複数の道路に面した広い土地は、使い勝手がよいですが相続税評価額は高くなりがちです。例えば「角地」というだけで1割ほど加算されることもあります。その差は比率としてわずかですが場合によっては、数百万円にのぼることもあるでしょう。この多額の税金は、分筆登記によって抑えることができるのでしょうか。
目次
1.分筆登記の方法
分筆登記をする際には、土地家屋調査士に依頼することが必要です。登記の際には、不動産登記法により正確な測量の結果をもとにした測量図の提出が義務づけられています。しかし正確な測量を素人が行うのは非常に困難です。そのため安心して任せるには土地家屋調査士もしくは測量士へ依頼するのが一般的となっています。
さらに土地家屋調査士に依頼すると表示に関する登記まで一貫して代行してもらうことが可能です。依頼開始から登記完了までの期間は最低でも1ヵ月以上、費用は30万~50万円程度を考えておきましょう。期間や費用は、土地の形状や場所、隣地との境界が確定しているかなどの条件によって大きく変わります。
生前贈与や売却を考えておらずそのまま相続させたい場合は、相続登記の際に分筆も合わせて行うことも可能です。その場合、遺言書にそれぞれの分筆割合を記載しておくとよいでしょう。分筆する内容については、あらかじめ土地家屋調査士に相談しておくとスムーズです。また付き合いのある不動産会社があれば対応してもらえる可能性もあります。
相続が発生したことを知ってから相続税の申告納税までの猶予は10ヵ月間です。長いようですが財産調査や相続人調査、遺産分割協議などをしていると、あっという間に過ぎてしまいます。なるべくスムーズに手続きが進められるように配慮しておくことも、相続人に対する思いやりではないでしょうか。
1-1.分筆登記とは、分割との違い
分筆の「筆」とは、登記における土地の単位のことです。土地の面積に限らず一筆の土地ごとに一つの登記簿が存在します。分筆とは、一つの土地として登記された土地を分けそれぞれを独立した土地として登記しなおすことです。土地を分ける方法には「分割」というものもあります。分筆と分割の違いは「登記簿上にどのように登録されるか」です。
分筆の場合は、分けた後それぞれの登記が行われますが分割の場合は登記の内容は変わりません。分割とは「土地の数は変えずに分けて利用する」ことを指します。一つの土地として登記されている土地に複数の建物を建てて利用する際などに使われる方法です。
1-2.分筆登記を行うシーンの手続きの流れ
分筆登記を行うにあたっては、まず土地家屋調査士に依頼し土地の境界を厳密に定めることが必要です。境界について関係者の合意が取れた後、分筆登記の手続きを進めます。土地顔調査士に依頼してから分筆登記を行うまでの一般的な手続きの流れは、以下の通りです。
- 土地家屋調査士に依頼する
- 法務局や役所で「登記事項証明書」「公図」「地積測量図」「確定測量図」など土地の資料を調査する
- 現地で予備調査を行う
- 現地で役所や隣接する土地の所有者の立会いのもと境界を確認し、関係者の合意を得る。その際に境界標を設置する
- 確定した境界の測量を行う
- 分筆した土地の図面や登記申請のための書類を作成する
- 分筆登記を申請する
分筆登記を行う際は、その土地を管轄する法務局(地方法務局、支局、出張所など)に登記申請します。その際に必要となる主な書類は、以下の通りとおりです。
- 申請書
- 筆界確認書(境界確認書・境界の同意書・境界の協定書)
- 地積測量図
- 現地案内図
※代理申請の場合は委任状も必要です。
分筆登記にかかる期間は、境界確定測量が済んでいるかどうかで大きく変わります。境界確定測量が済んでいる場合は半月~1ヵ月が目安です。しかし済んでいない場合は、1~4ヵ月程度かかります。
1-3.分筆登記の費用
分筆登記の際は、以下のような費用がかかります。
- 測量費:10万円~(土地の面積によっては高額になることもあります)
- 「筆界確認書」作成費:10万円~
- 「官民境界確定図」作成費:10万円~
- 「境界標」設置費:10万円~
- 登記申請費用:5万円~
- 登録免許税:分筆後の土地1筆ごとに1,000円
分筆登記の際の費用も境界確定測量が済んでいるかどうかで大きく変わります。境界確定測量が済んでいる場合は25万~50万円程度ですが、済んでいない場合は50万~150万円程度かかるでしょう。
2.分筆登記のメリット・デメリット
土地の分筆を行うことによって得られるメリットもあればデメリット・注意点もあります。
2-1.3つのメリット
1. 分筆することで異なる地目で使用できる
地目は、登記簿の表題部に記載されています。地目は、現況と利用状況によって決められ「宅地」「山林」「畑」など全部で23種類です。しかし地目の通りに使用しなければならない決まりがあります。そのため現在宅地として登記されている土地を「宅地」と「畑」に分筆することで土地の一部を畑として使用できるようになります。
2. 相続の際のトラブルを避けることができる
土地や建物など不動産の相続で現金のように分割が難しい資産の場合は、相続人全員の共同名義とするケースもあります。しかし相続後不動産の手続きをする際は、共同名義人全員の合意(署名と実印押印)が必要となり使い勝手が悪くなったり、トラブルが発生したりすることも少なくありません。
例えば土地を分筆しておくことで、それぞれの土地を相続人一人ひとりの単独名義にすることができます。
3. 相続税評価額を下げることができる
相続時に土地の評価額は、面している道路や間口、形状などを考慮して決定されるのが特徴です。分筆を行うことで間口や形状などを変えることができるため、相続税評価額が下がる可能性があります。
2-2.3つのデメリット
1. 土地の使い勝手が悪くなる
土地を分けることになるため、一筆ごろの面積は当然小さくなります。分筆に伴い使い勝手が悪くなりイメージ通りの建物が建てられなかったりリフォームがしにくくなったり可能性がある点には、注意が必要です。
