前日については、週末に米国とメキシコが不法移民問題についてメキシコと合意に達し、メキシコに対する関税発動を無期限で延期する旨を公表したことが好感され、ドル円を筆頭としたクロス円は上値を拡大し、リスクオンのマーケットが主導しました。ドル円については、一時108.714円を示現するなど、貿易摩擦の激化が後退するとの期待感が強まったものだと思われます。ただ、NY時間に入り、トランプ大統領が「習・中国国家主席がG20サミットに参加しなければ、中国への追加関税は直ちに発動されるだろう」と発言し、米中貿易摩擦についてはまだまだ道半ばであることが示され、108.30円付近まで下押す場面が見られました。
ただ、この108.30円付近まで下押した場面では、「ニューヨーク市マンハッタンの高層ビルの屋上にヘリコプターが衝突」とのヘッドラインにより急速にドルが売られたことが要因だと考えられます。事故の原因は現時点で不明ではありますが、ニューヨーク州のクオモ知事は「テロではない」との見方を示したことにより、その後はじりじりと買い戻しの動きが強まっており、今後の焦点は米中貿易摩擦に絞られてきそうです。ペンス米副大統領が「米国は中国に関して強硬な態度を続ける」との発言をしているように、G20サミットまではプラス材料が出てくる気配がありませんが、大きくドルを売りにも新しい材料が枯渇しており、一旦は108円台でドル円は膠着する可能性が高そうです。
これまでの動きの特徴としては、米国金利の低下がドル売りを主導していましたが、ドル円が107.80円を下抜けなかったことを機会に金利低下に伴うドル売りの影響も限定的になってきています。昨日は、金利上昇に加え、NYダウの上昇も加味されましたが、ドル買いの影響も限定的になったことを踏まえると、通常の為替材料ではなく、それなりのサプライズがなければ、ドルの値動きは制限されそうです。G20まではドル円の動きでなく、クロス円、特にユーロ円、ポンド円がマーケットを牽引するのではないでしょうか。
今後の見通し
メイ首相は、先週金曜日に保守党党首の座を返上したものの、次期党首・首相が決定するまでは首相の座に残る予定です。党首選では、最低8名の推薦人が必要であり、第一ラウンドの投票で残るためには、最低17名の支持票が必要になります。第二ラウンドでは、最低33名の支持票を得なければならないこともあり、この時点である程度候補者が絞り込まれてきそうです。最後に候補者を2名に絞り、7月22日の週に全国およそ160,000人の保守党員が投票して党首を決定し、メイ首相の後継者が決まります。ボリス・ジョンソン氏が最も有力とされており、ジョンソン氏が首相になることになれば、ポンドは急落する可能性があり、注意が必要でしょう。他の有力候補としては、ゴーブ氏やハント氏が続きます。
ECBのデギンドス副総裁が「世界的に不確実性が高まっているが、ECBは引き続き警戒の手を緩めない。ECB理事会は景気を下押しするような衝撃が発生した場合には断固として行動を起こし、必要に応じて全ての政策ツールを調整する用意がある」と発言しているように、TLTRO第3弾が第2弾とほぼ変わらない内容になりそうなこともあり、ユーロに関しては一つの大きな問題以外は堅調に推移しそうです。その大きな問題であるイタリアの予算問題ですが、現状は表立ってはマイナス材料がでてはいませんが、EUからの課徴金の話も出ていることから、状況によっては再びユーロ急落に備える必要があるかもしれません。
昨日(6/10)の値動きを鑑み、利食い、損切り幅をタイトへ
金利と株価の動きがあっても、ドル円の値動きが限定的になっていることを鑑み、ドル円のロングポジションの利食い、損切り幅をタイトにします。108.30円のドル円ロング、利食いは108.90円、損切りは107.90円に設定します。ただ、108.90円での利食いに達するようであれば、本来の戦略である途転売りを考えています。
海外時間からの流れ
メキシコペソが大きく買い戻されている中で、米国がトルコパイロットのF35訓練停止報道により、米国とトルコの関係悪化が懸念されていることにより、トルコリラの上値が一旦抑えられていましたが、6月下旬に開催されるNATO会議で、トルコと米国の国防省高官がロシア製S400地対空ミサイルを巡り会談する可能性が報じられたことにより、再びトルコリラへの買い戻し基調が強まっており、引き続きリスクオンの地合いが継続するようであれば、トルコリラ円で19円台が見えてきそうです。
今日の予定
本日は、英・5月失業率、米・5月生産者物価指数(などの経済指標が予定されています。要人発言としては、ノボトニー・オーストリア中銀総裁、テンレイロ・MPC委員の講演が予定されています。
(提供:FXプライムbyGMO)
FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。