人材の確保を行うにあたり、定年雇用の延長について検討中の企業も数多く存在することでしょう。定年雇用の延長を行うにあたり、まず考えるべき大きな課題が2つあります。1つ目は処遇の問題、もう1つは組織の問題です。シニアに対して賃金やモチベーションなどをどう維持してゆけば良いのかは今後の経営戦略にも大事な問題です。
本稿では定年雇用を延長するにあたり、どう問題を洗い出し、対策してゆけば良いかについて説明します。
定年雇用の延長は早めに手を打ちたい必須事項
将来的な人手不足に備え、政府は定年雇用の延長を繰り返し謳っています。今後、定年年齢が70歳、ややもすると75歳まで引き上げが義務化されることすら考えられます。このような時代に差し掛かり、シニア層の確保を考慮している企業も数多いのではないでしょうか。定年雇用の延長は今日明日に決定する必要はありませんが、早めに手を打っておきたい懸案事項の一つです。
その理由は慢性的な人手不足が今後ますます加速するおそれがあることに加え、いざ制度化された際、定年雇用の延長についてどのように評価すれば良いかわからずに戸惑ってしまうおそれもあるためです。
もし定年制の廃止を求められたら?
たとえば、中小企業経営者の中で「うちはアットホームだから」と構えている方もいるかもしれません。しかし、都道府県労働局はすでに定年年齢の引き上げについて次の3つのいずれかを必ず導入するよう、義務として求めています。
1.65歳までの定年年齢の引き上げ
2.希望者全員を対象とする、65歳までの継続雇用制度の導入
3.定年制の廃止
そして、従業員の多くが「定年制の廃止」を人事や経営者に求める可能性は十二分にあり得ます。もしそのような事態が訪れた場合、経営者側は彼らの雇用形態について考え込んでしまうことでしょう。では、実際にどのような課題が生じるのでしょうか。
定年雇用の延長を行う際、対処すべき課題が生じる
では、定年雇用の延長を考慮するにあたり、どのように制度を変化させれば良いのでしょうか。これは一筋縄ではいかない問題であり、後の事業戦略を占う結果にもつながりかねません。このアプローチとなる切り口は2つあります。1つ目は「処遇の問題」であり、そしてもう1つは「組織の問題」です。
・処遇の問題
定年雇用の延長を行う際、まず生じるものが処遇の問題です。最も簡単なものは定年年齢を70歳、75歳まで引き上げることですが、義務化されない場合、社員が必ずしもそれに同意するとは限りません。逆に定年制度を廃止した場合、退職金でもめたり、人件費が高騰したりするおそれもあるでしょう。現在、企業の中には定年退職後、再雇用をする企業は数多くあります。
しかし、それらの中には定年前と業務内容が変わらないにも関わらず、給与が著しく下がった結果、やる気を喪失してしまうという課題が生じているところも少なくないのが実情です。場合によっては賃金を引き下げつつ、定年前と同じ引き続き従事させた場合、働き方改革で銘打っている「同一労働同一賃金」の問題に抵触し、大きな波紋を呼ぶリスクも生じます。
・組織の問題
もう一つは組織の問題です。再雇用を行った場合、これまで上役だった人や先輩だった人が再雇用に見合った位置づけへと転換されます。その場合、年下が上司となる可能性もあり得るでしょう。日本は長年の文化風土から年上が偉いという風潮もありますし、自分が先輩や上役だったことも一役買って、年下の人に横柄な態度を取ったり、指示を聞かなかったりするおそれも出てきます。
このような事態に陥ると組織が乱れ、新卒などの離職率が上がることにもなりかねません。
シニア層の活用に向けて
上述のように定年雇用の延長にはいくつかの課題が生じます。それに対しては以下のような対策を考える必要があります。
・モチベーションの維持
定年後の再雇用もしくは延長にあたって生じる問題の一つは「やる気の喪失」です。再雇用として賃金を引き下げたにも関わらず、同じ業務に従事させれば当事者は当然やる気を失います。これは賃金と業務がマッチングしていないとも言えます。一方で、同じ業務に従事させるため、賃金はそのまま、単純に定年年齢を引き上げると、この場合には当事者に身体的・精神的に大きな負荷がかかりかねません。
身体が疲弊しているにも関わらず、遅くまで残業が続いたり、たくさんの取引先や人の面倒をみたりすることは齢を重ねるごとに辛くなっていくことでしょう。また、定年前から主体性が低い、いわゆる「ぶら下がり社員」のような人を義務だからと雇い続けると、業務効率や組織運営にも問題が生じかねません。
このような事態を避けるためには定年退職前から雇用制度についてしっかりと対応策を講じることが必要です。たとえば定年後に対してどのようにありたいのかを事前に社員と面談し、起こり得るリスクや問題点などについても話し合ったり、また定年雇用後における適切な評価制度を設けたりすることなどが有効になります。
・役割の明確化とリカレント
定年というものは一つの節目になります。このため、定年を経た後に賃金は落ちても相応の業務に従事させた場合、それを受け入れてくれる人も少なくはないでしょう。一方でその線引きを明確にしていないと、先輩だからということで若手社員や年上上司に対して問題を引き起こすリスクも生じます。このような問題の対策として、定年後の再雇用もしくは一定年齢に差し掛かった後、研修などを通じて自分の年齢や立場、役割などを明確に学ばせることが大切です。
また、これまでとは異なる業務従事させたり、さらなるステップアップを促したりするためのリカレント教育(学び直し)も有効です。リカレント教育は定年後の社員としても新鮮な気持ちで業務に従事し、さらに自分の役割や業務が社会に受け入れられるものであることが認識できるためです。
定年雇用の延長は必須事項
政府の取り組みを含め、今後、定年雇用の延長対策は必須事項になると言えます。まだこの問題は真剣に向き合うことで、これからの事業成長に大きな開きを及ぼす大切な事柄であると言えます。定年雇用の延長で評価制度を設けたり、事前の対策を講じたりするにあたり、第三者の冷静な視点は不可欠です。自社の社風や風土を大切にしつつも、より良い人事評価を設けたい場合、専門家の意見を取り入れてみることはさらなる事業の発展につながるものと言えます。(提供:みらい経営者 ONLINE)
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