シンカー: グローバルな景気・マーケットの不透明感はまだ強く、7月に続き、9月もFEDが利下げに踏み切る可能性は高い。実際に更なる利下げが行われた後、マーケットの期待に変化が起こるのかに注目である。悪い形は、更なる利下げが行われたことで、FEDも景気・マーケットの状態がかなり悪いことを認めたと解釈され、利下げの長期間の継続と、それにともなうイールドカーブの更なるフラット化が起こることだ。その場合、円高圧力が急激に強くなるリスクがある。現在は、2-10年のイールドカーブが逆転が意識され、この悪い形がマーケットに負荷をかけているようだ。一方、良い形は、更なる利下げが行われたことで、緩和効果が景気・マーケットの状態を改善させると解釈され、利下げも短期間で終了が見込まれ、それにともないイールドカーブがスティープ化に転じることだ。そのような良い方向への転換には、マーケットには利下げ局面の達成感が必要なようだ。現在、米国の10年物価連動国債の利回りは0.06%となり、FEDの利下げ期待がまだ大きくなかった年初の1%程度から急激に低下してきた。10年物価連動国債の利回りは実質金利(名目金利-インフレ期待)である。FEDが更なる利下げに踏み切れば、10年実質金利はマイナスになる可能性がある。米国の10年間の平均実質GDP成長率がマイナスであるとは考えられないため、10年実質金利がマイナスとなれば、マーケットには達成感が出て、緩和効果が景気・マーケットの状態を改善させる方向性が意識され始める可能性がある。逆イールドからマイナス実質長期金利へ、マーケットの注目がいつ移ってくるのかが注目だ。ただ、米中の貿易紛争が重く圧し掛かる状態は続くだろうから、良い方向への動きは時間がかかり緩やかかもしれない。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●トランプ大統領、対中追加関税を一部延期

USTRは昨日、9月1日に発動を予定していた中国製品に対する10%の追加関税のうち、ノートパソコンや携帯電話など一部製品への発動を延期すると発表した。USTRは声明で、コンピューター、ビデオゲーム端末、一部の玩具、パソコンのモニター、一部の履物や衣料などを対象とした関税の発動を12月15日まで延期するとしている。トランプ氏はメディアに対して、今回の延期措置はクリスマスなどの年末商戦に際して消費者に影響が及ばないよう配慮したと述べた。同日にトランプ氏はツイートでトランプ大統領はツイッターへの投稿で“いつも通り、中国は偉大な米農家から大規模な購入を行うと言っておきながら、実行に移していない。しかし、今回は違うかもしれない!”と述べ、今回の措置に対して中国が見返りに農産品を大量購入することに期待感を示している。また、中国も劉鶴副首相がライトハイザーUSTR代表とムニューシン財務長官と電話会談を行ったと発表した。米中の当局者が今後2週間以内に再び電話協議を行うとしており、対話姿勢は続けているようだ。

●イタリア内閣不信任投票の実施日決まらず

副首相のサルヴィーニ氏が率いる同盟が議会に提出した内閣不信任案について、12日に協議が行われたものの日程の合意はできなかった。連立相手である五つ星運動のディマイオ氏はフェイスブックで“同盟が自国に与えた損害について、国民は償うよう求めるだろう”と同盟を批判している。同盟は14日に不信任投票の実施を求めているが、不信任案で過半数の支持が得られなければ、マッタレラ大統領は新たな連立政権の模索か総選挙の実施の必要に迫られるだろう。新たな連立政権の可能性として五つ星とPD(民主党)が連携する可能性も報じられているが、PD内の意見は割れていることもあり、最終的には総選挙が行われる可能性が高いとみられる。

