「米国」という脅威に対面する欧州

前週より、欧州の現状について考えているが、英仏勢らがロシアへ接近してきたことを述べてきた。これに対して諸国との対立を先鋭化させているのが「米国」である。本稿は前回に引き続き、将来の欧州の展開可能性を模索する。

ユーロ,高騰,可能性
(画像=maradon 333/Shutterstock.com)

ドイツが米国と激しく対立してきたことは過去の拙稿で何度も引用してきたとおりで、たとえば「ノルド・ストリーム2」敷設を巡り、米国が激しく反対してきた。そうした中で先月31日(米東部時間)に米連邦議会上院議会の外交委員会が新たな法案(“Legislation, S. 1441, Protecting Europe's Energy Security Act of 2019”)を可決したのである。この法案は「ノルド・ストリーム2」敷設または「テュルク・ストリーム(TurkStream)」(註:黒海を経由してロシアからトルコへ天然ガスを輸送するパイプライン)敷設に関わる企業に対する制裁を可能とするものである。また米国が諸国に参加を要求してきたイラン問題に関する「有志連合」についてマース独外務大臣が参画を拒否したのだ。

(図表1 ガス・パイプライン「ノルド・ストリーム2」敷設計画)

ガス・パイプライン「ノルド・ストリーム2」敷設計画
(出典:Deutsche Welle

こうした最中で、トランプ米大統領は今月末(8月31日から9月2日)にポーランドを訪問することを明らかにしている。ポーランドはその地理的位置合いから対露、対独上、重要な意義をもつ国家である。そこに米国が接近する以上、米国の両国に対する強硬姿勢はより先鋭化すると考える方が妥当である。

ドイツが米国と鋭く対立している中で、いわゆるGAFAが適用対象となるデジタル課税とフランス・ワインに対する米当局による課税を巡り、米仏対立も“演出”されているのである。更には拙稿でかつて触れたとおり、アイルランドを巡って米英は対立し得るのだが、早速トランプ米政権側からジョンソン新政権へとアイルランド問題次第では貿易協定の議論を取り止める旨、公言しているのだ。

このように振り返ると、米国は欧州に対する脅威として欧州各国と“角逐”を“演出”しているのであり、対中関税措置やドイツへの制裁法案のように、欧州への経済制裁が生じる可能性を1つは注意すべきである。

おわりに ~いつ何が起こると考えるべきか~

来る9月12日(フランクフルト時間)には欧州中央銀行(ECB)が理事会を開催する予定である。これに先立ち、大幅なユーロ安が生じる危険性がある点を忘れてはならない。しかしこれはあくまでも始まりに過ぎないというのが卑見である。拙稿でかつて述べたとおり、南欧勢におけるリスクはますます増大するばかりである。

単なる金融リスクのみならず、(上)で述べた水不足が更に続くようであれば欧州からの棄民すら生じる可能性がある。ドイツでは食肉税の導入が議論されており、更に2050年には穀物価格が23パーセント上昇する可能性を国連が公表していることもそれに拍車をかけかねない。まさに十字軍の再来が生じる危険性があるというわけだ。

中国や韓国といった東アジア勢のみならず欧州でも巨大なリスクが眠っていることに注意しなければならない。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。