前週末については、注目の米雇用統計にて、非農業部門雇用者数が7.5万人増と市場予想の17.5万人増から大きく下回り、平均時給についても、市場予想(前月比/前年比)+0.3%/+3.2%に対して+0.2%/+3.1%となり、内容的には散々たる結果になりました。米10年債利回りにおいても、一時2.0517%前後と2017年9月8日以来約1年9カ月ぶりの水準まで低下したこともあり、ドル円は一時107.884円まで下値を拡大しました。ただ、下値目途として考えられていた5日安値107.820円下抜けには至らず、その後は自律反発に近い形で108円台へ回帰しました。
週末のイベントとしては、ある程度予想はされていたものの、米国が対メキシコへの制裁関税を見送ったこともあり、ドル円を筆頭としたクロス円などはリスク選好の動きとなりました。ただ、各国の見解として、今回の一連の流れは、トランプ大統領の自作自演と報じられており、NYタイムズ紙やワシントンポスト紙も総じてトランプ大統領に否定的な論調を綴っています。また、大統領がツイートした農産物輸入の合意に、メキシコ側が「全く合意していない」と述べていることもあり、色々意見の食い違いも見られています。今回の対メキシコへの制裁関税は、民主党のみならず、共和党でさえも反対意見が多数だったこともあり、急遽修正合意に至ったという見方が正解かもしれません。
米国とメキシコの不安材料が一掃されたなかで、今後は香港でのデモが注目されます。中国本土への容疑者引き渡し要件を緩和する条例改正に抗議するデモが行われ、主催者発表によると100万人を超える人が参加し、1997年の中国返還以降で最大規模となった模様です。条例改正の審問は、6月12日に再開予定であり、アジア時間での重要イベントになりそうです。また、サウジアラビアのスワハ通信情報技術相が、次期通信規格の第5世代移動通信システムを含んだサウジの通信網から、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の製品を排除しない考えを明らかにしました。トランプ政権は安全保障上の脅威を理由にファーウェイへの禁輸措置を打ち出しましたが、中東最大の同盟国が同調しない姿勢を示しており、再び米中通商協議が注目されるかもしれません。
今後の見通し
G20財務相・中央銀行総裁会議が閉幕となり、注目されていた麻生財務相とムニューシン米財務長官との会談にて、日本の円安誘導を防ぐため米国が導入を目指している「為替条項」に関する議論はなかったと発表されました。日米通商協議を目前に控え、その中でも「為替条項」に対する議論が重要視されていたため、この報道により、過度な円高方向への意識は後退したと考えられそうです。ただ、米国とメキシコの合意により週初はリスク選好の動きが強まっていますが、合意事項では「不法移民の抑制効果が出ない場合は再度、協議を実施する」としているように、不確定要素がかなり含まれているため、完全に安心できる合意ではないようです。
本来であれば、7月のFOMCにて0.25%の利下げがあるかもしれないとの思惑がありましたが、米雇用統計の結果を受け、6月中の利下げも現実味を帯びてきています。今回の雇用統計は、天候不順によるものが大きいとの報道もあることから、ノイズ的な見方もできますが、トレンドの広範囲なスローダウン化は進行しています。関税引き上げの応酬は米国の労働市場にまだ影響を与えていないものの、数字として明白となる前に、FRBが保険的、予防的な利下げに向かう動きを見せても決しておかしくない状況になっています。米国とメキシコの問題が一段落したものの、まだまだドルの上値を抑える材料は多数控えています。
ドル円、一時的に109円までの動きがありそうだ
週末の米雇用統計の結果を受け、ユーロドル1.1260ドルのショートは、1.1320ドルで損切りです。一旦リスク選好の動きが強まりそうですが、潜在的なリスクオフの見解もあり、ドル円としては109円付近が戻り売り目途として意識されそうです。まずはドル円108.30円での買い、107.80円割れを損切りとし、109.20円付近での利食いを考えます。そして、利食いと共に、途転売りの戦略を想定しています。
海外時間からの流れ
米国の対メキシコへの制裁関税が無期限延期となったことで、エマージング通貨の買い戻しが強まっていますが、これまで比較的下値の底堅かったトルコリラの上値が重くなっています。考えられる理由としては、祝日明けのマーケットであり、売りが先行したということ、もう一点は、米国がトルコパイロットのF35訓練停止報道により、米国とトルコの関係悪化が懸念されている点です。本日の海外時間の動きが重要になってきており、イスタンブールの再選挙前に、トルコリラがどちらに向かうのか重要な局面を迎えています。
今日の予定
本日は、英・4月鉱工業生産/英・4月貿易収支、加・5月住宅着工件数、加・4月住宅建設許可、米・4月JOLT労働調査などの経済指標が予定されています。
(提供:FXプライムbyGMO)
FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。