「居心地のいい会社」にいる人は要注意!
また、企業内で行なわれる業務だけでなく、企業自体にも、大きな変化の波が押し寄せています。
新聞紙面には、連日、企業買収の記事が載っています。大企業が一部の事業を切り出し、ファンドから資本を入れて独立させる、「カーブアウト」も増えています。ソニーがパソコン事業の「VAIO」を手放したのは、カーブアウトの代表例です。
その部門にいる社員は、大企業に入社したつもりが、ある日突然ベンチャー企業の社員になり、さらには人員削減の対象にもされかねない立場になります。大企業に属することが、まったく安心材料にならない時代になったのです。
特に注意を促したいのは、「居心地の良い組織」に身を置く人たちです。
私はかつて、日本興業銀行(興銀)に属していました。日本長期信用銀行(長銀)や日本債券信用銀行(日債銀)と同じく「長期信用銀行法」で守られ、都市銀行のようにあくせく預金集めをする必要がなかった銀行です。そのため、居心地の良い「ぬるま湯」と化していました。競合を意識することも少なく、挑戦する姿勢も薄れがちになっていたのです。
私は45歳でこの環境から飛び出し、外資系投資銀行に移りましたが、その後、長銀も日債銀も破綻し、興銀も第一勧業銀行、富士銀行との経営統合を余儀なくされました。大転換の中で苦労した元同僚は数知れずいます。
属する組織が安泰だとか、居心地が良いと感じるなら、逆に危機感を覚えたほうがいいでしょう。それは、とりもなおさず、「会社がなくなったとき」への備えが足りていない兆候なのです。
誰にとっても必須の三つのスキルとは?
このような状況の中で、ビジネスパーソンが早急に獲得するべきは、社外で通用するスキルです。会社がなくなっても、AIが台頭しても、仕事がなくならないようにするために役立つスキルを、私は三つ挙げたいと思います。
一つ目は、英語です。
キャリアの選択肢を広げるうえで、世界共通の言語を身につけることは必須です。海外に出る場合はもちろん、国内に留まるにしても、海外市場を必ず相手にすることになります。
加えて、英語を学べば、得られる情報量が格段に増えます。英語でインターネットを検索すれば、世界中の最新の情報にアクセスできます。
二つ目は、プログラミング。これができるようになれば、AIに「使われる側」ではなく、AIを「使う側」に回れます。
楽天では新入社員にプログラミングの研修を受けさせており、これを全社員に拡大するのではないかという見方もあります。IT業界でビジネスをする以上、知っておかなければならないという考えによるようですが、プログラミングの知識は、IT業界に限らず、すべてのビジネスパーソンに欠かせないと思います。
例えば、どの業界でも、商品管理やオペレーションなどを最適化するためには、コンピュータによる計算が必要です。
実際に計算をするのはコンピュータですが、コンピュータがどういう仕組みで計算をしているのかを理解することで、コンピュータを使えば具体的に何ができるのかがわかるようになります。
最後に、ファイナンスの知識。
私が外資系投資銀行に移ってからも仕事ができたのは、興銀時代に「キャッシュフローを引く」技術を身につけていたからですが、金融業界にいなくても、ファイナンスの知識は不可欠です。
自分が仕事をしている活動資金は誰が出していて、どれだけのリスクを取る代わりに、どれだけのリターンを期待しているのか。自分が出している成果や得ている給与は、その期待に対して妥当なのかどうか。
ファイナンスの知識があれば、こうしたことが理解でき、「働く目的」を見誤ることがありません。
これを見誤ったために起こったのが、平成の始めに崩壊したバブル景気でした。
当時の日本の経営者たちは、会社のお金は株主のお金だということを理解していませんでした。そして、働く目的を忘れて、事業ではなく、リスクの高い財テクにお金を回していました。
高いリスクを取るなら、それに見合ったリターンを株主に対して還元すべきなのに、それもせず、ただ会社の見かけ上の利益を膨らませていたのです。
株価は本来、今後得られるキャッシュフローの現在価値を反映させたものであって、その何倍もの値がつくのは異常です。ファイナンスの知識があれば、当然、暴落も予測できたはずです。