前週末については、トランプ大統領がメキシコが不法移民対策を講じなければ、同国からの輸入品全てに制裁関税を課すと表明したことが重しとなり、ドル円は108円台前半まで下値を拡大しました。メキシコへの制裁関税については、6月10日に5%の税率を適用した後、段階的に引き上げて10月1日には最大25%とすることを表明しています。また、週末の動きとして6月1日に中国が米国の対中制裁関税拡大に対する報復として、600億ドル相当の米国製品に課している追加関税を最大25%に引き上げたこともあり、貿易戦争の鎮静化が見えない状況になっています。
実際に貿易戦争の激化が意識されており、NYダウは一時360ドル超下落、米10年債利回りも一時2.1246%前後と約1年半ぶりの水準になっています。今週末に米雇用統計が控えているため、本来であれば下値も限定的になりそうなところですが、貿易戦争の長期化がFRBの利下げ懸念を生んでおり、ドル安の方向にどうしても目が行きやすくなっています。
トランプ大統領は、中国からの輸入品の残り3,000億ドル相当に対しても輸入関税の引き上げを検討しています。これが実施に移されれば、実質的に中国からのほぼ全輸入品の関税が引き上げられることになるため、米中貿易戦争は全面対立ということになりそうです。また、中国は対抗策として、レアアースの輸出規制を検討しており、結果的には米中双方が傷つくことになり、最終的に中国が米国債の大量売却を行うという最悪のシナリオになる可能性も十分考えられます。
今後の見通し
米中貿易戦争ばかりに目が行きがちですが、欧州、英国、そして豪州についてもリスク回避となる材料が揃っています。ドイツ経済が悪化するなか、週末にはメルケル独首相の大連立政権を支えているドイツ社会民主党(SPD)のナーレス党首が党首を辞任する考えを表明しました。また、今週はECB理事会が予定されており、インフレ見通しが低下しており、ECBスタッフによる見通しも引き下げられる可能性が高そうです。
英国については、メイ英首相が6月7日(金)に辞任し、党首選は6月10日(月)からスタートします。これまで12名の議員が党首選に立候補する構えを見せていますが、ほとんどの候補者がハード・ブレグジット寄りの主張であり、「合意なき離脱」も致し方ないという考えの候補者も数多くおり、英国のEU離脱がより混迷を深める可能性は大いにありそうです。ただ、労働党は親EU派の支持者を引き留めておくために2度目の国民投票を公約しており、こちらも目が離せない状況です。
豪州については、明日4日に予定されている豪中銀(RBA)政策金利が注目されそうです。明日の利下げはほぼ織り込んでいるかと思われますが、焦点としては何度利下げが行われるかという点になりそうです。一部では0.75%まで引き下げるのではないかとも言われており、中国からのプラス材料は当面出てこない状況を考えると、想定よりも利下げバイアスがかかるかもしれません。更なる利下げが意識されるようであれば、マーケットは再度織り込む動きを見せ、豪ドル売りが主導しそうです。
明日のRBA政策金利発表が利食いのタイミングか
米中貿易戦争の激化に加え、トランプ政権が対メキシコでも厳しい関税方針を表明したため、リスク回避の動きが強まっています。連れ安となるかたちで、豪ドル円も下落しており、ショート戦略が機能しています。テクニカル的にも下値を拡大する方向に傾いており、76.30円での豪ドル円ショートは継続、利食いについては、75円割れを想定し、74.50円付近を利食い目途、損切りについては76.30円に引き上げます。
海外時間からの流れ
中国政府は6月2日に、米国との貿易戦争に関する中国側の立場をまとめた白書を発表しました。協力こそが両国にとって唯一の正しい選択だと話し合いによる解決を目指す基本姿勢を示す一方で、中国は重大な原則で決して譲らないと指摘しており、米国が制裁関税圧力を緩めない中国側も妥協しない方針を示しています。この睨み合いが継続するようであれば、ドル円は106.50円付近まで下落する可能性がありそうです。
(提供:FXプライムbyGMO)
FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。