シンカー: 6月FOMCでは声明文から「辛抱強く」という文言が削除された。このキーワードが除かれ、同時に「今後の情報を注視する」と発表されたことは利下げを強く示唆している。また、FEDが市場の利下げ織り込みを修正する意図を見せなかったことも、利下げ期待を強めているようだ。一方、利下げが織り込まれた割には、ドル・円の動きは小さい。黒田日銀総裁は、「マーケットの予想をみますと、FRBが 7 月に金利を下げるという予想が 100%となっています。今の時点で全て織り込まれているととらえるかどうかですが、もしおっしゃるように織り込まれているとすれば、7月に何かあっても何も変わらないということになります。」と指摘している。問題は、実際に利下げが行われた後、マーケットの期待に変化が起こるのかである。悪い形は、利下げが行われたことで、FEDも景気・マーケットの状態がかなり悪いことを認めたと解釈され、利下げの長期間の継続と、それにともなうイールドカーブの更なるフラット化が起こることだ。その場合、円高圧力が急激に強くなるリスクがある。良い形は、利下げが行われたことで、緩和効果が景気・マーケットの状態を改善させると解釈され、利下げも短期間で終了が見込まれ、それにともないイールドカーブがスティープ化に転じることだ。その場合、円高圧力はいずれ円安圧力に転じていく可能性がある。2020年に米国の大統領選挙があり、景気・マーケット動向を良好に保つ必要があるという政策当局の考えがあれば、後者の良い形の可能性がまだ若干高いように思われる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●FOMC

6月の会合では、金融政策の現状維持が決定され、金利も据え置かれた(セントルイス連銀のブラード総裁は今回25BPの利下げを主張)。注目は、声明から「辛抱強いアプローチ」が削除された事で、市場では利下げを示唆していると捉えている。また、FEDが市場の利下げ織り込みを修正する意図を見せなかったことも、利下げ期待を強めているようだ。

声明: 声明から"はPATIENT: 辛抱強く"が削除され、"先行きの不確実性が増しており、成長持続へ適切な行動をとる"事が言明された。経済拡大のペースについて、以前は"SOLID: しっかり"としていたが、今回は"MODERATE: 緩やか"となった。また、設備投資も軟調な状態が続いている事が指摘された。また、市場のインフレ期待について、前回の声明では"ここ数ヶ月低水準が続いている"としていたが、今回"低下した"へと変更された。

SEP: ドットの中央値が示唆する2019年の政策は据え置きのままだった。ただ、利下げを示唆するメンバーが増加し、7人が50BP、1人が25BPの利下げを想定している(3月時点では利下げを想定するメンバーはいなかった)。8人は年内の政策金利の据え置きを予想している。2020年については、年末までに利下げを想定するメンバーは9人となった。中央値は20年末までに0.25%の利下げとなり、前回のSEPが示唆していた2020年に1回の利上げと比べて、金融政策が大きく緩和にシフトしてきている可能性を示している。2019年の経済成長予想は前回と同じ2.1%を維持したが、インフレ率は1.5%と前回の1.8%%から下方修正された。

グローバル・レポートの要約

●米国経済(6/21):6月FOMC…「辛抱強く」を削除、利下げを用意

6月FOMCでは声明文から「辛抱強く」という文言が削除された。このキーワードが除かれ、同時に「今後の情報を注視する」と発表されたことは利下げを強く示唆している。ただ時期や利下げ幅が問題となる。弊社は2019年中に2回の利下げがあるとみている。これは、6月経済見通しで示された(FOMC参加者の金利見通しを示す)ドットチャートとも整合する。

●欧州経済(6 /24):EU主要ポストに関するFAQ

6月20日と21日のEU首脳会議では、EU主要ポスト人事が焦点になる。本レポートでは、(EU主要ポストの)指名レースに関する主な疑問点を記した。各ポジションの選出プロセスは全く違うが、(欧州委員会、ECB、欧州理事会など)全ての指名が互いに関連している。今回(20、21日)のEU首脳会議で最終決定される可能性は大変低く、次週中か1週間後になる可能性が十分ある。さらに延期される可能性も否定できない。より重要なことに、EU要職レースは(参加する)門戸が広く開いている。弊社は、欧州委員長レースではミシェル・バルニエ氏とマグレーテ・ベステアー氏が先頭を行く、また次期ECB総裁ではイェンス・ワイトマン氏とエルッキ・リーカネン氏が有力候補だと考えている。とはいえ、1名か複数のダークホースが要職に就く展開も無いとは言えない。次期欧州委員長の選択は、EU統合が深化、後退のいずれに向かうかを左右するため、非常に重要な問題となる。とはいえ気候変動、移民、防衛統合も新委員長が最優先する事項になる。また弊社は、ECBの次期総裁がECBの反応関数を大きく変えることは無いとみている。だが市場は、コミュニケーション・スタイルの変化を求めるとみられる。

●ドイツ経済(5/20):CDUが野党となるのか

ドイツでは最近の経済、政治動向により、安定性に対する疑問が高まっている。製造業は一連の一時的なショックを受けた後に、貿易戦争の激化やブレグジットで見通しが悪化しており、不調期に入るとみられる。政治面では、CDU(ドイツキリスト教民主同盟)の次期党首候補がますます不透明となりつつある。それどころか、CDUが最大勢力を維持できるかどうかも不確実だ。大連立をすぐに解消する強い意向は無いとみられるが(今後の選挙が、必ずしもそれを後押しすることは無いため)、CDUとSPD(社会民主党)は共に、2021年総選挙をかなり前にして、気持ちを集中させることや世論調査が示す支持率低下に歯止めをかけることが重要となっている。夏が過ぎると3カ所で州選挙が控えているが、これが両党に対してさらに圧力をかける可能性もある。一方で緑の党は、世論調査では非常に高い支持率を得ているが、長期的に信頼性を試すことが必要になる。2021年のドイツ総選挙で最大勢力となった場合でも、SPDと、場合によっては左翼党の助けを借りて新政権成立を目指す可能性も否定はできない。このためCDUとアンネグレート・クランプ=カレンバウアー党首に、CDUの支持層安定化を求める圧力がかかっている。この意味でも、景気失速の兆しが出るならマイナス材料となる。

●債券市場(6/24): 言うは易く行うは難し

中央銀行が新たな金融緩和局面に乗り出そうとしている。インフレ懸念が乏しい中で、米連邦準備制度理事会(FRB)は緩和再開への扉を開放状態にしている。しかし、欧州中央銀行(ECB)は、物価の持続的な回復を下支えするどころか、まだ有効な緩和策を打ち出せるということを投資家に納得させるのも難しいと感じている。むしろ、口先で金融緩和を煽るほうが簡単だということに気付いている。インフレが期待できない以上、投資家が債券投資に突き進み、これまで以上にデュレーション・リスクを取りに行こうとするのは正しい。2019年下半期の外国債券市場見通し(参照)では、「流れに逆らうな」という表題を掲げて注意を促している。

●債券市場(6/10): ツイスト・アンド・シャウト

債券利回りが「日本化」していく次のステップは、欧州中央銀行(ECB)のフォワード・ガイダンスの延長を受けて世界のイールドカーブにねじれが生じる「ツイスト」であろう。フェデラルファンド(FF)金利先物は2019年の利下げをほぼ3回分織り込んでおり、マーケットは米連邦準備制度理事会(FRB)に強力なシグナルを送って対応を促している。債券市場は先行き不透明な貿易紛争による恩恵を受け、イールドカーブはフラット化の動きが主流になる見通しだ。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司