ネガティブな感情を見逃すと致命傷にも
しかし、だからといって微表情を読んでもムダだということではありません。特に、ネガティブな感情の微表情に気がつくことは、ビジネスにおいても重要です。
あるコーヒーショップに行ったとき、レジ横にあるお菓子を指さして、「これ、甘いですか?」と聞くと、店員が申し訳なさそうに「甘いんです」と答えてくれたことがありました。そのとき、私はダイエットをしていたので、甘いものは避けたいと思っていました。ですから、無意識に、「嫌悪」の表情が出ていたのでしょう。「ずいぶん気が利く店だな」と、私は好印象を持ちました。
逆に、「嫌悪」の微表情に気づかなければ、相手の気を悪くさせてしまう可能性もあります。
例えば接待の席で、相手が料理に「嫌悪」の微表情を示したのに気がつかず、また同じ店での接待に誘ってしまったら、相手は良い印象を持たないでしょう。
商談でも、ネガティブな微表情に気がつくことが重要です。
金額を提示したとき、相手が「えっ!?」と言ったとしましょう。
そのとき、相手が写真2の表情をしたら、どう対応するべきでしょうか?
眉が上がって「驚き」の微表情が表れていますが、同時に、上唇が引き上げられ、ホウレイ線が釣鐘型になっており、「嫌悪」の微表情も表れています。
「嫌悪」は拒否を示しますから、こちらが提示した金額を拒否しているということです。ですから、
「ですが、こうすればお値段を下げることができます」
という話をするべきです。
「高いと思われるかもしれませんが、それには理由がありまして……」
と、商品の優れた点の説明を始めても、相手は興味を持たず、商談はうまくいかないでしょう。
商談相手の微表情によって次の言葉を変えよう
商談の場面で、相手の微表情によって、どう対応を変えるといいのか、もう少しお話ししましょう。
相手に商品100個を10万円で売りたいという提案をしたとします。
その商品は特別なケースに入れて運ぶため、ケース代と運送費が別途かかるのですが、そのことはまだ伝えていません。ケースは、1個100~300円の、いくつかの種類があります。
提案に対して相手が、目を見開き、下まぶたに力が込もって、眉が上がって中央に引き寄せられる、「恐怖」の微表情を示した場合は、10万円という金額が相手にとって高いということです。ですから、相手に安心してもらうために、
「ケース代が100円かかるのですが、運送費はサービスさせていただきます」
と伝えるのがいいでしょう。
一方、相手が「軽蔑」の微表情を示した場合は、自分が優位であると感じているわけですから、まだ余裕があります。それなら、
「ケース代300円と輸送費がかかります」
と伝えても、受けて入れてもらえる可能性が高いと判断できます。
人は、必ずしも感情を言葉にしません。隠そうとすることも多い。しかし、何かによって感情が動くということは、その人にとって、それが重要だということです。ですから、微表情から相手の感情をきちんと察知し、対応することが、ビジネスにおいても、それ以外のコミュニケーションにおいても、とても大切なのです。
清水建二(しみず・けんじ)
〔株〕空気を読むを科学する研究所代表取締役
1982年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でコミュニケーションを学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。現在、官公庁や企業で研修・コンサルティングを行なう一方で、ニュースやバラエティ番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、テレビドラマの微表情監修をしたりと、メディアでの実績も多数。著書に、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)がある。(『THE21オンライン』2019年5月号より)
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