誰でも一度は経験する相続手続きですが、細かいところで勘違いしている部分は、意外と多いものです。ここでは、相続手続きの中で勘違いしやすい4つの項目を詳しくご説明します。
相続手続きの勘違い1:遺言書は絶対的である
相続人で相続財産を分配する際は、まず民法で規定されている「法定相続分」で分けます。
しかし、被相続人が遺言書を書いていた場合には、法定相続分よりも遺言書が優先されます。これは、「被相続人の遺志である遺言書を相続人は尊重するべき」との考えからです。
ただし、遺言書の内容が、もし相続人の遺留分を侵していた場合には、少し事情が違ってきます。遺留分とは、一定の割合を相続人に保障したものです。
例えば、相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者の法定相続分は2分の1です。しかし、遺言書で、「財産をすべて長男に相続させる」と書かれていた場合には、配偶者はまったく遺産を引き継がないことになります。
民法では、上記のケースの場合、配偶者は法定相続分の半分、つまり4分の1は受け取ることができるとしています。これが遺留分です。
遺言書で、この遺留分を侵すような内容が書かれていれば、該当する相続人は遺留分を主張することができるのです。
相続手続きの勘違い2:相続放棄は3ヵ月以内
父親が亡くなり、借金が次々と出てきたという話は、よく聞く話です。
相続人は、財産はもちろん、借金も引き継ぐことになります。何も手続きをしなければ、父親の代わりに借金を返済しなければなりません。
そこでほとんどの相続人が、「相続放棄」を選択します。
この相続放棄について、多くの人が勘違いしていることがあります。
それは、相続放棄できる期間です。3ヵ月以内と多くの人が認識されているようですが、正確ではありません。
正しくは、「自分が相続人であることを知ってから、3ヵ月以内」です。また、相続放棄の期間「3ヵ月」は、絶対的ではありません。
被相続人の財産、借金が3ヵ月という期間で把握できないことがあるかもしれません。そのような状態で、相続か放棄かの選択を迫るのは酷な話です。
そこで、その場合には、期間の延長を家庭裁判所に申し出ることができます。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続の承認(放棄)の期間伸長の申立書」を提出します。ただし、この手続きは、自分が相続人であることを知ってから3ヵ月以内が期限です。
相続手続きの勘違い3:兄弟姉妹の相続分は平等である
例えば、相続人に配偶者と3人の子どもがいる場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子どもも2分の1になります。さらに、子どもたちはこの2分の1を等分し、それぞれ6分の1ずつを相続します。
兄弟姉妹の相続分は平等ですが、これは特別受益や寄与分がない場合です。
特別受益とは、被相続人から生前、あるいは遺言で財産をもらったり、結婚、養子縁組のために生計の資本として贈与を受けたりすることをいいます。
他の相続人よりも多く財産をもらっている兄弟姉妹は、相続の際にそのことを考慮して、相続財産を分配することになります。
寄与分とは、生前の被相続人に対して、財産の維持や増加に貢献することです。
例えば、相続人の誰かが、長い間家で介護・看病を行い、入院費などの出費を抑えた場合、相続の際にその人の相続分を増やすことなどです。
このように、兄弟姉妹の中で、特別受益を受けた人、被相続人の財産維持、増加に寄与した人がいた場合、平等に分配されることはほとんどありません。
相続手続きの勘違い4:相続人がいないと国庫に入る
相続人が誰もいなければ遺産は国のものになるのでは?と、多くの人が思うはずです。これも間違いではありませんが、正確ではありません。相続人がいない財産は、次のような流れで処理されます。
法定相続人がいないことが判明したら、相続財産は家庭裁判所が選任した「相続財産管理人」が管理することになります。
相続財産管理人は、まず被相続人に債権者がいないかを調べます。もしいれば、その債権者への弁済が最優先されます。
被相続人が生前にお金を借りていて返済していない場合はもちろん、電気代などの公共料金の未払いがあった場合も、優先的に相続財産から返済、支払いがされます。
しかし、これは思った以上に煩雑な作業なのです。
公共料金は、請求書が送られてきますから、把握しやすいと思いがちですが、最近はインターネットで請求書が送られてくる場合もあり、十分に調査する必要があります。
また、個人からの借金は、契約書がないことも考えられます。そのため、調査が困難である可能性があります。
すべての借金と支払いが終わり、残った財産があれば、被相続人のお世話をしていた「特別縁故者」に残りの全部、または一部を渡すことになります。
それでも、まだ相続財産が残っていれば、国の財産、つまり国庫に入るのです。
相続手続きは、法律にのっとって行われますが、そこには原理原則とともに、一部の例外も規定されています。もし相続手続きでわからないことがあったら、早めに専門家に相談しましょう。
文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)/fuelle
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