2. 建物を建てられなくなる可能性がある
通常、間口が2メートル未満で道路に接する土地では、原則建築確認を受けられません。そのため分筆後の土地がそのような状態になれば建物を建てることができなくなります。
3. 分筆には費用と時間がかかる
前述の通り分筆行う際は、土地家屋調査士による調査を経て登記を行うことが必要です。最低でも半月から1ヵ月程度の時間がかかり、費用もかなりの額になります。
3.土地の一部を売却するために必要
デメリットを踏まえても、分筆が必要になることがあります。例えば土地の一部の使用目的を変更したり土地の一部を売却したりする場合には分筆が必要です。分筆を行うことで分けた土地の権利がすべて買主に渡ることから後々のトラブルを防ぐためにも有効な方法といえます。
4.相続で土地を分筆する理由
相続の際にも分筆が有効となるケースがあります。相続人が複数人いる場合、共有名義よりも分割してそれぞれの単独名義にしたほうがメリットとなるケースもあるのです。例えば相続人のうちの一人が自分名義の土地に住宅ローンを組んで建物を建てた場合、抵当権はその人の持分のみに設定されるため、他の相続人に迷惑がかかることはありません。
またメリットの部分で述べた通り分筆によって土地の相続税評価額が下がることがあるため、節税目的で分筆が行われることもあります。
5.相続税は接する道路が多いと高くなる
土地を相続をする際の相続税の計算には、一般的に路線価が用いられます。評価額の計算式は、ローン審査や売却時の査定にも使われるので、知っている人も多いはずです。
【路線価方式の場合】
- 土地面積(平方メートル)×正面路線価×奥行価格補正率=土地の相続税評価額
念のため説明すると正面路線価は、1平方メートルあたりの価格で表される土地の単価です。国税庁が設定しており年に1回改訂されます。路線価は、すべての地域に設定されているわけではありません。倍率方式を採用している地域の場合、本稿の内容は当てはまらないので注意しましょう。
上記の相続税評価額に、ほかの財産や基礎控除ほか各種控除などを加算・減算し、相続税率をかけると、全体の相続税額が分かります。ただしこの計算式は、簡略化したものです。正確に計算するためには、土地の形状や接道状況を加味する必要があります。土地の形状が影響するものとしてよく知られているのは、旗竿地(はたざおち)です。
間口が狭い通路の先に比較的広いスペースがある、「旗」のような形の土地のことをいいます。土地の利用や土地からの景観に制限が加えられるため、低く評価されるのです。反対に間口が広かったり正方形に近い整形地であったりする場合、相続税路線価は高く評価されます。特に影響が大きいのは、複数の道路に面しているときで上記の計算式に一定の割合で加算しなければなりません。
加算率は、地区(路線価とともに国税庁が定めます)によって異なります。住宅地の場合、隣り合う2辺が道路である側方路線(いわゆる角地)の場合は、上記の計算式に3%を加えます。向かい合う2辺が道路に面している二方路線の場合、加算される率は2%です。商業地では、加算率が最大10%となることもあります。
これらの加算率は、国税庁の側方路線影響加算率表に載っています。興味がある人はご覧ください。
6.分筆登記で相続税が少なくなるパターン
分筆登記で相続税が軽減される主なパターンは、路線価の違う2本の道路に挟まれた二方路線の土地です。例えば以下のような条件だったとしましょう。
- 住宅地
- ほぼ正方形の土地で広さは300平方メートル
- 向かい合う2辺がそれぞれ道路に接している二方路線
- 一方の路線価が20万円、もう一方が10万円
このまま相続税評価額を計算すると次のようになります。
- 20万円×300平方メートル×102%(二方路線による加算)=6,120万円
これを半分で区切ると、以下のように変わります。
1 20万円×150平方メートル=3,000万円
2 10万円×150平方メートル=1,500万円
1 +②=4,500万円
区切られた一方の土地は、路線価10万円で評価され二方路線による影響もありません。分かりやすくするために二方路線の例を挙げましたが別のパターンもあります。間口の広い土地で途中から路線価が変わる場合、その境目で区切ることで相続税額が下がることがあるのです。区切るといってもつい立てをしたりロープを張ったり見た目を変えるだけでは認められません。
国税庁などの第三者に土地を分けたことを証明するためにも法務局で分筆登記を行うことが必要です。
7.分筆登記による相続対策は早めにプロへ相談しよう
分筆登記とは、一筆で登記されている土地を複数に分けることを指します。分筆により相続税を下げられるのは、複数の異なる路線価の道路に接している土地の場合です。節税目的にする分筆するのであれば測量と登記に30万円以上の費用がかかることも考慮する必要があります。測量会社や付き合いのある不動産会社に相談しておくとよいでしょう。
分筆登記に関するよくある質問
Q. 分割との違いは?
分筆とは、一筆の土地として登記された土地を分け、それぞれを独立した土地として登記しなおすことをいいます。分割とは、一筆の土地として登記されている土地に複数の建物を建てて利用する際などに使われる方法です。分割は登記を行いません。
Q.分筆登記の費用は?
分筆登記の際の費用は、境界確定測量が済んでいるかどうかで大きく変わります。境界確定測量が済んでいる場合は25万~50万円程度が目安です。しかし済んでいない場合は、50万~150万円程度かかる可能性があります。
Q. 分筆登記で相続税が少なくなるパターンは?
分筆登記で相続税が軽減される主なパターンは、路線価の違う2本の道路に挟まれた二方路線の土地です。
(提供:YANUSY)
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