◉東野圭吾風にミステリアスな、ある事件
またつい最近、Financial Timesの記事で大変シンガポールらしいと申しますか、面白い内容の記事がありました。
“Shane Todd”さんという米国人の方が、シンガポールで亡くなったという記事です。普段なら私は読み飛ばす記事なのですが、なぜFinancial Timesがこんな記事を載せるのかなという興味があり読み進めてみました。
感想は読んでびっくり、東野圭吾の小説並みに引き込まれるストーリーで、夜中だったこともあり思わず恐怖を感じてしまったほどです。
次の段落にて簡単にあらましを紹介させて頂きます。ただ徐々にですがWSJでも取り上げられはじめており、次の文章は私の記憶を基に書いていますので、原文を参照されることをお勧めします。
参考:
Death in Singapore - FT.com
◉不審な自殺とシンガポール警察の対応
元々Toddさんはシンガポールの政府機関に研究者として採用されていました。そしてそのプロジェクトの一環としてアメリカの会社に派遣されます。そこで彼が専門に扱える技術を習得してきました。
しかしながらそのプロジェクトというのが、中国のHuawei(=華為技術)が関わっており、更に彼の取得した技術は軍事転用も可能な国家機密に関わるものであったと言うのです。
(Huaweiは中国の大手通信企業です。CEOの任正非氏が中国の人民解放軍出身であることなどから、現在も軍との関わりが噂されています。サイバーセキュリティーへの関心の高まりから、その様な背景に対して色々と噂になることが多い企業です。)
彼は再三再四、アメリカの両親に対して自分のやっていることへの良心の呵責を訴えていました。また精神的にも優れなくなり、病院にも通うほどだったそうです。そしてようやく米国での次の仕事も見つかり、後1週間ほどで帰国できるという時に彼の両親に届いた連絡は、彼が自殺をしたというものでした。
(ちなみにToddさんが転職する予定だったオファーは、基本給でUSD10万ドルほどだったようです。きっと優秀な技術者だったのでしょう。)
両親はすぐに彼の部屋を訪れ、そしてどうみても警察が言っていた情報とは異なる点が多いことに気付いたとあります。
例えば首を吊るために開けたはずの穴が風呂場にはなく、警察は指紋すらとっていませんでした。またToddさんのPCは警察が返してくれなかったため、帰国した両親がUSBポートを専門の人に見て貰ったところ、彼が亡くなった後に誰かが2、3回ファイルアクセスしていた形跡があったそうです(ファイル名は確かHuaweiだったと思います)。
他にも写真を基に行われた検視では、自殺ではなく後ろから誰かに紐を引っ掛けられたのではないかとも言われています。
大分端折ってしまったのですが、以上が出来事のあらましです。
当然Huaweiはそのようなプロジェクトが存在したことすら否定し、シンガポールの政府機関も一切のコメントを出していませんでした。
しかし、Toddさんの母国アメリカはやはり凄く、この事件がすぐに政治家の目に留まり、ホワイトハウスにも話が持ち込まれました。今はシンガポール警察が、FBIに捜査協力を要請せざるを得ない状況にまでなっています。
◉シンガポールと言論の自由
実は私はこの文章をオンラインで読んだ瞬間、他の読者のように感想をメッセージボードに書こうとしてすぐに取り止めました。シンガポール国内で、シンガポールの通信会社のインフラを使って、何か変なことを書こうものなら危ないのではないかと思ったからです。
シンガポールに、いわゆる言論の自由はありません。
次の日、感想が気になりオフィスで同僚にもこの話題についての感想を聞いてみました。この事件は、現地の新聞でも取り上げざる得ないほどの状況になっていたのです。
ちなみに結果は、「何を驚いているの、良くあるとは言えないけどそんなに騒ぐほどじゃないよ」といった返事が多かったです。
言論の自由の尊さは、日本ではあまり感じることは無いかもしれません。
しかし、このような事柄に触れますと、アフリカにおいてなぜ一斉にFacebookやツイッターを介して反政府デモに火が付いたのか、またなぜ中国政府は、あれほどまでに言論の規制をするのかという理由が良く分かる気がします。
シンガポールでは、非常に高いレベルの経済的な成功がこのようなやや抑圧的な社会の側面を抑えることに成功していました。今までは国民の不満が現出する可能性は、ほぼ皆無であったと言えるかもしれません。
しかしながら、最近の政府のポピュリズム的な政策を見るにつけ、曲がり角にきているのではないかという思いを強くしております。
BY N.S
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