グローバル・レポートの要約

●米国経済(8/14):リセッション見通しを再検討…企業収益が重要に

2020年に米国がリセッション入りするという弊社の見方は変わらない。集まってくる証拠(経済指標など)は~弊社の見方を裏付けるものと、比較的そうでないものが混在~どちらかと言えばリセッションの可能性が高まった、と示している。弊社見込みの主な根拠になっているのは企業収益だ。直近の企業収益は非常に悩ましい内容で、2018年遅くから企業投資が弱いことが、より強く納得できるようになった。

●貿易戦争(8/14):容赦ない米中貿易戦争

上海で行われた米国と中国の閣僚級通商交渉は、プラス面よりマイナス面の方が大きかった。その後に、米国は追加関税の対象とする中国の輸入品を拡大すると発表、また中国を為替操作国と認定した。中国も米国農産物の購入を停止すると共に、人民元の下落を許容した。米国が中国を為替操作国に認定したことは、米国と通商交渉を行うほかの国としても、危険な前例となった。というのも、米国自身が設定したルールと一致しないからだ。米中間での貿易戦争が直近でしかも大きくエスカレートしたことで、2020年11月の米国大統領選挙までに合意に達する可能性は、50%未満に低下したと弊社はみている。

●グローバル・ストラテジー(8/13): 危険信号:中国の基盤は米国よりも不安定?

我々の目の前で起きている債券市場の信じがたいラリーについて、私がレポート執筆の明らかな誘惑に抵抗してきたことを皆さんが知ったら喜ぶだろう。比較的知名度の高い人々までもが、米国10年国債の利回りがマイナスに転じる可能性を今では真剣に考え始めているということを指摘したい。債券運用会社PIMCOのスタッフもまた、次の景気後退を想定し、債券相場が上昇するのも当然だろうと見なしている。しかし、私は貿易戦争や通貨戦争の激化を受けて中国に注目したい。中国の水面下で今まさに起きつつある混乱を、投資家は過小評価しているのではないだろうか。投資家が想像するほど状況は安定していないかもしれない。

●アセットアロケーション(8/15):シクリカルリスクが高まるなか投資家に不意打ち

債券利回り上昇を予想した投資家は判断を誤った: シクリカルリスクが高まるなか、米10年国債利回りは過去9ヵ月間で約150BP低下しており、FRBが利下げを実施し、予想以上にハト派的なスタンスに転じた7月末以降では35BP低下している。貿易戦争の新展開は見通しをさらに暗くしている。日本、スイスフラン、ドイツ、およびフランスのいずれでも10年国債利回りはマイナスとなっており、他の国々の利回りに下押し圧力を加えている。多くの投資家は逆に金利上昇に備えたポジション(米国債のネットショート)を取っていたため、この展開に不意打ちを食らっているようだ。その結果としてのネットショートポジションのスクイズが利回り低下を加速させている可能性がある。株式にボラティリティが復活: 今年に入って、FRBのハト派バイアスがVIX指数の大規模なショートを誘発していた(同指数は4月26日に底値をつけた - 2019年4月30日付のTHE FED'S DOVISH BIAS TRIGGERS MASSIVE SHORTS ON VIX参照)。最近では投資家の信頼感が懐疑に変わり、VIX指数のショートポジションは縮小している。今のところ、S&P 500指数は直近ピーク(8月26日の3025)から4.7%下落しているに過ぎない。しかし、市場の動きは2017年と2018年に似ているように見える。2017、18年のいずれでもVIX指数のショートポジションがピークに達した約3ヵ月後にS&P 500は新高値に到達し、それらの高値から2017年は10%、2018年は19%、それぞれ下落した。 下落した。MARI、もしくは中庸の美徳: 弊社のマルチ・アセット・リスク指数(MARI)は昨年9月にピーク水準に到達し、当時の投資家が強気過ぎることを示唆していた。これは非常に有益な警告シグナルだった。現在は、市場のポジショニングは中庸(MODERATE)でリスクは限定的であることを同指数は示唆している。とはいえ、過剰なポジショニングだけが大きな市場変動の要因というわけではない。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司