シンカー:失業率は2.5%を下回り、完全雇用の水準にあるという意見が多いようだ。完全雇用であれば、金融・財政政策は引き締めていくべきだという論理になる。しかし、現行の失業率の急低下が、女性や高齢者の労働参加率の急上昇にともなう供給側の要因であることは疑いの余地はない。需要やマネーの強い拡大で失業率が急低下したのでなければ、失業率の水準が即座に金融・財政政策の引き締めの必要性を示すことにはならないだろう。推計では、需要とマネーの拡大の力と整合的な失業率の推計値は3.8%であることが分かる。推計値が2%台となり景気が過熱した状態を示した1980年代後半との違いは明確である。まだ需要とマネーの拡大の力は弱く、現在は、景気の過熱をともなう完全雇用の状態ではないと考えられる。現在の失業率がこの推計値を大きく下回っていることは、労働参加率の急上昇にともなう供給側の動きが原因であり、物価が上がりにくい、または景気が過熱しにくい理由ともなっている。
5月の失業率は2.4%と、4月から変化はなく、3月の2.5%から低下した水準を維持した。
企業の人手不足感は深刻で、積極的な採用活動が続いている。
4・5月は10連休であったゴールデンウィーク前に、一時的に労働市場から退出した労働者が増え、失業率はテクニカルに低下したとみられる。、
6月以降は、労働市場に戻る労働者が増えるが、人手不足を背景に企業の採用活動も強く、就業者の増加で失業率は低水準を維持するだろう。
実際に、5月は求人数と求職者数がともに前月比増加している。
求職者数の増加が若干上回ることにより、5月の有効求人倍率は1.63倍と4月の1.64倍から低下したが、テクニカルなものだろう。
失業率は2.5%を下回り、完全雇用の水準にあるという意見が多いようだ。
完全雇用であれば、金融・財政政策は引き締めていくべきだという論理になる。
しかし、現行の失業率の急低下が、女性や高齢者の労働参加率の急上昇にともなう供給側の要因であることは疑いの余地はない。
需要やマネーの強い拡大で失業率が急低下したのでなければ、失業率の水準が即座に金融・財政政策の引き締めの必要性を示すことにはならないだろう。
失業率を、需要拡大の力の代理変数としての家計と企業の貯蓄率の合計とマネー拡大の力の代理変数としてのネットの国内資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計)で推計してみる(1982年からのデータ、日銀資金循環統計ベース)。
2014年までは推計結果はかなり良好で、失業率は家計と企業の貯蓄率の合計とネットの資金需要でうまく説明できていた。
失業率=2.69+0.18家計と企業の貯蓄率の合計(需要拡大の力)+0.14ネットの資金需要(マネー拡大の力)、R2= 0.79
直近のデータでは、需要とマネーの拡大の力と整合的な失業率の推計値は3.8%であることが分かる。
推計値が2%台となり景気が過熱した状態を示した1980年代後半との違いは明確である。
まだ需要とマネーの拡大の力は弱く、現在は、景気の過熱をともなう完全雇用の状態ではないと考えられる。
現在の失業率がこの推計値を大きく下回っていることは、労働参加率の急上昇にともなう供給側の動きが原因であり、物価が上がりにくい、または景気が過熱しにくい理由ともなっている。
デフレ完全脱却へ向けて、金融・財政政策は引き続き緩和状態であるべきだろう。
図)ネットの資金需要、家計と企業の貯蓄率の合計
図)失業率の推計
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司