はじめに 

インターネットの普及以来、全世界的にデータ・トレーディングが爆発的に広がった。元来インターネットは軍事利用が主だったが、いまやあらゆるものがインターネットに接続されつつあり、膨大な量のデータが取引されている。インターネットがもたらすスピード化から人類は大きく裨益してきた。たとえばありとあらゆるデータファイルやメッセージ等が瞬時に移動でき、また誰でもインターネット経由で様々な公開情報へアクセス可能である。意思決定が円滑化し、企業などでは脱アナログ化を進めることで大幅な人件費削減と業務処理量拡大を実現した。

インターネットと全世界的なデータ・トレーディング
(画像= NicoElNino / Shutterstock.com)

初期のデータ通信は「イントラネット」として特定の組織内における接続がほとんどだったが、前述のとおり、インターネットが世界を繋ぐことを可能にしたことで、国際交流も格段に進歩した。「安く・早く・誰でも」インターネット経由でその利便性を享受できるようになった昨今、一方で様々な弊害もあることが指摘されている。特に問題となっているのがプライバシーや個人情報を巡る問題だ。たとえばインターネット大手であるアルファベット社のGoogleがそうした批判を受けたばかりである。のユーザーが日々検索する情報が蓄積され、それがビッグデータとして集積されていることや、Facebookによる情報収集問題など、インターネット経由での個人情報取得が“行き過ぎ”なのではないかと懸念されている。他方で、インターネット事業について、大手事業者による寡占マーケットである旨がしばしば批判されている。いわゆる「GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon」と呼ばれる4巨頭がその主体にあたる。彼らが「儲け過ぎ」なのではないか、あるいは「適切に課税すべきである」との意見が官民いずれからも指摘されており、各国政府や国際機関も対応に乗り出している。本稿では、自由や利便性が売りであったはずのデータ・トレーディングが規制される動きが強まりつつある中で、それがどのような未来を経るのかを考えてみたい。

インターネット事業に対する課税問題

まずデータ・トレーディングが現代経済に占めるその大きさを理解する必要がある。たとえば米国では2017年時点で「デジタル経済」がGDP(国内総生産)に占める割合が6.9%であった。そこには情報通信技術(ICT)、デジタル取引と電子商取引、さらにデジタル・コンテンツ及びメディアなどが含まれる。デジタル経済が同国において約510万人の雇用創出に貢献し、それが雇用全体の3.3%を占めるほどの一大産業に成長してきたという。雇用という観点ではデジタルにある程度慣れ親しんでいることが最低条件になりつつある。その普及度合いはスマートフォンを持たない人を見かける機会が珍しいほどである。

米国ではここ数年の急激なデジタル技術の発展が同国のビジネス・消費環境へ大きな影響をもたらしてきたのは言うまでもない。SNS、ネット通販などを通して消費者は気軽にインターネットへアクセスできる環境が整った。通販ビジネスの要である配送プロセスでは、注文者がパソコンないしスマートフォンで荷物の所在が即座に分かる。そのようなデジタル技術の発展が様々な経済活動をスピード化し、より一層のデータ・フローの拡大をもたらした。デジタル経済はもはや直接的・間接的にも無視できない規模にまで成長した。

しかしながら「はじめに」でも述べたとおり、デジタル経済の大規模化に伴いGAFAと呼ばれるインターネット事業主体の猛者たちによる同マーケットの寡占化が懸念され始めた。成長し続けるGAFAを規制する意図と、稼ぎ続ける彼らに対して適切に課税する意図の2点から、関係各国が税制構築に動いてきた。共通用語としてデジタルサービス課税(以下:DST)と呼ばれている。ここで問題になるのが「適切な課税方法とは何か」という点と、「課税主体は誰か」という点である。

実は両者ともに共通の事情を抱えている。それはデジタルサービスが越境して行われる経済活動である場合に生じるものだ。あるデータの取引が異なる2か国間で行われる場合、基本的にはインターネット事業主体の物理的な所在地が課税管轄権を持つといわれている。そうすることで納税主体(インターネット事業主体)がより税額の低い国での納税を試みることを防ぐ狙いがある。たとえばインターネット事業主体大手のGoogleはその検索エンジン上で広告スペースを販売することを1つのビジネス・スキームとしている。上記の論理で言えば仮にGoogleがフランスに物理的な支社を持たない場合、フランスは課税権を持てないことになる。上記の事情を受けて、最近では各国でGAFAのような大規模インターネット事業主体に対して、支社等がなくとも購買活動が行われた地域における課税管轄権を認めようとする動きが出つつある。この点について経済開発協力機構(OECD)はデータに付加価値が付与された地域での課税をする案が出している他、欧州連合(EU)では当該地域で一定額以上の取引がなされた場合や一定数以上のサービス利用者がいる場合に課税管轄権を認める案が検討されている。

