら、見送りましょう。
お客様も感謝と余韻を感じてくださり、「また会いたい」「また利用したい」と思っていただけることでしょう。
最後は「YOU」。
有能視されたい、尊敬されたい欲求です。
皆様はお客様や相手の方を褒めていらっしゃいますでしょうか?
お客様のことを褒めて差し上げると、とても喜んでくださいませんか?
そうです。「有能視されたい、尊敬されたい欲求」をもともとお持ちなので、こちらの欲求にもお応えしましょう。
皆様も、相手の方から褒めていただくと嬉しくありませんか?
「接客職、人を見たら10いいところを探せ!」とはよく言ったものです。
日本人はその文化の中で、人を褒めることはあまり得意ではないかもしれません。
しかし、『褒めるつもりで相手も見る』ことは、とても大切です。
接客においても、接客でないお仕事でも、私たちは様々な方に応対し、コミュニケーションを図ります。
例えば、自分よりずいぶん年上の役職のある方と接することになったとします。そこで、相手の方を「気難しそう、厳しそう」と思って見るのか、「とても立派な方で、有能、きちんとした方だわ。いろいろお話を伺うと勉強になりそう」と思って見るのかでは、その方へ向かう心の明るさ、積極性が全く変わります。
こちらが敬意をもって言動することにより、応対の節々にそれが現れます。
もちろんその方へのより良い応対になり、相手の方の満足も高まるのです。
また、「素敵なお帽子ですね」「上品なネクタイですね(とてもよくお似合いでいらっしゃいます)」等、お褒めすると会話も弾み、初対面の方でも、相手の方と心の距離が縮まります。より良い人間関係を築くスピードも速くなります。
もし、かかわる時間がとても短く、褒めるほどの時間がない場合は、敬語を正しく使い、丁寧な言葉と丁寧な所作で応対することでも、この欲求は満たされます。
敬語に苦手意識を持っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、敬語はとても便利です。わざわざ相手の方に「私はあなたを敬っています。尊敬しています。礼儀正しくしたいです」と言わなくても、言葉遣いだけで、相手に敬意を抱いていることが表現されるのです。また、言葉遣いを丁寧にすること、所作を丁寧にすることは、相手の方を丁寧に扱うことと同じです。もちろん、相手の方にもその気持ちは感じていただけるはずです。
潜在意識にはたらきかける
この「I LOVE&THANK YOU」されたい顧客心理ですが、お客様がこれらを意識的に(顕在意識の中で)持っているかというと、そうではありません。
通常は無意識に(潜在意識の中で)持っているものなのです。
そう、私たち人間の頭の中には、顕在意識と潜在意識があるのです。そして、この顕在意識と潜在意識の割合ですが、何パーセント対何パーセントだと思われますか?
正解は…なんと!
顕在意識2~3%、潜在意識97~98%だそうです。
顧客心理は潜在意識の中にあるため、これが満たされないと、なんとなく不満足であったり、なんとなく物足りなかったり、なんとなくそっけなさを感じてしまうのです。
逆にこの心理が満たされると、もちろん居心地の良さや、「なんだか感じが良い」「なんだか気持ちが良い」「なんだか楽しい」という満足につながるわけです。
そして、この心理は、マズローの欲求階層説(※1)の4段階目、「尊敬・承認欲求」に集約されます。
お客様のほとんどは、もちろん、社会に属し、購買力があるわけですので、すでに、欲求階層説の社会的欲求、「愛情・所属欲求」は満たされているわけです。ですので、その次のステージ「尊敬・承認欲求」のステージにいらっしゃる方がほとんどです。もともと人としてもこのステージにいて持っている欲求ですので、購買活動をする場合には、なおさらその欲求が強まるわけです。
お客様のこの欲求を、しっかりと満たしましょう!
(※1 ) アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー氏が提唱した説。「人は基本的に5つの欲求を持っていてその5つの欲求を段階的に持つ」というもの。まず初めに求める第一欲求は「生理的欲求」。食事をとりたい、睡眠をとりたい、という命を長らえさせるのに必要な欲求です。
それが満たされると、次に持つのが「安全、安定への欲求」です。これは何かに害されることなく安定的に食事、睡眠という生命の基本行動ができ、安全であること。そして、次に求めるのが「愛情・所属欲求」。「社会的欲求」とも言います。一人ではさみしいので家族を持ちたい、社会に属したいという欲求です。
そして次に求めるのが、「尊敬、承認欲求」です。その社会の中で、認められたい、尊敬されたいという欲求です。そこまで満たされると次には、5段階目「自己実現の欲求」が出てくるとされています。