各国及び国際機関によるデータ・トレーディング規制に関する取り組み

GAFAのようなインターネット事業主体への課税問題もさることながら、他方でインターネットユーザーのプライバシーを巡る問題も噴出している。例えばFacebookが個人情報を収集していたことが明るみになり、同社CEOが米議会の公聴会に召喚される事態も既に生じている。またGoogleの検索エンジンがユーザーの検索履歴を蓄積することでビッグデータ形成を目指していることはよく指摘されている。必ずしもビッグデータ収集に悪意があるわけではないものの、ユーザーの個人情報を巡ってはデータの流出問題が指摘されている。ユーザーからすれば、それぞれの私生活が覗き見されているようだと思えても不思議ではない。

他方で既出のFacebookについては国家による政治利用が懸念され、疑わしいアカウントの凍結や利用停止措置すら実施されている。たとえばインドでは同国の選挙前にFacebookが事前に選挙に悪影響を及ぼす疑いのあるアカウントを削除した旨“喧伝”している。

Facebook等のSNSが遠く離れた者同士がまるですぐそばにいるかの如く繋がることを可能にしたものの、一方で上述の様な問題を抱え、以前の爆発的な人気の拡大から一転して各国政府などによる引き締めが強まっているのが現状である。  インターネット事業主体を取り巻く問題の別の典型例としてはサイバーセキュリティに関するものがある。デジタル技術の発展に伴い、国内外におけるハッキング被害も多数報告されている。侵入先のシステムの攪乱や破壊、あるいはデータの搾取など、様々な目的でサイバー犯罪が何者かによって行われている。そのツールもパソコン機器に限らず、最近ではスマートフォン向けのゲーム・アプリを介してのサイバー攻撃の可能性も指摘されている。個人の場合もあれば国家的なサイバー攻撃も行われた事例もあり、たとえば米国が北朝鮮によるサイバー攻撃被害を被った旨“喧伝”してきたことは記憶に新しい。

以上のようにデータ・トレーディングが便利な反面、数多くの問題が抱えている。現状関係各国はその諸問題に対して共通ルールに基づく対策が取れていない場合もある。個々の国による対策や、2か国間での取り決めがなされているケースが多い。例えば米国・欧州連合(EU)間のプライバシー保護に関する取り決めがある。Facebookが使えないことでおなじみの中国でも独自のサイバーセキュリティ法を定めている。他には世界貿易機関(WTO)の下でデータ・トレーディングの目的物になる知的財産権対象物に関する国際条約が推進されている。このようにデータ・トレーディングについて、局所的には成長と抑制が一進一退で生じつつも、グローバルな規模では引き続き前進が見ることが出来る。

おわりに

データ・トレーディングの未来について予想できる展開として、3つの方向性が引き続き推進されていく可能性がある。すなわち(1)「IoT」の概念の下あらゆるモノをインターネットに接続する。(2)ブロックチェーン技術を駆使した双方間通信の推進(外部からの攻撃のリスクに対して強固である点がメリットである)。(3)AI(人工知能)とその基盤となるビッグデータ収集の推進。可能な限りの作業の自動化を実現することで最大限の効率化を図ると共に、人間の労力負担を減らす。

(1)と(3)に関してはデータ・トレーディングの利点を徹底的に最大化することが主目的である。他方でデジタル技術の発展に伴うリスクに対処すべく、(3)のブロックチェーン技術も発展していく蓋然性が高い。

特にブロックチェーン技術に関してはインターネットに代わる革命的技術の可能性すらある。ブロックチェーン技術の台頭を踏まえて、インターネットの発展と同時に反映してきたGoogleなどのインターネット事業主体がその役割を終える日が来る可能性も指摘されている。

仮にインターネット技術に対して、ブロックチェーン技術がその覇権に挑むべくより一層勃興してくる展開になった場合、GAFAのようなインターネット事業主体の猛者たちが対処を迫られることになる。インターネット技術に固執すれば、ブロックチェーン技術と競う形になる一方で、むしろインターネット事業主体大手がブロックチェーン技術を積極的に取り込みにかかる可能性もある。実際に、GAFAの一角を占めるFacebook社がブロックチェーン技術を用いた仮想通貨事業に乗り出す旨“喧伝”している。今後も同様に動きが拡がる可能性を注視していくべき展開である。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

岡田慎太郎(おかだ・しんたろう)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2015年東洋大学法学部企業法学科卒業。一般企業に勤務した後2017年から在ポーランド・ヴロツワフ経済大学留学。2018年6月より株式会社原田武夫国際戦略情報研究所セクレタリー&パブリックリレーションズ・ユニット所属。2019年4月より現職。